本来のラスボであるヴァン・グランツの代わりに異世界の使者であるゴブリンが登場した。
行く先々に姿を現しパーティを不快のドン底まで叩き落してくれる奴は、正しくラスボスに相応しい。
独り善がりな熱演も同じ言葉の繰り返しなので、皆それが終るまで持参した水筒から紅茶を入れてティータイムへ突入した。
「牢屋に入れたはずなんですけどねぇ…」
出没しては牢屋に打ち込まれ、脱獄を繰り返すゴブリンにパーティのメンバーは
「まぁ、ゴブリンですから!」
「ゴブリンだしね。」
「人間じゃないから仕方ないよ!」
「自分が世界で一番可愛いヒロインだと思っている痛い妖怪ですけどね。」
緑っ子(上からイオン、シンク、フローリアン、シアン)の辛辣な言葉に各々が頷く。
途中でパーティに参加したシアン様は、ダアト式譜術を予告無くゴブリンにぶっ放した経歴の持ち主だ。
それでもしぶとく生きている彼女は最早人間ではないだろう。
「ジェイドの旦那はアレがこの世で一番可愛いって豪語してたけどな…」
ポツリと呟かれたガイの言葉に
「根暗マンサーの趣味は規格外なので基準にしないで下さい。」
マルクトはアレを人間と認めてませんと言い切ったアスランさん。
「フリングス、あの奇妙な生命体は貴様の事が好きみたいだから何とかしてこい。」
トリップ少女、神野マリアを奇妙な生命体呼ばわりし、嫌悪するジョゼットはアスランに追い払って来いと命じた。
私とアリエッタとディストは彼等の遣り取りを見ている。
まぁ、ジョゼットにしてみればアビスで公式CPに認定されているのだから目の仇にされても仕方ないのかもしれない。
が、この二人ってば甘い空気など皆無で、冷笑を浮かべた氷点下の戦いを繰り広げた。
公式CPは何処に行ったのだろう?
てーか、アスランさんってばジョゼットが初恋なんじゃなかったのかい?
と突っ込みを入れたいが入れたが最後とんでもない自体が待っているような気がするので放置した。
誰がゴブリンの所へ行くかお互いお茶を飲みながら押し付け合う仲間達。
そんな私達に切れたゴブリンは
「ちょっと!ヒロインである私を置いて何お茶してるのよ!!」
キィっとヒステリックに非難の声を上げた。
各々は仕方が無いとばかりに武器を手に取り戦闘態勢に入る。
「外殻大地降下を邪魔し、ローレライ解放も邪魔するなんて良い度胸だね。」
私はアスランさんをチラリと見て作戦を実行する事にした。
私としてはジョゼットと本式CPを公言すれば良いのにと思ったのだけれどもアスランさんの背後に時たま現れる黒い靄が怖くて提案出来ず仕舞いだ。
だって我が身が可愛いんだもん。
アスランさんはキラキラした良い笑顔で
「ストーカーのように付き纏うのは止めて下さい。ハッキリ言います。迷惑なんです。人間に付き纏われるならまだマシも妖怪にストーキングされるなんて人生の恥です。根暗マンサーの所にでも行ってあげたらどうですか?」
猛毒を吐いた。
根暗マンサーの所って即ちあの世じゃないか!!
アスランさんの猛毒に慣れているのか私以外のパーティメンバーは一同頷いている。
ゴブリンは何を思ったのか
「そこの女に言わされてるのね!それとも人間モドキに何か吹き込まれたの?私が絶対に助けてあげるから!!」
頓珍漢な台詞を吐いた。
そこの女はジョゼットだろう。
人間モドキは私か?
ゴブリンの言葉に
「私の愛する人をハルキ殿を侮辱するとは…万死に値します。」
私への愛の告白と抹殺宣言をした。
固まるパーティとゴブリン。
逸早く復活したのは緑っ子達で、アスランさんに私の所有権を抗議していた。
それに続きジョゼットや自称保護者のディストに男なのにお姉様と呼ぶアリエッタが参戦。
地核に閉じ込められている筈のローレライまで参加する始末に私は平和だなぁ…と思った。
話が間逆にズレている事に気付いたゴブリンが
「何で!?アスランに相応しいのは私なんだよ!そんな人間モドキがどうして隣りに 」
全部言う前に銀の剣が舞った。
頭と胴が切り離されたゴブリンに
「ミューファイアー」
トドメとばかりにミューファイアを喰らわせ灰にしたミュウ。
可愛い形をして一番最強で残酷なのは子チーグルなのかもしれない。
邪魔者がいなくなったとばかりに私達はサッサとローレライを解放した。
解放したローレライを捕まえてゴブリンの愚痴を散々文句付けたパーティメンバーと涙目?になっているローレライ。
どこのコントだよと心の中で突っ込みを入れつつ何故か
《我はハルキの倖せを願っているぞ。銀の青年と倖せに暮らせ…》
勘違いしたまま音譜帯へ還って行った。
爆弾を落としていかないで欲しいぞローレライ!!
私の今の性別は男なんだがな!
かくしてある意味ラスボだったゴブリンを倒し、ローレライをアッサリと解放して世界は平和になったのである。