short | ナノ




※ホワイトデー記念
※まずはこれから読んで下さい



 「そういえば黄瀬君、あの先輩からは何か貰ったの?」
 「えっ!?」

 がたりと自分で響かせた椅子の音にビビりながら、オレは目の前で柔らかく笑う瞳を凝視する。問い掛けてきた彼女は、中学から一緒のオレにとって一番話をしやすい女の子で、確かに色々話はしているのだが。

 「なっ、なななん、のっ! こと……」
 「え、やだ、惚けないでよ。黄瀬君あげたんでしょ、好きな人にお菓子」

 全てを見透かしているようなそんな眼差しに、頭を抱えて蹲る。
 まさか、そんな。いつから――とかは今更どうでもいい。けどバレた? というか、もしかしてオレ、ホモだとか思われちゃってるのか?
 うわわわとか思いながら、顔から血の気が引いてくるのがわかる。するとその様子に慌てた彼女が、苦笑と共に小声で続けた。

 「何となく…ね。黄瀬君、恋人いるんじゃないかなって、バレンタインのとき思ったんだ。黄瀬君の雰囲気、そんな感じだったから」
 「雰、囲気…? オレ、そんなわかりやすかったっスか?」
 「まあ……私からしてみれば、それなりにね」

 義理チョコだと言って彼女はオレにバレンタインチョコをくれたけど、あれは多分、本命チョコのつもりだった筈だ。渡す直前の様子が、何度も経験したそれと酷似していたから。でも彼女は告白してこなかった。何かを察した様子で首を振り、酷く明るく笑っていた。

 「私は偏見なんてないし、むしろ凄くお似合いだと思うけど……世間に受け入れられないって事実は、多分変わらないと思う。だから、」

 彼女は、あの時点でわかっていたんだ。告白しても、オレが断るってこと。それから、オレには何か、大切なものがあるんじゃないかってこと。

 「何かあったらいつでも言って。私、黄瀬君と先輩の支えになれたらって思ってるから」

 だから静かに身を引いて、オレを困らせないようにしてくれた彼女を抱き締めた。精一杯の、感謝の気持ちを込めて。
 微笑む彼女を、愛おしく感じる。こんな友人を持てて、自分はなんて果報者なんだろうと――恋人の顔と、彼女の顔を頭の中に並べて思った。







 「……なぁ、」

 その日の帰り道、いつものようにオレを迎えに来てくれた恋人と肩を並べて歩けるという幸福に浸っていたら、その恋人が不意に立ち止まって呟いた。どうしたっスか、と倣って立ち止まり振り返れば、そこには少し照れくさそうな森山センパイの姿。

 「今日、ってさ、その……あれ、だよな」
 「?」

 歯切れの悪い森山センパイなんて、珍しい。普段はさり気無くオレをリードしてくれて、とてもしっかりした頼れる恋人、という感じだから余計に。
 あれ、と言われてもわからなかったオレは、きょとんとして首を傾げる。そんなオレに何故か呆れた様子で溜息を吐くと、脱力した森山センパイは苦く笑ってこっちに近付いてきた。

 「お前はどっか抜けてるんだよな、いつも」
 「なっ、失礼っスね! センパイ程間抜け面じゃないっスよ!」
 「誰が間抜けだ」

 すっと手を上げ、森山センパイの手がオレの頬に伸びる。けれど周りに人がいるということを思い出したのか、その手はすぐに下ろされてしまって――何となく名残惜しいような、でも仕方がないっていうのはわかっているから、何も言うことは出来ない。

 「今日が何の日か、本当にわからないのか?」
 「えっと…、まさか、ホワイトデーのこと……言ってます?」
 「それ以外何があるのかオレには不思議だけど」

 唐突に鞄を漁り始めると、そこからセンパイが取り出したのは小さな箱。リボンが掛かっていて、プレゼントだと思わせるそれは、紛れもなくオレに宛てられたものだった。

 「これ、お返し。バレンタインのとき、お前オレにくれただろ、激甘チョコレート」
 「げ…、やっぱ甘すぎたっスか…?」
 「あれは完全にお子様向けの甘さだったな」

 マジか……。
 項垂れるオレを、森山センパイがどんなふうに思っているのかはわからない。でも、お返しをくれるってことは、少なくともチョコをあげたことは正解だったと考えて問題ないだろう。

 「それだけお前がオレを好きってことかと思ったよ」
 「はぁ!? べっ…つにっ、そういうことじゃ…!」
 「いいから、開けて」

 頬に溜まる熱を鬱陶しく思いながら、ちょっと腑に落ちないこともあるけど取り敢えず言われた通り、リボンを解いて箱を開ける。そっと蓋を持ち上げれば、そこにはキラリと光る綺麗な銀色があった。

 「ピア…ス?」
 「実は束縛されるのが好きだとか、恋人から貰ったものを身に付けておきたいタイプだとか、そういうの全部、オレにはわかるからさ」

 だから、ピアスを送った。指輪はあからさますぎるしプレイ中は邪魔だろうから、オレが必ずつけているピアスを。

 「オレも卒業して、前程は一緒にいられないし、やっぱそれは切ないというか……ま、これでお前がオレのことずっと考えてくれるようになったら、とか思って買ったんだけど」

 ちょっと勝手過ぎたか、と申し訳なさそうに眉を寄せる森山センパイが、そんなこと思っちゃう森山センパイが、どんどんオレを夢中にさせていく。

 「……センパイに、付けてもらいたい…かも」

 ぽつ、と零せば驚いたように目を見開かれて、でもすぐに、嬉しそうに破顔するセンパイは、その事実に気が付いていないのだろうけど。

 「じゃ、このままオレの家、来るか?」

 答えるまでもないその誘いに頷くと、オレもまた笑みが浮かんでしまって。

 「オレって、幸せ者すぎますよね」
 「そうか?」

 信頼できる友達と、優しい恋人に囲まれて。
 男同士で付き合うということに、最初は不安を感じていたけれど、少しずつ自信もついてきた気がする。それは多分、今朝彼女に言われた言葉も強い意味を成しているのだろう。

 「センパイ、」
 「ん?」
 「大好きっス」

 周りに聞えないようにこっそり告げれば、オレはお前のこと愛してるぞ、なんて返されたから、そんな不意打ちに顔を染めてしまうのも馴れなきゃな、なんてぼんやり思った。




20130318
―――
何で雑かって、頭痛いんです。頭痛が。
前半の文章と後半の文章、全く繋がりがないですね…すんません…
バレンタインのときのモブ子ちゃんが実は気に入ったんで無理矢理出したってだけですごめんね!
因みに森山センパイは卒業済で、多分現在私同様暇人でしょうね(一緒にすんなや。




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