有罪とは、罪のあること。
ずっと一人の男として愛しているの。
何度この身に流れる血を恨んだ事か…。
闇ちゃんの傍に立つのに相応しいのは私以外誰もいないのに、どうしてアノ子を選んだの?
甕智彦(ミカチヒコ)の血統だから?
それとも木花咲耶姫の生まれ変わりという突拍子も無い事を信じているの?
火を司る太古の女神である彼女の生まれ変わりだと?
在り得ない!
認めない!
許せない!
フツリと湧き上がるのは黒い感情。
そう念にも似た醜悪な存在。
一族の誰もが私を正の巫覡だと謂う。
しかし私は負の巫覡だと誰よりも理解していた。
アノ子は、須勢理姫を呼び出せる稀有な正の巫覡だけれども闇ちゃんの抱える闇を理解する事なんて出来ないわ。
そう…私だけが闇ちゃんの闇を理解出来るの。
女はウッソリと嗤う。
まるで何かに獲り憑かれたように狂った未来を描きながらクツクツと喉を鳴らして嗤った。
神剣集めとして彼、布椎闇己から呼び出しされる事には慣れた。
最初は兄のオマケとして連れ回された記憶があるが、最近では私単体で連れ回されている。
「で、今回は何なのさ?」
不機嫌丸出しの私の問いに
「サクラの力を借りたい。」
単刀直入に用件だけを言った。
何ていうか、もっと言葉を取り繕って欲しいとか、それ以前に私を取り巻く状況を先ず理解しようぜ!とか、言いたい事は多々あるが如何せん闇己は常識が欠落している。
「何で?とか敢えて聞かないけどね…闇己君さ、毎回誘拐紛いに私を拉致って行かないで欲しいんだけど。健ちゃんに怒られるの私なんだよ?お願いだから許可取ってからにしてよ。」
どうせ何泊かするんだろうし、その辺事前に説明さえしてくれれば健ちゃん達から文句言われないのだから。
事後承諾になると健ちゃんのお説教が待ってるのは確実で、毎回君も一緒にお説教受けてるのにどうして拉致るのかな?
「急に寧子から仕事を頼まれたんだ。それにお前を連れ出すのにどうして七地の許可がいるんだ?」
心底不思議そうな顔をする闇己に私は溜息を一つ吐いて
「両親は黙認してるけどね、普通未成年が何泊も外泊するなんておかしい事なの!健ちゃんは、私の保護者と言っても過言じゃないの。」
懇々と説明するが闇己は何処吹く風とばかりに聞き流していた。
ぶっ飛ばして良いか?
「……ブラコン。」
ポツリと零した闇己の言葉に私は引き攣った。
お前もシスコンじゃねーかと突っ込みは入れない。
どうせ口喧嘩に発展するのがオチだからだ。
「…どうどでも。で、今回は何処に行くの?須勢理姫の力を借りるとしてもコントロール出来てないのに難しいと思うけど?」
今まで何とかやって来れたのは、一重に兄の健生と私に獲り憑いているらしい真名志のお蔭だろう。
ハッキリ言って自力で須勢理姫と会話出来る特殊能力はない。
力を使っている時は、記憶が飛んだりする事が多々ある。
「沖縄にある久高島のフボー御嶽に行って欲しい。あそこは男子禁制だからな。」
闇己は今回の寧子からの依頼を簡略的に述べた。
事のあらましは久高島のフボー御嶽の巫女(ユタ)の力が無い為、祭事を開く事が困難との事。
秘祭な為、水を司る神を受け入れられる器を持つ巫覡としてサクラの名前が挙がったらしい。
最初は久高島から布椎家に依頼があったそうだ。
闇己も最初は私にそんな大役が務まる筈がないと断りを入れたそうだが、寧子からお願いされたとの事。
本家を取り仕切っているのだからある程度の口出しは仕方ないとしても何か作為を感じずにはいられなかった。
この時、もし気付いていたなら久高島で起きる壮絶とも言える経験をする事はなかっただろう。
まるでそこに罪があるかのように…
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