異母弟に会いたいと言われて。 | ナノ


▼ 6

「うお、お前いい部屋に住んでるなー、くそっ俺のベッドよりでけえ。気に入ったぜ」

ファースは弟の自室に入るなりベッドシーツに飛び乗り、行儀悪く大の字になって盛大な深呼吸をした。
天井を見つめ、これがいつもエリアンが見てる風景なのかと、新鮮に思う。

視線を横に向けると、興味深そうに背を丸め見下ろしている弟がいた。若干の恥ずかしさに包まれる。

「すごい寛いでくれてるな。嬉しいけど」
「ああ……だってな。疲れた……」

普段弱音を吐かない兄のぼやきに、愕然と我に返ったのはエリアンだ。

「ごめっーー」
「謝るな。お前は何も悪いことしてないだろ。いや……俺達は、な」

二人きりだから故意に強調して言った。
自分と弟だけが分かる、理解し得る共通の思いのようなもの。それがファースには何より大事だった。

起き上がろうとすると、エリアンはぼうっと瞳を潤ませ、「うん」と噛み締めるように頷く。
そんな姿を見ていると、さっきみたいに抱きしめたくなってしまった。

ファースは異様にどぎまぎしながら、後ろのクッションを持ち上げた。手持ちぶさたで抱えようとしたのだが、中から傷んだ布のぬいぐるみが出てきた。

「んっ? なんだよ、お前こんな可愛らしいものと一緒に寝てるのか」

ついからかい笑おうと思ったら、「あ!」とエリアンの慌てる声がした。だがファースは違うことを思い出し始める。この子供用の熊の人形には見覚えがあった。

「それ、ファースのだよね。俺が持ってたんだ。元々は、父さんが大事にしていたんだけど……」

弟が緊張した様子で話してくれる。聞けば、意外な事実が明らかになった。

エリアンが四歳になる前のこと。親の寝室とは別に父の自室があった。そこに父がいると思い幼い足で向かうと、クローゼットの前に座り込む背中を見つけた。

弟は何をしてるのかと声をかけた。そして父の手にあった小さいぬいぐるみを見つけ、興味をもつ。

「これはエリアンのお兄ちゃんのなんだよ」
「そうなんだ。お兄ちゃんはどこ?」
「ここにはいないんだ。……これ、ほしいか?」
「うん! お人形さんほしい!」

無邪気な弟はそれから大事に熊のぬいぐるみを抱えて帰った。本当の持ち主は兄のである、という事実はなんとなく理解したまま、今日に至るまで持っていたのだという。

ファースは大層驚いた。父がそんなものを大事に取っていたこともだし、エリアンの素直さと無垢さにも。

しかし裏話がまだあった。
エリアンの物心がつき、兄の存在を忘れるどころか、より強く意識し始めた頃に父に人形のことを尋ねたのだそうだ。

父は寂しげに言っていた。「それは兄のお母さんと大喧嘩をした時に、兄が自分たちに投げつけてきたものだ」と。怒ったファースに返そうとしたが、無視をされたと父は懺悔のように告白をしたらしい。

「そうか……そんなことがあったのかよ。悪いが全然覚えてねえ。……まあ俺らしいガキではあるが」

少しバツが悪くなり、ぬいぐるみをじっと見る。
自分の知らないところで、父と弟にこんな存在感を示していたとは。

「俺も小さい頃これを持ってることが嬉しかったんだけど、今でもすごく大事だし……でもやっぱりファースのだから、いつか返さなきゃと思って。困る、かもしれないけど。……あ、洗濯は時々優しくやってたからちゃんと綺麗ーー」
「ははっ。律儀だなお前は。ありがと」
 
短く言ったファースは熊のぬいぐるみを持ち、再び布団の中に寝かせた。大の男達が何をやってるのかと思いつつ、ここが居場所だと感じた。

「お前にやるよ。俺の分身だと思って引き続き添い寝してやれ。俺は早くに卒業したみたいだからな、くまさん」

不似合いな可愛らしい単語をわざと使い、気恥ずかしくも弟の笑いは誘えた。楽しそうにくすくすしている。その笑顔でこの話も報われたと感じた。

それにこの小さな人形が、ある意味エリアンと自分を繋ぐきっかけにもなった。もちろん、エリアンが兄という存在に興味を持っていてくれたからではあるが。今のファースはその事を率直に感謝していた。

「俺、聞きたいんだ。どうしてファースは俺に会ってくれたの?」

ベッドで隣に腰を下ろしたエリアンに、ふと尋ねられる。切なげな眼差しのせいなのか分からないが、深くどきりとした。

「……最初はな。正直に言うと、お前が何か困ってるんじゃないかって、気になったんだ。ほら、俺達こんな境遇だしさ。でも、段々……お前といるのがすげえ居心地よくて。一番、素でいられるんだよ。数ヵ月しか経ってないのに、不思議なんだけどな」

ぽつりぽつりと話すファースの耳が次第に赤くなっていく。

本当は慕われて嬉しかっただとか、性格が結構好きだとか、自分に対して恥ずかしがる所が可愛いと思っただとか、エリアンに対しては色々あったのだが、下心が見え見えのような気がして口に出せなかった。
きっと、弟への言及としても変に聞こえるはずだ。

エリアンは兄の表向きの言葉をまっすぐに喜んでいた。彼も照れて目元を緩ませる。

「あ……ありがとう。俺もファースのこと好きだよ。こんなに誰かと一緒にいたいと思ったの、初めてなんだ」
「……お、おう。そうか? それは…嬉しいぜ」

ーー好き。
エリアンに初めてそう言われて、胸が異常な音を出し始める。
ただ言葉通りに口にしただけなのだろうが、平常心で受け取れなかった。

ファースは気がつけば、腰を上げていた。
少しだけだ。ちょっとばかり、弟の頬に触れたかった。指先で触れて、さっき外で感情が昂ってしまった時みたいに、頬に唇を触れさせれば満足のはずだった。

「…………!」

しかしその願いが上手く遂げられ、ちゅっと当たってしまうと、こちらを向いたエリアンの顔が間近にあった。彼の見開く明るい茶色の瞳。

しまったとファースは思った。だが同時に、エリアンの視線は自分の唇に向かっていた。

「んっ」

顔を傾けたエリアンはファースに唇を押しつけた。はっきりと重なった弟の熱っぽいそこと、首から頬に滑るように這う細長い指が、びりびりとファースの肌を伝い、力が一瞬で奪われていく。

弟のキスは、一度、二度とゆっくりはむように行われた。
ファースは自分がしたかったはずの数倍も甘いのをやられて、ぐらりと目眩がした。

エリアンはそっと口を離し、わずかに浅い息を吐いた。
交差した視線は濡れていて、熱を帯び、ファースを見つめている。

「……ごめん、どうしてもしたくなった。ファースが二回も、ほっぺたにしてくるから……」

そう言って瞳を伏せ、所在なさげにする弟はさっと首もとを赤くしてそこを擦る。
弟の言い訳よりもその部分に、エリアンの唇に釘付けになりながら、ファースは懸命に台詞をひねり出していた。 

「お前は、頬へのお返しに口にするのか。ああそうか、もしかして、そういう家庭だったとか」
「違うよ、家族でそんなことしない。ファースだからした」

あの照れ屋の弟の、はっきりとした主張が頭に悟らせる。
エリアンは自分に好意を持っていると。

ファースは彼が腹違いの弟だということを、最近さらに自覚している。それなのに今行われたキスを、弟の言葉を難しくもなく受け入れている自分に気がついた。

そうと分かれば、兄の立場を置いてしまった、二十三才の青年ファースは動き出す。

「エリアン……後悔してるか?」
「してないよ。ごめん」

彼の口癖をまた言わせてしまったと逆に悔いたファースは、自分から顔を寄せた。隣に座る弟の顎をくっと引き上げ、唇を重ねる。

何をしているんだ、弟に。大人の自分が。
どこからか声が聞こえたが、ファースも感情に従っただけだった。

「ん、ンン」

くぐもった声が頬を覆った手の内側からもれる。
弟のキスを思い出しながら、兄のプライドで上回ってやろうとしたが、早々にエリアンは腰を抜かしへろへろになった。

「はぁ、は、あ、ファース」

しかし彼は若い。自分よりも六つも年下で、良くも悪くも落ち着きがない。
エリアンに腰を持たれてしまったファースは、ぐいと引き寄せられた。がっちりした腕に固定され、半分抱きしめられながらキスの主導権を奪われる。

体格がいい方が勝ちなのか、些かのショックを受けつつも好きにさせていた。

濡れた互いの舌を絡ませ、部屋に出してはいけない音が響く。
エリアンの口づけは長く、一向に終わらない。ファースへの蓄積された思いを示すには、十分な濃厚さだった。

弟はさらに壁を破ろうとした。興奮して兄を抱えたまま、後方に倒れてくる。シーツに押し付けられたファースは、ようやく均整のとれた胸板を軽く押し返そうとした。

嫌だからなのではなく、エリアンの切羽詰まった状況を心配したからだ。

「……お、おいっ、これ以上はやべえ、エリアン……お前っ、おい腰をそうやって、な…」
「ファース、……ファース、好きだ、好き」

まったく話を聞いていない。間近で見下ろしてくる顔は上気し、瞳は潤み、半開きの口はまた兄の口元を欲しがる。

舌で兄の舌先をもてあそび、きつく絡ませ、腰の昂りを押し付けてくる。密着した筋肉質な肌に、ファースの体も抑えが効かなくなってきていた。

エリアンはキスをやめずに兄の脇腹に触れた。シャツを優しくまくり、隙間から直に肌を触る。
弟の手のひらが滑り込んできて、びくりと腰が浮いた。
急いているエリアンの大きな手は、そうっと下に降りてきた。

細腰のジーンズの中に、下着の中にそのまま差し入れられた瞬間、ファースの下半身は最大に跳ね上がる。

「うっ……なにしてんだ、ばかっ……あ、あぁ…っ!」

揉むように陰部を撫でられ、すでに硬さをもっていたそこははっきりと形を現す。エリアンは触るごとにまた興奮を募らせ、兄のぺニスを手全体で愛撫しながら唇を再度塞いだ。

「ん、っぅ、……ンッ、エリ……あっ、あぁッ、ん、く、ぅッ」

人から触られること自体も久しぶりだったが、相手が弟であるということも、ファースに制御できない背徳感と欲情をもたらした。

「う、ぅッ、あ、で、出ちまうっ、はなせ、てめっ、エリアン!」
「出して、ファース、このままイって」

卑猥な言葉が耳の中に甘い毒のように塗り込まれる。
それを合図にビクビクとのけぞり、ファースはジーンズを下着ごとずらされたことにも気が回らないまま、ぺニスの先から射精をしてしまった。

露になった細身の腹に白い液がだらりと濡れる。
胸で息をし、赤らんだ顔を片手が覆う。

「あー……あ、あ……信じられねえ……お前、この……ガキ」

恨みがましい声が喉をつく。
言い様のない羞恥と、やってしまった感。弟の反応も気になったが、とにかく気持ちを静めようとした。

「……おい。なんか言えよ。いそいそと俺の出したもんを掃除してくれてんじゃねえ。アホ」

つい口が悪くなるファースに、エリアンはどきりとした表情で顔を上げた。
出したのは兄の方なのに、少しすっきりとした顔つきでもう盛った犬のような様子は影をひそめている。

「なんでもするから許して。ファース」
「ははっ。なんだそれは。……兄貴にちんこまで出させてな、お前」

腹が綺麗になったところで反動をつけて起き上がり、ファースはとんとクッションの上にエリアンを押し、頭を沈ませた。

何事かと目を見張る弟に対する復讐ではないが、やられたままなのは気にくわない本来男らしい性格のファース。同時にこのままだときっと弟も気にするかもしれないという懸念から、好きにすることにした。

「あっ……おい!」
「お前も脱げよ。まだここ硬いな、……くそっ、ここも俺よりでけえのかよ」

お返しとばかりに無造作に弟のズボンに手を突っ込むと、さっき衣服ごしに感じた逸物の予想を遥かに上回るものがあった。

男のぺニスを触るなんて、考えたこともなかった。
だがなぜか全身がむらつき、ファースは未知の欲望にさらされる。

「あ、あぁ、だめだって、ファースっ、俺は、すぐ出る!」
「なんだその男らしいのかよく分からん宣言は」

丁寧にズボンのボタンを外し、びんっと出てきたぺニスは太く長く、カリもしっかりしていて完璧といえるほど良い代物だった。
男なら皆が羨むものを、自分が一方的に弄り、快感を与えているという事実も悪くない。

「ほら、気持ちいいかエリアン? まあ聞かなくても分かるけどな」
「う、ぅあ、ファース、ファース……っ」

うわ言のように名を呼び、ぺニスをしごかれることを良しとする弟が段々と愛おしくなってくる。

Tシャツをまくり上げ、鍛えられた肉感のある胸と、美しく割れた腹筋を眺めた。
男の体など興味がなかったのにエリアンは別だった。見ている体の部位、顔、全てのパーツが注意を引き、魅力的に映る。

やがてエリアンは宣言通り、兄よりも早く腰を震わせてしまった。
経験豊富だと聞いていたが、自分に見せた姿はまるで初々しい若者そのものだった。

「ん、ぅっ、ファース、もういく、いくよ、あ、あぁあ」
「おう、お前も出せ、すっきりしろエリアン」

頭を優しく撫で上げ、最後の最後まで、弟が達して大量の精液を絞り出すまで、ファースは責任をもって手で愛撫をした。

腹に濡れたものが垂れないように、素早く拭いている姿は、さっきのエリアン同様まぶしい兄弟愛に他ならない。

無論それ以上の感情がこういう行為に繋がったのは明白だったが、二人はそれをはっきりさせるよりも、ただ両者が満たされたという結果のほうが大事だった。

「すごい出したなお前。溜めてたのか」
「…………」

からりとした意見を言ったのだが、エリアンは放心状態でまだ胸で息をしている。

「すまねえ。俺は色気が足りないな。どうだった、エリアン」

見下ろすように乗り出し、ファースが口にちゅっとすると、弟は気がつき、また両腕を回し兄の唇を貪り始める。

元気なやつだ。呆れにまじった微笑みが、ファースの瞳を閉じた顔に浮かんでいた。

しばらくまた二人で口づけを交わし合い、ベッドに横になる。
言葉はいらなかった。どこからやって来たのか、二人の内側にずっと隠されていたのか。
「それ」に満たされた兄弟は、互いを見つめ合い、気持ちを落ち着かせていた。

ファースがエリアンの手を握る。指を絡ませて、幸せを噛み締めていた時だった。
階下から物音がし、扉の開閉音も届いた。どうやら弟の両親が戻ってきたようだ。

「あ! 帰ってきたな」
「ひえっ。やべえ。危なかったな」

二人は声を出して笑い合う。ファースだけはこっそり、どうやって出て行こうかと考え始めていたが、エリアンの満たされた表情を眺めていたら、それも大した問題ではない気がした。



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