▼ 84 ひとつになる ※(弟視点)
任務開始からおよそ二週間後、ソラサーグ聖騎士団はようやく帰途についた。
疲弊しながらも戦い抜いた騎士達を隊長らとねぎらい、団長である俺も一時的に責務から解放され、家に帰ることを許された。
やっとだ。また兄貴に会うことが出来る。触れることが出来る。
拷問のような日々を耐え抜いた俺の頭の中は、愛する人の事でいっぱいだった。
「……ただいま、兄貴……!」
「あっ。おかえり、クレッド!」
領内にある自室へ帰り、扉を開けるとすぐに、兄が満面の笑みを浮かべて駆け寄ってきた。
左指に光る金の指輪を見て、俺達の証をつけて待っていてくれたのだと、思わず感極まる。
俺の腕に飛びこんだ兄を、すぐに抱き上げた。
「うわ! ちょ、おい……、んんッ」
驚かれるのも構わず思いきり唇を塞いだ。キスしながらそのまま廊下を抜け、浴室へと向かう。
文句も言わず、首にしっかりと腕を回して受け入れている兄が愛おしい。
脱衣所に着いても、俺は兄を離さないようにして急いで服を脱ぎ始めた。
「ん、く、クレッド、風呂入るのか…?」
「うん、一緒に入ってくれる?」
我ながら何の余裕も残っておらず、片時も離れたくなかった。
「いいよ…」
兄貴が少し顔を赤く染めて、俺のわがままを許してくれた。
服を脱がして手を引き、浴室に入る。
温かいシャワーを出すが、その下で俺達はキスに夢中だった。
水に濡れる白肌をまさぐり、引き寄せられるように唇で吸いつく。
俺は頭が真っ白になりながら、本能的に兄の体を求めた。
「んあっ、あぁ、ちょっと…待ってっ」
細い腰を掴み、首筋から鎖骨へ、胸の先へと舌を絡ませていく。
細かく震える艶めかしい肢体を前にして、少しも抑えることなど出来ない。
薄暗い寝台で、風の音だけが聞こえる静寂の中で、俺はずっとこの時を、夢見ていたのだ。
「兄貴、ここもしていい…?」
可愛らしく勃ち上がったものを指で包む。優しくしごくと、腰がビクンと跳ね、兄の声がみだらに舞う。
「あっん、ん、ぅっ」
駄目だ。恥ずかしそうに眉を寄せてあえぐ、その声を聞いてるだけで、全身の血が沸き立つ。
上半身を責めていた唇を離し、ゆっくり下へと移動させた。
水が流れゆく床へと膝をつき、腰をぐっと持つ。
「な、なに、そこダメ、んあぁっ」
両肩を強く掴まれたが、俺は欲望の赴くまま、兄のものを自らの口に咥えた。
含んでいるだけで興奮が止まず、初めから舌を動かし、きつく吸い上げる。
「はぁ、あぁぁ…っ、クレッド!」
合間に見やると、目を閉じて頬を染め上げ、感じ入っている表情が目に入る。
やがて嬌声とともに小刻みにしなり、兄は俺の口の中で果ててくれた。
ドクドクと流れ込む精を一滴のこらず飲み干し、己の欲まで満たされた俺は、そっと口を拭った。
目をとろんとさせた兄が、後ろの壁にふらりと背を預ける。
「……もう、急ぎすぎだ…お前」
俺はすぐに立ち上がり、小さく息をつく兄を、休む間もなく抱き締めた。
「だって、もう二週間だ。そんなに長く、兄貴に触れられないなんて、おかしくなる」
堰を切ったように、自分の思いを告げた。すると兄が俺の顔に手を伸ばし、優しく頬を撫でてきた。
「お前だけじゃないよ……俺も、すごい寂しかった」
「ほんと?」
「うん。一人で寝るの、もうやだ…」
首に腕を回され、キスされる。その仕草が愛おしくて、さらに想いが溢れていく。
どちらからともなく口を貪り、俺は兄貴をもう離すまいと、腕の中に閉じ込めた。
ぎゅうと腰を押しつけ、柔らかな尻を手のひらで包む。
見るほどに色めく体の線に、俺の欲望がさらに刺激される。
兄の体に泡を塗りたて、手を滑らせていく。
同じように俺にぴたりとくっつき、兄が洗ってくれようとするのが嬉しいが、その手の感触だけで我慢できなくなる。
尻の間に手を滑り込ませ、泡で撫でると、腰を合わせた互いのものが張り詰めるのが分かる。
「あ、あ……俺、また……だめ」
一度達した兄が恥ずかしそうに目を伏せるのがたまらない。
「もう濡れてるね、かわいい、兄貴のここ……」
腰を少し動かし、互いをこすりつけると、さらに敏感な反応が見られた。
「俺がいない間……一人で、した?」
「……うん。した…」
尋ねると、驚いたことに兄はこくりと頭を頷けた。
素直な兄の言葉に、俺は息をのむ。
「だって、寂しかったから……でも一人でしても、足りないんだ。お前じゃないと、もう気持ちよくなれない…」
急激に鼓動が速まっていく。
ああ、そんな事を言ってもらえるなんてーー。愛する兄によって、いつも全てを満たしてもらえるのは、俺のほうなのに。
「なぁ、お前もした…?」
初めてされた質問に、一瞬言葉を失った。
自分から余裕ぶって問いかけたばかりだというのに。
「うん、したよ……兄貴のこと考えて」
なんだ、事実だが無性に恥ずかしい。
勇気を出して目線をまっすぐ合わせると、緑の瞳が柔らかく緩んだ。
「そっか……嬉しい、かも」
兄が顔を赤くして微笑む。その様子がかわいすぎて、頭がぐるんと混乱をきたした。
二人して照れ合うが、体の火照りは一向に収まらない。
俺はすぐにでも繋がりたい気持ちをこらえて、兄を抱きしめ、背中から腰を優しく撫でた。
後ろに指をもぐりこませ、中を入念にほぐすことに専念する。
久しぶりなため、性急な振る舞いをして、傷つけたくなかった。
「ここは…してないの?」
「……んっ……して…ない、出来ない…」
俺の意地悪な質問に対し、腕に掴まりながら、また可愛らしいことを伝えられる。
「じゃあ今度、教えてあげる……今日は俺にさせて」
濡れた後ろ髪を梳き、こっそりと告げると、兄貴が胸に抱きついてきた。見上げられて、キスをねだる顔をされる。
「はぁ、はぁ、クレッド……お願い、もうちょうだい…」
突然甘えた声を出され、切なげな表情に鼓動が跳ね上がる。
親指で頬をなぞり、角度を変えて何度も口づけをする。
「俺も、兄貴が欲しくて…しょうがない。今日はもう、ずっと離さないよ」
俺はなぜか、今までにない緊張を感じながら、兄の背中に腕を回した。体を抱きあげ、密着させる。
兄の片足を少し持ち上げると、柔肌がふるっとビクついた。
肌を傷めないように抱き込み、濡れたそこへ自身をあてがい、腰をゆっくり入れる。
すると兄の嬌声がまたたく間に浴室に響いた。
「あっ、あぁっ、んあ、んぁぁ……っ」
「……ああ、入ってく、兄貴…」
求めていた温もりを得て、長く飢えていた熱を、ようやく手にすることが出来た。
やっと愛する人と、俺は再びひとつになれたのだ。
久々の感触を確かめるように中を優しく突いていく。きつく狭くなっているその場所を、徐々に馴染ませていく。
「あぁ、兄貴、俺……ずっと、こうしたかったんだ」
「ん、ん…っ、俺も……」
「兄貴も…? 嬉しい」
「……あ、んあっ、クレッド、落ち…ちゃうっ」
しっかりと抱きかかえる俺の腕に、兄が必死に掴まってくる。その愛らしさに魅了され、我を忘れそうになるのを堪えて、ゆっくりと中を愛撫していく。
「大丈夫だよ、ちゃんと抱いてるから……こうするの、気持ちいい?」
「……う、ん……すごい、きもちい…」
下にある目線を合わせると、息をあげて、恍惚とした表情を向けられる。
濡れる目尻に水滴が落ち、俺はそっとそれを唇でぬぐった。
「兄貴……愛してるよ」
耳元で囁くと、背中に回された兄の手にぎゅっと力が入る。溢れていく愛を伝え合い、心にもしっとり熱が浸透し始める。
理性を従え、緩やかな動きで下から揺らしていく。
けれど兄貴の思わぬ要求が、それを阻んでくる。
「あ、あぁ、お願い……もっと、いっぱいして…っ」
「……でも、激しくしたら、兄貴がつらくなるだろ?」
「あっ…んあっ……いいから、……もっとお前が欲しい、クレッド……っ」
ガクン、と腕の力が抜けそうになった。
俺は兄にお願いをされると、情けないぐらいに、一気に形無しになるのだ。
強くしがみつかれ、激しく腰の動きを合わせてくる兄のおかげで、コントロールが失われていく。
「あ……兄貴、締めつけたら…だめだよ」
堪えきれず声を上げる。
だが切なく締め上げてくる兄に翻弄され、俺はとうとう自分を手放してしまった。
「ン、ああ……まって、俺、……兄貴…ッ」
手加減することも忘れ兄を抱きしめる。温かな奥で身を震わせ、解き放ったものが長く注がれ、中を満たしていく。
「はあ、はあ、っはあ」
信じられない。兄をイカせるより先に、自分が果ててしまった。
こんな事は初めてで、俺は己の技量の無さを、もう呪うしかなかった。
「……ごめ、……兄貴」
未だ全身が滾るような熱に浮かされながら、顔を上げる。
兄は薄ら目でびくびく身悶えていた。俺の肩にぎゅっと掴まってくる。
「んぁ、クレッド、あ、ア、いっちゃ、う」
何もしていないのに、中が細かく収縮し、兄がビクンッと背中をのけぞらせる。
大事に抱きかかえている兄の淫らな姿に、俺の視線は釘付けになっていた。
「……んんっ……だめ、気持ちイイ……っ」
まだ肌の表面を震わせながら、トロンとした目で快感に身を委ねている。
薄く開いた口元に誘われ顔を迫らせると、うるんだ瞳と目が合った。
俺は我を忘れ、夢中で柔らかな唇を奪った。
「っあ、ん、う……くれっど……」
「……兄貴、……兄貴…っ」
「ん、ぁ……中、お前の……いっぱい……」
満たされた表情で微笑まれ、兄の幸せそうな気持ちが伝わる。
ああ、そんな顔をされると、俺は本当に兄貴を離してあげられなくなる。
ずっと待ち望んでいた夜が、長く長く続いてしまっても、兄貴は許してくれるだろうか?
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