ハイデル兄弟 | ナノ


▼ 84.5 困る兄

「ん……」

俺はたくましい腕に抱かれたまま、ゆっくり目を開けた。
目の前に男の喉仏が現れ、びっくりして固まる。

ああ、久しぶりすぎて何事かと思ったが、そういえば昨日は二週間ぶりにクレッドと熱い夜を過ごしたのだった。

とはいえ窓の外はまだ暗いから、二人が眠りに落ちてから、それほど時間は経ってないのかもしれない。

(可愛い顔で寝てんな…)

俺はぷにっと弟の頬を指で押した。だが奴は起きない。
きっと連日続いた任務で疲れているのだろう。

それに、さっきまでの触れ合いのせいでーー。

急に自分の恥ずかしい行動を思い起こして、穴に入りたくなった。
こんなに長く弟と離れていたのは初めてだから、つい感情が爆発してしまったんだ、というのは言い訳になってしまうが。

(でもこいつだって、結構すごかったぞ)

俺が一人反芻していることも知らず、長い金色のまつげを時折ぴくっと動かして、弟が寝息を立てている。
じっと見つめていたかったが、何やら体が……奥のほうに疼きを感じた。

もしや…。
弟に出されたものが、残っているのかもしれない。

(どうしよう。クレッドはまだ寝てるし、頼めない。かといって、自分で出来ない…)

こいつ、昨日は俺にやり方教えてくれるとか、変態的なこと言ってたけど、そんなのごめんだ。
確かに俺は営みの最中に、少々乱れてしまうこともあるが、普段そんなことする勇気ないのだ。

「クレッド……おきて。助けて」

ぼそっとシリアス風に呟いてみるが、全然起きないとこを見ると、いつもの寝たふりじゃないらしい。

風呂に行こうか迷った。
けれどきっと腕の中を抜け出せば、絶対に妙なタイミングで起きてきて、また見つかってしまう。

いっそ、ここでするか…?

いやそんなことをしたら、俺が変態になってしまう。
その前に俺、中をいじくるなんてこと、やっぱ自分でできなーー

「……ん……あに、き……?」

ぐるぐる考えてる間に、弟が目覚めてしまった。
薄く開かれた蒼い瞳と、少しかすれた甘い声に、ドキリと胸が脈打つ。

「起きてたのか……大丈夫?」

体を寄せてきて、頬にちゅっと軽いキスをされる。
俺はカァッと顔を赤らめてしまっているだろう。全身がすごく熱くなっている。

「あ、おはよう、クレッド」
「……おはよう。兄貴。まだ夜だけど…」

くすっと笑って、後ろに回した手でそっと髪を撫でられる。
おでこにも口づけされ、一瞬見つめ合い、またにこりと笑みを浮かべる。

ああ、弟の笑顔はやっぱり可愛いし、また近くにいられて嬉しい。
やっぱりもう離れたくない。遠くにいるのは、あまりにも寂しすぎたーー

って今それどころじゃない。
こいつにキスされたせいで、さらに体が火照ってしまった。

「昨日は素晴らしかった、兄貴。やっぱり俺、兄貴のことが好きだ……大好きだよ」

愛の囁きを受け、俺は一瞬でぼうっと時間が止まってしまう。

何度も言ってくれた言葉を、起きてすぐまた言ってくれるなんて、俺の弟はなんて愛しい奴なんだ。

「うん、俺も……お前のこと大好きだ。クレッド。……最高に好きだけど、どんどん好きになってく」

正直な気持ちを伝えようと思ったら、柄にもなく熱いメッセージになってしまった。
クレッドは目を見張らせて、すぐに俺をがばっと抱きしめてきた。

「兄貴……! そんな、俺……あああッ! もう駄目だッ」

え、大丈夫か?
弟の叫びを心配していると、いつの間にか覆いかぶさった弟に、真正面から見下ろされていた。

がっしりした肩が眼前に広がり、頬を赤く染め、ギラついた目で見てくるクレッドにどぎどきする。
もしかして、このまま……。

「……ごめん、兄貴。大丈夫、我慢するから。だって、久しぶりなのに、あんなにたくさんしちゃったもんな……」
「へ? いや、俺は…その……」
「このまま抱きしめててもいい? 落ち着くまで…」

うっとりした表情を向け、宣言どおり俺を抱きかかえて、また横になった。

嬉しいけれど、俺このままじゃ眠れない。
疼きは止まらないし、離れていた分、いつもより強く快感を感じる気がするのだ。

「あの……クレッド、我慢しないでいいから…」
「えっ?」
「だから、えっと……も、もう一回だけ、したい」

驚きに何度も瞬きする弟と同じく、俺も自分の言葉にびっくりしていた。

しかしこれは、ちょっとずるい俺の作戦だ。
甘い雰囲気の中で「中の掻き出して」って素直に言えなかった。

でも結局、弟が耳まで赤くして動きを停止しているのを見ると、今のはもっと恥ずかしかったかもしれないと、顔を覆いたくなってきた。

「いや、足りないとかじゃなくて……ただ出来たらそうしたいなって……」

言い訳っぽくなってしまうが、本音ではもっともっと、クレッドと触れ合いたい気持ちもあった。

奴は俺にずいっと真剣な顔を迫らせた。

「俺は足りない、兄貴。でも出来たらそうしたいのは、同じだ」

堂々と口説いてくる弟に、ふわんと肩の力が抜けそうになる。
ああ、こいつ相手なら今更、俺は何を言ってもよかったのかな?

「じゃあ、する…?」
「うん。しよう、兄貴」

クレッドの大きな体が、嬉々として俺の体にまた懐いてくる。

考えてみたら、普通の時にこうして自分から誘ったこと、あんまりない気がした。
最初しようとしていたお願いからは少しズレてしまったが、まあいいや…。

俺だって、こいつが居なかった分の隙間を埋めるには、もうちょっとくっついていなければならないのだ。



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