ルーク・フォン・ファブレのレプリカとして第二の人生を歩む事になった橘ハルキです。
正直やってらんねぇ!
多少オタクでゲーマーだったのは認めよう。
だが、寄りによってテイルズシリーズで一番悲劇の主人公の役割を負わされるとは思わなかった。
被験者の赤鶏には屑呼ばわりされ、偽姫にはアッサリと掌を返され、自称軍人の襲撃犯と死霊使いには散々見下され、自称使用人兼育て親で親友にはアッサリと見限られ、守護役には死ねと暴言を吐かれて棄てられた上に瘴気の為に死ねと強要されて一生が終わるのだ。
そんな先の見えた人生を誰が歩みたいと思う?
私は絶対に嫌だね。
傲慢な被験者の生贄にされるなんざ真っ平御免だ!
ハッキリ言ってやる。
私と云う異物(イレギュラー)の前に世界を跪かせてやるさ。
屋敷に監禁された7年間の間に私は必死に勉強した。
先ず言葉が通じないので聞き取りする事に難儀したよ。
次に文字だ。
文字が読めなければ本を読む事すら出来ない。
文字が読めれば屋敷にある本を読み漁って知識を増やした。
勿論、上流階級の礼儀作法や帝王学等を徹底的に詰め込んだ。
毎日が勉強漬けで辟易したが将来自分が生き残る為だから仕方ない。
無論、メイドや白光騎士団達に対する接し方も愛想良く庇護欲を掻き立てるように仕向けた。
父上や母上も私には甘い。
ガイやペールも私に絆されて私に忠誠を誓っているみたいだ。
過保護過ぎるのがたまに傷だが…
きっと将来は俳優になれるかもしれないと思う演技力だ(笑)
それにしても予言に傾倒している愚王と偽姫ナタリアの穴だらけの政策に私はキムラスカは滅びの道を辿るなと思った。
まぁ、自分の地位と居場所の地盤固めの為に色々と現代の知識を駆使して政策を打ち出したのは、この身体が12才の時だ。
赤鶏の為に敢えて私は政務者用にハルキ・ヴィスペリアと名乗る事にした。
赤鶏よりも出来の良い政務者である私をキムラスカは手放さないだろう。
私に害を成せば恩恵を受けた民が黙ってないからね。
私は一冊の本を手に取った。
著者ジェイド・ヴァルファのフォミクリーの理論を記載した本。
この本が私を悲劇の主人公に仕立て上げてくれるのだから笑いが漏れそうだ。
やっべ、マジで爆笑しそう。
そんな時に都合良く部屋に入ってきたガイが私に駆け寄り
「ルーク様、どうされたのですか?」
心配そうに私の顔を覗き込んだ。
何処に出しても恥ずかしくない使用人になったなガイ!
ゲームの中では散々だったけどな。
私は笑いを堪えるのに必死で肩を震わせた。
ガイは私が傷付いていると勘違いしてくれたようだけど結果オーライだよね。
「ガイ…俺、人間じゃ、ない。」
一冊の本をガイに見せる。
ボロボロと涙を流す(演技だけど)俺に戸惑ったようなガイに
「俺、レプリカだった。記憶喪失で言葉も理解出来ない、歩けないなんておかしいって思ってたんだ。俺、偽者で人間でも無かったんだな。」
ギュッと本を握り締めた。
「ガイ、ごめんな。俺、お前から親友を奪った!父上や母上や皆からルークを奪った!俺…もう此処にいる資格ない。」
嗚咽雑じりの震えた私の言葉に
「そんな事ない!ルークお前が悪いんじゃない。お前は何も知らなかったじゃないか!此処に戻ってきたばかりのお前は殆ど赤子同然だった。俺の親友はお前だルーク!」
ギュッと私を抱き締めるガイの胸に頭を寄せた。
「…ありがとう。でも、俺はきっと破棄される。」
万が一破棄される様な事があればトンズラするけどな!
「ガイに紛い物の俺でも親友だって言ってくれて嬉しかった。」
儚くフワリと笑顔を健気に見せた俺に
「俺が絶対に守ってやるから!」
ガイが復讐を捨てた。
ふふふ、あはははははは!
その言葉が聞きたかったよ。
これでガイは私の盾になるね。
鬼?
何とでも!
寧ろ褒め言葉だね。
世界の生贄にされるなんざ御免だ!
自分の命が惜しくてダアトに亡命した赤鶏の場所なんて無くなるんだよ!
あっは!
これがお前と私の格(でき)の違いなのさ。