▼ 31 あふれていく ※
どちらからともなく激しい口づけを交わした後、俺達は後ろのベッドへとなだれ込んだ。
何をやっているのだろう、自問しながらも俺は不安をかき消すかのように、弟を求めずにいられなかった。
「クレッド」
力をこめて抱きつくけれど、情けない俺は気になることを口に出来ない。
弟がそんな俺の様子に気づかないはずもなく、胸に埋めた頭を撫でてきた。
「……兄貴、今日のことはただの仕事だから、何も気にする事なんかないよ?」
なだめるように優しく告げられ、求めていた言葉をもらう。
弟はいつも優しい。
そう言ってくれるだろうと思っていたずるい俺は、安心すべきなのに、燻りはまだ消えない。
「うん……分かってる」
きっと弟は何も知らないのだろう。司教が俺に言ったことも。
けれどいまこの場で、それを問いただす気は起きなかった。
信じているし、今はただ自分が弟のことを感じたかった。
「どうして欲しい? 兄貴」
上から見つめられ、言ってごらん、と子供に促すような仕草で頬に触れられる。
「お前の、好きにして……」
どんなやり方でもいい、早く一緒になりたい。
そんな思いで告げると、一瞬考えた弟は照れたように目を細め、微笑んだ。
「後ろからぎゅってしてもいい?」
弟の言葉に意味を巡らせ、頭をぼうっとさせながら、小さく頷く。
俺は自分からごろんと寝転がり体をうつ伏せにした。
待っていると弟が急に黙り動きが止まったので、怪しく思い振り向く。
「……おい?」
「いや、ごめん。……かわいいなと思って」
「な、何言ってんだよ」
やっている事が途端に恥ずかしくなり起きようとすると、腰にずしっと乗っかられた。「うあぁっ」と重みに耐える俺の背中に胸をくっつけ、抱きしめてくる。
長い腕に巻きつかれ、もぞもぞと服の中に手をのばされ、まさぐられる。
耳に当たる吐息に震えると、弟が耳たぶを口に含み、ちゅぅっと吸いついてくる。
すでに集まった熱を後ろに感じながら、弟の手が俺の下着の中に忍び込んできた。
「んぁっ、や、あ」
「やだ? このまま、……だめ?」
硬く火照ったものが大きな手に包まれ、ゆっくりと扱かれる。
先走りのせいで濡れてくちゅくちゅ音が響く中、俺は拒むことなく刺激を受け入れた。
このまましたら駄目なのに。
弟にされてるだけで気持ちよくて抗えない。
「う、あっ、あぁっ、で、る」
「ん、いいよ、兄貴、出して」
「……んっ……あ、あぁぁ……ッ」
俺はそのまま弟の手の中に自らの精を放ってしまった。
下着もべちゃべちゃだ。
そんなことも些細なことのように、ただ細かな息をついて、腕の中で休んでいた。
服を素早く脱がし、弟が背中を撫でてくる。
そっとキスを落としながら、やがて濡れた手が後ろへと這わされる。
探るように指の腹を押し込み、中をじっくりとほぐしていく。
繊細な動きが与える快感に悶えながら、引き抜かれた後は、すぐに弟の熱いモノが充てがわれた。
「兄貴、腰上げて……挿れるよ」
優しく告げて徐々に自身を挿し入れる。
奥まで達すると、次第に律動を早めだす。
中を弟にこすられるたび、我慢できず声が漏れる。
「んあっ……あぁっ、ま、ってえ、はぁっ」
腰をがっしりと持たれ、後ろからズプズプ挿入を繰り返す。
晒されていることが恥ずかしいのに、弟を欲する気持ちが体を大胆にさせている。
「あぁ、いいな、兄貴も気持ちいい……?」
「んっ、ぅん……っは、あ、きもち……いいっ」
夢見心地で告げる。
本当は段々何も考えられなくなっていた。
繋がっていると充足感と幸せが押し寄せて、自分がなくなるみたいに感じる。
ときどき弟の力強い抱擁によって、二人で何をしてるのか思いだす。
「やっぱりこっち来て、俺のここ」
腰に両腕を回し、弟は俺を抱きかかえた。
上に座らせて抱きしめ、ぐっと下から腰を入れられる。
「んっ、あぁっ」
「このほうがいいよな、兄貴も、もっと好きだろ?」
弟が優しく、けれど微かに掠れた声で問いかけてくる。
「俺も今は……近くにくっついていたい」
腰を揺らしながら、耳元で甘くとろけるような言葉をとめどなく伝えてくる。
全身に伝わる気持ちよさに、口を閉じていることが出来ない。
弟が俺の顔に触れ、後ろへと向けさせてきた。
唇を触れ合わせ、貪るようにキスをする。
やがて果てた後も、口づけは長く長く続けられた。
互いの熱をまだじわりと纏う体を休ませ、二人でベッドの上に寝そべる。
クレッドは俺を腕に抱いて隣にいるが、俺はまだ眠りたくなかった。
ぴたりと抱きついて、深い色合いの蒼目をじっと見る。
「俺もっと、お前が欲しいよ……クレッド」
まだ理性が飛んでないうちから、こんな事はあまり言ったことがない。
やはり弟も目を丸くしている。
時間を惜しんで自分からキスをした。
今日の出来事が頭を過る。幸せの中で、不安が通り過ぎる。
強まる口づけが、弟のさらに激しいキスによって奪われる。
「んっ、ふっ、ぅ、あ」
口を離した時はお互いが息を浅くつき、再び高ぶっているのが分かった。
弟の色づいた瞳に見つめられ、ぞくりと全身が内側から震える。
でも俺の欲求は、まだ続いていた。
「クレッド、痕、つけて」
弟はぴたっと止まった。したことのない要求に、強く目を見張らせている。
「……つけて欲しいの?」
少し動揺が混じる甘い声で尋ねられ、こくりと頷く。
「兄貴、どうしたんだ、今日はそんな、ずっと……俺に甘えてるみたいだ。かわいい」
ぼそっと呟かれ、恥ずかしくなり黙った。
こいつの言うとおりだ。この前の弟と真逆になってしまった。
弟は何かを察したように、俺を抱き締めたまま頬や額に唇をそえた。
「なぁ……駄目か?」
あの騎士に言われてから、本当は気になっていた。
弟は呪いによって強い発情に襲われた時は、痕をたくさんつけてくるのに普段は何もしないのだ。
「違うよ。本当は、俺のものなんだって、兄貴の体中に印つけたい。でも、もし誰かが見て、兄貴に欲情したらどうする? ……俺はそんなの、我慢できないよ」
眉をひそめ、険しい表情をされる。俺は思わずクレッドの腕を掴んだ。
「大丈夫だよ、お前しか見ないから……お前のものだって、俺に……もっと教えて」
今はただ証明が欲しかった。
せがむように告げる俺の思いを、じわりと顔を赤らめた弟は、やがて汲んでくれたようだった。
肌を丁寧にじっくり吸われ、印を施されるたびに心が満たされる。
行為の目的を知っていると、余計に気持ちが昂ぶっていく。
太ももにもキスをされ、あらゆるところに弟の痕が刻まれる。
もっと弟に欲しがられたい。
全部を繋げて溶け合いたい。
「来て……」
顔を両手で包み込み、自分から口を寄せた。
ゆっくり開いて、舌をいれ、弟のものと絡ませる。
弟はわざと勢いを弱め、俺に身を任せていた。
衝動が抑えきれなくなって、もっと交じらせたくなる。
「ん、んむっ、ぅん」
俺は弟に抱きかかえられ、体勢を逆転されて、上に乗せられた。
構わずに馬乗りの状態で、夢中で口に吸い付いて絡めとる。
「っん……はぁ……あぁ……っ」
自然に腰を揺らし、弟の硬いものを尻の間に感じる。
無意識に擦りつけてしまうと、ぬるついたものが滑り、気持ちよさに止まらなくなっていく。
「はぁ、あ、あぁっ」
「兄貴、欲しい? もういれる?」
必死に頷く。
腰を持たれて、ふっと浮かび上がる。
真ん中に充てがわれ、下からぬぷぬぷと入ってくる。
「ん、あぁぁっ……く……んぁっ」
遠ざかる理性を追おうともせず、ただ下にいる弟だけを見つめようとする。
腹筋に手をついて、迫りくる快感に耐える。
揺らされながら、自分でも夢中で揺らしていく。
「気持ちいいとこに当ててみて、兄貴」
「あっ、んぁ、はぁっ、っぁあっ」
「そう、上手だ……ここだよな?」
「あぁぁっ、だ、め……ッ」
いつの間にか下からも激しく突かれる。
卑猥な音を響かせながら出し入れされる弟のモノを、一心に受けとめた。
手のひらを重ね合わせて指を絡ませる。触れてるとこ全部が熱い。
安心するのに切なくなる。
もっと強く、深く繋がりたいと願ってしまう。
「んぁっ、あぁっ、クレッド、もっと、もっとして」
もう与えられているのに、まだ欲しがっている。
こいつに触れていると、際限がなくなっていく。
「足りないの? 兄貴」
「まだ、たり、ない」
「……ああ、そんなこと、言ってくれるのか」
紅潮した弟の顔が、柔らかな笑みを形作る。
腰を抱かれ、熱いものがさらに中を押し上げてくる。
「ん、あぁっ」
「奥まで…入れるね、もっと深くて、気持ちよくなるとこ……」
ぐぐっと挿入され頭がちかちかしてくる。
考える間もなく、激しく打ち付けられ、突き上げられる。
「んあぁ! や、やぁあぁっ」
振り落ちないように前かがみになり、手をぎゅっと握りしめる。
支えられているのに、中を掻き回されるように動かされ、何が何だか分からなくなる。
ぐちゅぐちゅ混じり合う水音が響き、上下に動く大きなモノが、その度に全身に快感を与える。
「だめ、またいっちゃ、ああッ、んんっ、いく……ッ」
びくびく中が痙攣し、達してる最中も突き上げは止まらない。
「んあぁっだめ、だめだって、もう、やぁあっ」
「いいよ、兄貴、我慢しないで、何回でもイッていいから……俺に、何でもして欲しいこと……言って」
激しく貫かれながら、弟の言葉がゆらゆらと反芻する。
お前に、して欲しいことーーたくさんある。
俺のこと愛して、ずっと側にいて。
もっと、もっと、お前をちょうだい。
恥ずかしさも忘れて、気がつくと俺は、弟の耳元で何度もそう囁いていた。
クレッドは俺をぎゅっと抱きしめ、それ以上の言葉を返してくる。
そうして口に、頬に、たくさんのキスを降らせていく。
体を繋げながら何度ねだったか分からない。
けれど弟は俺の気持ちを全て分かってるみたいに、余すとこなく包み込んで、俺を愛してくれたのだ。
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