Undying | ナノ


▼ 30 欲 ※

葬儀は翌日行われることになり、それまで別荘で休むことになった。
夜、シグリエルは一人で部屋にいた。弟はきっとまだ当主と過ごしているのだろうと考える。

シャワーを浴びながら、浴室の壁に備えられた鏡を見た。少し伸びた金髪から滴が落ちる、淀んだ目つきの男と目が合う。
希望に反して死霊による苦しみは起こらなかった。自分は人ならざるものに近づいているのかもしれない。

そのまま湯を浴びてじっとしていると、外から物音がした。遠慮なく扉が開かれ、全裸の兄の前に現れたのは、塞ぎ込んだ表情の弟だった。

「……アディル」
「兄貴。……体洗ってくれ」

そう呟いた弟は扉に手をかけたまま突っ立っている。
シグリエルは近づき、弟の着ていたシャツをゆるやかに脱がせた。子供にやるように甲斐甲斐しく下もおろしてやり、裸にしてシャワーのそばに招いた。

泡をつけて後ろから肌を撫でていく。余計なことを言わない兄の丁寧な仕草に、アディルは体を震わせるのを我慢した。

「んっ……」

背の高い兄に顎を上向かせられ、キスされるかと思ったら首を大きな手が滑り洗われる。
鼓動も呼吸も自分にはないのに、胸が上下しそうになった。

「どうした、気持ちがいいか」
「……あっ……ああ」

素直に頷いた弟が愛おしくなり、シグリエルは左胸に手を滑らせる。緩急をつけて揉むとアディルは感じ始めた。
指の腹で乳首をいじると、吐息がもれ腰が微かに反応する。自分の下半身を押し付けて続けた。

「あ…兄貴、待って…くれ」

顔だけを振り返り、濡れたように見つめる金色の瞳を前に、シグリエルは堪えた。
唇は後で味わおうと、弟の胸を揉み込んで徐々に割れた腹筋に泡をつけていく。
腹を撫でているとそこに自分を埋め込み、種をつけたくなってくる。

邪な考えを主張する性器を見下ろし、シグリエルは床にしゃがみこんだ。
弟の体を壁に押し付けて、尻を向けさせる。両手で鷲掴み、指で開かせた桃色のくぼみに自分の舌を這わせた。

「アッ、な、なにっ、やめ……ろって…ッ」

アディルは腰をがくがくと揺らし、急な舌の舐める感触と刺激に襲われた。
逃げようと思っても、意志の強い兄の手と唇に責められて、どうしようもなく服従してしまう。

「あっ…んぁ…っ……ひ、ぁあっ」

顔を突っ伏して喘ぎ、快感を受けている。シグリエルは股の間から手を差しこみ、弟のペニスを包み揉みほぐした。両方を同時にせめてやると、もっと卑猥な声が絶えまなく届く。

「ああ、兄貴っ、それ、だめだ…っ……や、やだ、んあ、ぃ、イクっ」

立ったまま下半身をゆだねたアディルは達した。精通する前のように細かく手の中で痙攣のみをするペニスが愛おしくてたまらない。
シグリエルはそれを咥えたいと思った。口の中に含み、弟の精液が出るまで吸いつきたいと考えた。

だから実行した。アディルはされるがまま、反転されて今度はペニスを口内で犯される。

「ん、んぁ、兄貴、ひぐっ、いくっ、またいくぅっ」

兄の金髪を遠慮がちに触り、顔の前で腰を震わせた。
しばらく放心状態だったが、シグリエルは愛撫をやめず足りない様子だった。

だがそんな兄に思わぬ言葉が浴びせられる。

「俺もするよ……そこに立てよ、兄貴」

まだ刺激を受けているような赤らんだ顔で、アディルは自分も男だと証明したいのか、間違ったことを言い出した。
壁に追いやられたシグリエルは、跪いて自分のものを咥える弟を興奮と緊張で、興味深く見下ろした。

ペニスを持ち、躊躇なく口に含んで舐め始め、吸い付いてくる。
あの液をあらかじめ含んだ口内は、ほんのり温かい温度とねっとりとした感触が気持ちよく、シグリエルの息がだんだんと上がっていく。

「ふっ…ん…ん、む……ぅ、んん」

口をすぼめてアディルが前後に顔を動かす。女にやられた真似をしているのかは定かではない。男との経験はさすがにないと考えたかった。

「アディル……いいぞ。上手だ」

どこか浮ついた台詞を吐き、興奮を抑えて思考に集中する。
もしかしたら、弟は自身を傷つけたいのかとも思った。
我欲に支配されている自分とは違って。

しかしその想像は間違っている。アディルもまた、ただ愛する兄を欲していた。

「んっ、んぐっ、んっむっ、っふ」

弟が主導権を握っていたはずが、やがてシグリエルは少しずつ腰を揺らし始めた。
黒髪を両手で持って律動を始めると、苦しくはないが自然と弟の口から喘ぎが漏れていく。

「あ、ん、むっ、んんん」

もう兄が動かしているだけになり、口内を自由に犯し始めた。腰を最後に突き出すと、白い液が溢れ出し、アディルの口端から流れ出ていく。

「はぁ、はぁ、はぁ…っ」

シグリエルは最後まで絞り出すと、ふらついて尻をつく弟の前に一緒にしゃがみ、手のひらを差し出す。
口を開けた弟は兄から視線をそらさず、ねっとりとした白濁液をそこに出した。

なんとも言えない卑猥な光景に、シグリエルは顔を近づけ我慢していたキスをした。弟の唇をきつく塞ぐ。舌を絡め、綺麗にするように弟の口内を吸って再び自分のものにした。

「……ま……まって、兄貴……ここじゃ……だめだ……」

足をすでにだらんと開き、ひくつくそこを見せていたアディルだが、ベッドに行くように乞う。すると兄は金髪を掻き上げ、弟の体を抱き寄せて持ち上げた。

横抱きにして浴室を出ると、大きな寝台におろし、自分がアディルの上を占領した。



今夜、こういう事をするとは考えていなかった。
仲間の死に悲しむ弟を、そっとしといてやるはずだった。

だが弟の前ではいつも反省は立ち消え、自分の欲に足を絡められて動けなくなる。

「あぁっ、兄貴っ、そこっ……イイっ……もっと、もっとぉ…っ」

弟の肉体に覆いかぶさったシグリエルの腰に、すらりとした両脚が巻き付き、離さずにさらに奥へと誘いだす。
自身の棘をばらまき、弟の全てを奪いたい。どちらが身動きできなくなるのか、分からなくなるみたいに。

何度も精を注ぎ、形がなくなるまでアディルと交じり合うのがシグリエルの願望だった。

「あ…ぁ……イクッ」

中を締め付ける弟の背中に腕を入れ、抱き上げる。
あぐらをかいた自身の上にまたがらせ、挿入したまま下から揺らした。

「あっ、んあっ、それ、だめだ」

金色の瞳を刺激に細め、色っぽく口を開け閉めし、兄の汗をまとう肌が暗がりの中で揺れる。
腰をしっかりと持ったシグリエルは、あてがったペニスを規則正しく動かして弟を何度も喘がせた。

「やっ、やぁ、兄貴、んぁあ、あぁ、だ、め」

びしょびしょに濡れた内壁を擦り上げ、下から突き上げる。
激しくすると弟はおかしくなったようにイキだし、兄の肩に掴まって脚をぎゅうっと絡ませた。

だが、急に肩がびくりと揺れ、アディルの視線は兄の肩口から背後の壁に向かう。
そこには男が立っていた。長い黒髪を垂らし、不気味な表情をした全身革服の悪魔が。

「な、なんでっ、嫌だ、やめろ、見るなっ」

アディルは顔を背け必死に遠ざかろうとするが、兄の腰は止まらない。
それどころか弟をあやすように髪をといてやり、こう囁いた。

「気にするな、あいつは俺だ」
「……え…?」

弟を見つめる瞳は穏やかで、愛情に濡れている。
しかしアディルは一瞬恐ろしくなり、兄の上半身をぐっと抱いて咎めようとした。

「なに言ってんだ、違う、やめろ、あにき…っ」

言う事を聞かないシグリエルの背後から、悪魔が近づいてくる。
アディルをじっと見やり、興奮した様子で舌なめずりしている。

「ああ……いいねえ。男のくせにやらしい体してやがる。……普段は女を好む俺も、お前は抱いてやりたくなるぜ……へへへッ」

背を丸め、様子を見ようとしてくるディーエにアディルはのけぞった。
だが兄は弟を隠すようにきつく抱きしめ、座ったままで挿入を続ける。

腰を揺らし、切なく愛おしく見つめる瞳は、弟しか映されていない。

「……ああッ、シグリエル、俺様にもやらせろよ。その美味そうなアソコを味わわせろ。お前のでけえアレを飲み込んで、ぎゅうぎゅう締め付けてるスケベな穴をよぉ」

よだれをたらし卑猥な言葉を投げつける悪魔に、アディルは気が動転して兄に助けを求める。
シグリエルは弟の唇に重ね、散々キスをしてこう言った。

「駄目だ。こいつには指一本触れさせない。他の誰にも」

弟の耳元でささやき、舌で舐め取る。
そのまま体を抱え、再びシーツの上に押し付けた。脚を開いたアディルは、何度もイカされたそこをひくつかせ、放心に近いぼんやりとした表情で顔を赤らめている。

「ん、んあ、兄貴」
「アディル。俺だけを見ていろ。俺はお前しか求めない」
「あっん、んぅ、あにきっ、あにきっ」

二人は愛し合う。脚を絡ませ、腰を重ね合わせて。

アディルは一旦強く温かい腕の中にしまわれると、もう怖さはなくなり兄に全てを委ねたくなった。
他のことがどうでもよくなるほど、兄の想いの深さが心地良く、抜け出せない。
そこに、ずっと沈んでいたくなる。

シグリエルだけが与えてくれる、愛の深みに。

「…………兄貴……すき……」

そう言って、何度果てたか分からないアディルは目を閉じた。
もう動かない。
交わりにより魔力を与えられすぎて、気を失ったのだった。

「アディル……」

だがシグリエルは、深く埋め込んだ性器を抜こうともせず、まだ弟を愛することをやめなかった。

異常だ。
自分がおかしいと感じる。

無垢な子供のような表情で横たわり、兄を信用して体を差しだす弟に対する、自分の仕打ちが。ことごとく狂っている。

「アディル、アディル」

だが弟への欲は尽きることなく、シグリエルを底なしの愛へと誘う。
目覚めぬ弟への渇望を、何度も精を吐きだすことによってその夜も埋めようとした。





アディルは夢を見ていた。
不死者は通常、夢は見ない。過剰な魔力を与えられると意識を失うことはあるが、その間も記憶が途切れるだけだ。

しかしこの時、夢とも現実とも言えぬリアルな感触に、自分は犯されていた。

「んっ、あ、兄貴ッ」

暗闇の中で、上に乗ってベッドを軋ませる大柄だがしなやかな筋肉質の男。
汗ばむ白い肌は心地よく、もう自分の体にあちこち馴染んでいる。
でも、その青い瞳と目が合うとアディルは恐怖に慄いた。

「ふふ……お前はいつからそんなにやらしい子になったんだ? 兄が初めてじゃないのか。みなしごの施設で、またはあの汚らわしい組織の男どもに教えられたか?」
「……あ、ああ! なんでッ」

上にいるのが転生した父だと知ると、アディルは思いきり奴の上腕を掴み押しのけようとした。だがマルグスは端正な顔立ちを愉しそうに歪めるのみで、びくともしない。

「そう怯えるな。男が好きなくせに。……ああ、お前はこの世でもっとも不憫だからお前の最愛の兄に変わってやろう。……ほうら、これで満足か?」

シグリエルの風貌に変化した父は、その後もきつくアディルの肉体を離さず、下半身を突き出して性交を続けた。

これは兄じゃない。悪魔の父だ。
アディルの瞳から涙が流れる。それで夢なのだと分かった。

「やめろ、やめてくれ……何が望みなんだ。これ以上、俺と兄貴を苦しめないでくれ」
「ははっ。可愛らしいお願いをするじゃないか。小憎たらしい兄とは大違いだな。……昔もそうだった。素直に私の書斎に入ってきて、呪詛とも知らず言う事を真似て……馬鹿で愚かな子供のままだ」

兄の顔で告げられると、アディルの瞳からさらに涙があふれる。
興が乗った父はにやりと笑い、こう告げた。

「やめろよ。お前が泣くたびに、俺はお前を虐めたくなる。……めちゃくちゃに犯して、捨てたくなる。本当はお前なんか大嫌いなんだ、アディル」
「……嫌だ、やめてくれ、そんなこと……言わないでくれ、兄貴の顔で、声で!」
「ははは! 泣きじゃくると逆効果だぞ。純粋なフリをした淫乱が」

冷たく吐き捨てたマルグスは、アディルの顎を強引にとり、舌を入れて唇をむさぼった。
息が出来ないアディルの全身を散々犯し苦しめ、しばらくして解放した。

「いいか、アディル。皆を助けたければ、一人で私のもとに来い。場所は赤夢湖だ。お前が兄を救う道は、それしかない。ーー約束を破ったら、お前以外全員殺す。……きちんといい子にしているんだぞ」

子供の時に一度だけ見せたような、優しい笑みを浮かべた父はアディルの頭を触り、夢から目覚めさせた。

瞳を開けたアディルは呆然としていたが、じっと父の言葉の意味を考えていた。
そんな自分に繰り返し呼びかけ、切迫した表情で見下ろす兄を、ただ瞳に映しながら。





朝方になっても、アディルは目覚めなかった。
倒れたようにわずかな睡眠を取ったシグリエルは、一瞬時間の感覚を失っていたが、まだ眠っているアディルを見やると、すぐさま飛び起きた。

「…………」

頭痛がして思考が定まらない。
だが、弟に対して何をやったのか、鮮明に思い出してくる。

「アディル」

肩を揺すって起こすが変化の兆しはない。
シグリエルは額を抱え、そのまま金髪をぐしゃりと掴み引っ張った。
後悔が押し寄せ、発狂して叫びたくなる。

何度繰り返しても理解することのない自分の愚かさに。

「……アディル?」

しかしふと隣を見ると、弟は黒目を開けていた。悪魔の瞳だ。
こちらを映しているのかいないのか、分からない視線で停止している。

「どうした、アディル! 起きろ!」

呼びかけると、しだいに瞳は金色に染まり戻っていった。
目線は兄を捕らえ、一度だけゆっくり瞬きをする。その表情がとても悲し気で、涙を流しているかのようにシグリエルは錯覚した。

「……悪かった。アディル……お前にしたことを……もう二度と、あんなことはしない。……すまない」

兄に体を抱きかかえられ、アディルはさらに涙を流したくなる。
夢の中で汚れた自分の体を、兄にすべて洗い流してもらいたくなる。

「……兄貴……」

胸板に掴まり、広げられた腕の中に入り込む。

「俺はあんたになら、何されてもいい。……でも俺から離れるな。絶対に……そばにいて……」

耳元で聞こえてきた台詞と同時に、シグリエルはきつく弟の胴を抱きしめる。
答えは分かりきっているのに弟を不安にさせたのだと、自分の首を締め上げたい気分に駆られた。

「ああ。どこにも行かない。ずっとお前のそばにいる。……アディル。お前を愛している。……許してくれ」

もうあんな愚かな真似はしないと、自分とアディルの心に誓った。
頬を撫でる兄の顔のほうが、今にも泣き出しそうな子供のような表情で、アディルは少しだけ安心した。

夢の中の邪悪な男とは違う。
けれど、アディルの曇った瞳には不安がくすぶっている。

もし、このまま兄が悪魔の力に抗えず、父のようになったら。
自分はどうすればいいのだろう。
一緒に堕ちていく覚悟はとっくのとうに出来ている。

それでも兄をそんな風にしたくない。大切な兄には、ずっと変わらない優しい兄のままでいてほしい。

「……兄貴。マルグスの夢を見たんだ。あいつがさっき、夢に出てきた」
「なんだと? ……何かされたのか?」

シグリエルの顔つきは豹変した。
不死者は夢を見ないが、あの男が精神に入り込み夢を操れることは知っていた。

「俺に一人である場所に来いって。他の奴に知らせたら、皆殺すって言ってたよ」

アディルは淡々と、すでに何か覚悟をしたように話す。
そんな弟を前にしたシグリエルの胸騒ぎは止まらない。

「お前を一人で行かせるわけがない。よく話してくれたな。大丈夫だ、俺に任せろ、アディル」

弟を抱きしめ、背を包んでさする。
互いを思うあまり、二人の思惑はいつか交差しようとしていることに、シグリエルはまだ気づいていなかった。



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