Otherside | ナノ


▼ 3 ひとり調べ

二日目の夜、シスタは散々な目にあった。
悪魔は寝室のベッドに膝立ちになり、四つん這いのシスタの口をこじ開け誇らしい逸物を挿入したのだ。

一度想像したらベルンホーンは止まらなかったのだろう、激しく腰を振り喉奥まで自身を突き立てていった。

「ンッ…ぐ…ぅッ」

青年は生理的に瞳を濡らし、口をすぼめて訳が分からぬまま揺さぶられる。
尻を犯されるよりも遥かにつらく何度もえづいた。

昼の爽やかな面影を完全に忘れさせるほど、ベルンホーンは鬼畜な振る舞いで喉奥に射精した。

「ああ、シスタ……ッ」
「ん、ぅう゛っ!」

彼は大量の精液を放出した。混乱したシスタの口はわずかに開かれ、流れ出る白濁液は口内の舌上にも溜まっていた。

「疲れたか? きちんと全部飲むんだぞ」

前後が繋がっていない悪魔の台詞にも、青年は一時黙ったあと従う。どう形容すべきか分からない、不快な舌触りと濃厚な味が精飲の邪魔をした。

ベルンホーンは満足気に見届け、あぐらをかいている。シスタを引き寄せると、背後から抱きかかえて肩に額を擦りつけた。

そこに口づけをし、しつこく頬にもする。どうやら愛しさが増したような仕草だ。

「お前は度胸があるな。覚悟を感じるよ。たいした奴だ」
「……私が抵抗したら、お前は喜ぶだろう」

的確な指摘は図星で、ベルンホーンは快活な笑い声を上げた。

「もちろん素直に受け入れてくれたほうが俺は何倍も嬉しいぞ。本当だよ」

反応しなかったシスタは顔を後ろに向かせられ、唇を捕らえられた。さっきまで咥えていたものとは違い、男の舌は情熱的な愛撫をしてくる。

なぜわざわざ何度もキスをするのか。
性交だけのほうが気が楽だった。戯れにすぎない悪魔の行為に人間らしさが垣間見え、やけに気に障った。



夜通し抱いたあと、体力など関係ないらしいベルンホーンはどこかへ出かけた。
 
まだ口の中に違和感があり、目を閉じると思い出しあまり眠れなかったシスタは、朝は早めに起床した。

自室の洗面台で、うがいを繰り返す。
鏡を見つめると状況よりも元気そうな黒髪の青年がいた。

「私は何をやっているんだか……」

シスタは感情をあまり出さない冷静な性格だが、本来皮肉屋で強気な面もある自分を抑え、ここでは従順に振る舞っていた。ベルンホーンと知り合う必要があるからだ。

かといって、懐に入り媚びるようなことはできないし、するつもりもない。

どう付き合うかはまだ考えあぐねていた。策略はあの男には通じないだろうし、このまま平坦な態度がいいのかもしれない。

思考しながら、初めて屋敷に一人になったシスタは部屋の外に出た。
監視魔法で見張られている可能性を考え、家主を探ることはせずに、大理石の広間のガラス戸から、広大な庭園を眺めていた。

部屋着の白シャツとズボン姿で、線の細い青年が台所へ向かう。
そこには赤いオレンジジュースが置いてあった。近くのメモを読む。

魔族の文字がなぜか理解できたシスタは、「今度は俺がお前のために搾りとったぞ」というくだらない文面を目にし、呆れた顔をした。

ジュースを手に取り、自然と口に運ぶ。
その時だった。遠くから玄関扉の開く音と足音が聞こえたのは。

シスタはメモをポケットに押し込んだ。
顔を上げればすでに扉前に全身黒いスーツ姿の男が立っている。

魔族らしい白肌に艷やかなブラウンの髪を横分けにした、中性的で容姿端麗な青年だ。

「おや? ベルンホーン様はいらっしゃらないんですか」
「あ……彼はもう出かけたようだ」

近くにやって来て、自分より背の高い男に見つめられた。おそらく使用人にしては若いのに威厳があり、観察の眼差しをしている。

ベルンホーンに勝るとも劣らない豊富な魔力を発していて、高位魔術師であるとも察した。

「はじめまして。私はエアフルト家の使用人の総指揮を取るデシエと申します。あなたはシスタ、ですね?」
「そうだ。よろしく」

会釈をしたが手を差し出されたため、黒手袋の手にぎゅっと力強く握られた。

まさか彼が執事なのかと考えたが違ったらしい。料理人はすでに手配したと伝えられたが、予期せずどんな執事が良いかを尋ねられた。

「え? 私の好み? そんなのは何でも構わない」
「いいえ。ベルンホーン様はあなたの嗜好を完全に把握しろと命じられましたので。どうぞご遠慮なく」

にこりと機械的な笑みを向けられ困ったシスタだったが、会話が終わらないと思い正直に告げた。

「では紳士的な老人で頼む。あまりお喋りでない者がいいな。教養もあるほうがいい」
「分かりました。ぴったりの者がおりますのでご安心ください。さっそく連れて参りましょう」

奴隷のシスタに丁寧に約束したデシエは、その後も必要なものなどを聞いてきた。
食材以外に特になかったが、冥界や魔界の暮らしが分かる読み物があればと頼んだ。

話がまとまり、業務に多忙そうな使用人は帰り際テーブルのジュースを見やる。

「あれはあなたが?」
「いや……ベルンホーンが作ってくれたんだ」
「そうですか。あなたは好かれているようですね」

薄っすらと笑う様子が気になったものの、シスタはしばらくしてまた一人になった。





一方、ベルンホーンは昨日訪れた都市エラクワにいた。
向かった先は街の奥まった場所にそびえ立つ霊魂管理局だ。

裏に山があり厳重な柵に囲まれた、閉鎖的でくすんだ緑色の建造物に入る。
入口の警備に身分証を提示し、ベルンホーンは受付へと向かった。

一階カウンター前に立つ眼鏡の男は鋭い瞳で会釈をする。

「おはようございます、エアフルトさん。お仕事ですか?」
「いや、少し調べたいことがあるんだが、いいか」

制服をまとった涼やかな顔立ちに頷かれ、彼は説明をした。

「名簿にトロイエという中級悪魔は載ってるか」
「申し訳ありませんがここには中級の記録は保管されていないのです。二層の管理局か役所へ出向いてください」

予想通りの返答ではあるものの、下層へ行きたくない上級悪魔はなんとか調べられないかと食い下がる。しかし男は規則だとして要求を突っぱねた。

「くそ、仕方ないか。じゃあな、ユーゲン」
「力になれずすみません。エアフルトさん、お時間がある際はぜひまた我々の案件にご協力ください。…そう言えと所長に言われていまして」

途端に愛想よく微笑む職員に適当に相槌をうったベルンホーンは、手を上げて颯爽と去っていった。

やはりそう簡単にはいかない。
その足で冥界二層へと続く、上空の透明なトンネルへと向かった。

下層と表現するとはいえ、中級の住む二層は方向的には上にあるのだ。そしてさらにその上に下級の住む三層がある。

その上が地上となっていて、魔界はさらに別のところに位置している。

冥界とは死者の国であり、魂の選別を行い、行き先が振り分けられる地だ。

ここに住む魔族達はほとんどが仕事のために魔界からやって来る。ベルンホーンもその一人だが、魔界でも一等地で育った彼は下層に出向くことを好んでいなかった。



先端が空の彼方に消えているトンネル入口で切符を買い、ベルンホーンは金属の高速列車に乗り込んだ。
ものの数分で到着した先は、すぐに一層とは異なる雰囲気だと分かる。

味気ない色合いの駅前はガラの悪い連中がたむろし、座り込んだり背を曲げて話しこんでいた。
外見が目立つ上級悪魔を見て一瞬眉をひそめる者もいたが、近づくとその圧倒的な力の差に恐怖し、すぐに道が出来た。

管理局の日時を調べると、今の時間は閉まっている。苛立ちつつもベルンホーンは街の市役所に向かった。
狭い住宅街の中にぽつんと建つ高層建築だ。

「そこ! ちゃんと並んで!」

だだ広い待合室は屈強な者やひょろっとした多種多様な中級悪魔でごった返す。
職員は一層では考えられない大声を出して、皆を整列させようとしていた。

ベルンホーンも郷に従い列に並びようやく順番を得る。
高貴な匂いを感じ取った中年職員は、さびた眼鏡を直してお辞儀をした。

「あの、どちら様です? こんな場所に何か御用でしょうか」
「すまない。聞きたいことがあるんだが、こういう名前の者は二層に所属しているか」

走り書きとともに、上級悪魔は高価な紙幣を握らせた。
目をひん剥かせた職員はすぐにしまい、表情を崩して「いますぐお調べいたします」と書類を漁り始める。

待つこと五分。結果は残念に終わった。

「うーん、いませんねぇ。個人名も家名もヒットしません。確かですか? 他に情報などは」
「それが名前しか分からなくてな。……おかしいな」

シスタが嘘をついてまで命をかけ冥界へ来たとは思いづらい。あの魂の輝きは本物だ。
だが転生前にせめて記憶を見ておくべきだったと後悔をする。浪漫を重んじ、また自分の直感を信じた為あえてそうしなかったのだ。

台に寄りかかり考えていると、隣の隣のカウンターで男が騒ぐのが聞こえた。

「ーーだから、何度も言ってんだろう! 俺の仲間が帰ってこねえんだよ、あいつの名前はディーエだ! あれだけ上玉を持ち帰るって豪語してたのにもう何日も音沙汰がねえ、おかしいだろ! 早く見つけやがれ!」

ベルンホーンは顔をしかめて眺める。吠えているのは確かにあの中級悪魔と似た類の品の無さだ。
輩の振る舞いを迷惑そうにしている正面の職員に、こっそり尋ねた。

「あの人最近毎日来るんですよ。地上での行動までこちらは把握なんて出来ないのに。派遣も救援も行えません、魂狩りは自己責任ですからね。それにあの人前科があって執行猶予中だから自分で見に行けない、お前らが行けってしつこくて困っちゃいますよ」

愚痴に対しベルンホーンは険しい顔つきになった。
これは面倒事だ。自分がつい昨日魂を売り払ったディーエの行方を、追っている者がいるとは。

名刺を取りだし、職員に渡した。

「悪いが、力になってくれないか。金は払う。あの騒いでいる中級悪魔の情報をくれ。そして何か起きたら俺に知らせてほしい」

話のわかる職員は夢中で頷き、約束は取り決められた。本題であった悪魔トロイエのことも、引き続き調べてもらうことにした。

この不可解な件は一層に戻ってからも自力で調査しないといけない。

結局思ったものとは異なる情報を掴み、市役所を出たベルンホーンは控えめに息を吸って吐いた。

ここは空気が悪い。漂う瘴気が自分とは合わず、早く戻ろうと考える。

喧騒に外観がごちゃついた街を抜け、トンネル駅へ向かっていると、通話装置が振動する。
ジャケットの中から取り出した楕円形の魔石が点滅していた。

これは遠くにいても互いの魔力で会話ができるものだ。相手は用件を言いつけた執事だった。

「デシエ。ああ。どうだった? ーーはは。うるさいな。今度は本気だ。ーーああもう分かったから小言はやめてくれ、今疲れてるんだ。……えっ? いや、いい。あいつがどんな執事を選んだかは、帰ってからの楽しみにするとしよう」

言葉尻を弾ませた悪魔は通話を終え、足取りも気づけば軽くなっていった。



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