視線が絡んで離せなくなる。そうなれば自然と互いの距離は縮まって、男の手が耳に触れた。 途端に漏れそうになった声を殺して俯き加減に身じろげば、空気が柔らかくなるのが分かった。
「骸クンってさあ、耳弱いよね」
――触るといつも肩が跳ねる。 そんな声を指摘されてとっさに睨み付けたが、完全に否定も出来ないのが悔しい。確かに自分は耳に触れられるのは弱い。いや、少し語弊があるだろうか。正確には耳だけではない。目の前の男に、――白蘭に触れられるのはどうにも心臓がもたないのだ。
「可愛いね」
誰が、という否定の言葉は発する事が出来なかった。いきなり口付けられ、言葉は全て吐息に溶けた。 柔らかな粘膜に口内を探られ、丁寧に舐められる。上顎を刺激されて歯並びをなぞられ、軽く舌を吸われてから唇を一舐めされた。息つく間もなく再び深く口付けられて、骸はきつく目を閉じた。
「――ン……はッ、ぁ」
目を閉じていても分かる。白蘭が今どんな顔をしているのか。それから、自分の顔が真っ赤に染まっているだろうという事も。 苦しい、でも気持ちいい。満足に息を吸えないこの状況にさえ、自分は確かに感じていた。どうしようもない程に思考はドロドロに溶かされてしまったようだ。
いつの間にか回されていた片方の腕に腰を引き寄せられ、更に白蘭との距離が縮まる。もう一方の手は後頭部を押さえられている為――と言っても本当に優しく、だ――息をするために唇を離す事すら叶わない。
「…ッ、あ」
息苦しさに耐えかねてうっすらと目を開ける。ぼやけるほどの至近距離に白蘭の顔があり、生理的な涙で滲む視界の中、必死で目を凝らす。 白蘭のアメジストのような瞳は閉じられ、長い睫毛がその縁を覆っている。形の良い眉は寄せられていて、時々漏れる息づかいと水音が更に体中の熱を上げた。
わざとらしく唇を吸われてからゆっくりと離されたそれを少しだけ残念に思いながら、力の入らない体を白蘭に預ける。
「ふふ、腰抜けちゃった?」 「馬鹿じゃ、ないですか」
整わない呼吸のせいで、嫌味の一つも満足に言えやしない。それを見た白蘭にまた笑われて、強い力で抱きすくめられた。
(2011/06/19) 微妙な所で終わる。
2011.06.18 (Sat) 21:01
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