ハイデル兄弟 | ナノ


▼ 18.5 あんまり変わってない

思い出の一部を語り終えると、なんだかしんみりとした気分になった。
居間のソファに座り、隣で静かに聞いていたクレッドが俺を抱き寄せ、肩に顔を埋めさせる。

不思議だ。
あんなに小さかった弟の腕に抱かれ、こうやって頭を撫でられているとは。
あの頃の決意は今も変わらず胸にあるが、この状況……段々恥ずかしくなってきた。

「そうか、兄貴も俺と同じだったんだな……」

ぽつりと呟かれ、顔を上げる。
クレッドもどこか気恥ずかしそうな表情をしていた。

弟が意図していることは分かる。
俺はあれから様々な出来事を経て、魔術の修行のため、十六歳の時に家を出た。
シグリットとの別れの時とは違い、出発のときに弟の姿はなかった。

昔から俺を好きでいてくれたという、クレッドの過去の話を以前聞いた時に、その理由ははっきりしている。
全て知らず知らずに弟を傷つけてしまった、自分のせいなのだがーー
その時のことを考えると、今でも申し訳ない気持ちになり、胸に強い痛みが走る。

それから疎遠だった時期を経て、兄弟への呪いをきっかけに急激に距離が縮まり、気持ちを通じ合うことが出来た。

これからはもっともっと弟を幸せにしたい。
日々思っていることを、改めて告げようとすると、クレッドが俺の顔を覗き込んできた。

「でも俺は小さい頃から変わってないというか……全然兄離れ出来てないな」

苦笑した弟が、何気なく言葉を発した。
どういうわけか、俺の中で衝動的に焦りが湧いた。

「なんで? 兄離れなんかすんなよ、しなくていいよ……」

その言葉を聞いて途端に心細くなり、そっと体を寄せた。
思い出話をしていたら、今の幸せをもっと実感して、近くにいるのに弟が恋しくなってしまったみたいだ。

頬にちゅっとキスをすると、クレッドの肩が震えた。

「あっ兄貴……」

かまわず顔を寄せて、今度は口にねだる。
赤らんだ弟に背中をぐっと引き寄せられ、唇を奪われた。

「んっ、ん」

熱のこもったキスに弟の思いを感じる。
解放されたときは、まっすぐな瞳に見つめられ、さらに鼓動が近くに聞こえてきた。

「しないよ、絶対。ていうか出来ないな。俺は兄貴のことが大好きだから」

甘い調子ではなく、若干開き直った感じで言われ、くすっと笑いがこぼれそうになる。

「うん。俺もお前大好き。もう離れられないんだ……」

ああ、俺のほうこそ弟離れが出来てない。
兄らしく幸せにするんだと誓ったのに、弟を前にすると、なぜか急に恥ずかしげもなく甘えたくなってしまう。

気持ちを確かめ合うように、口づけを何度も交わした。


「あれ、もうこんな時間だ。寝よっか、クレッド」
「ああ、そうだな。一緒に寝よう」

大人になったクレッドが同じセリフを言っている。
なんか面白い。

今でも天使みたいな顔だけど、背もすごく伸びて、何から何まで男らしくなった。
ほんとにこいつ、よくここまで大きくなったと思う。

「お前も成長したな、クレッド」

感慨深げに言うと、ん? という不思議そうな顔をされた。
けれどすぐに怪しい笑みに変わる。

「まあ、そうだな。今はある程度、俺も兄貴のこと好きにできるし。……だろ?」

どういう意味だ。
ついさっきまで澄んだ蒼目だったのに、もう邪なものを感じる。

「なあ兄貴、今日は俺の服着たまま寝ていいよ。子供のときと反対みたいだけど」

にこりと言われ、身体がびくついた。
どう考えても目がぎらっとしていて、すぐに寝付きそうな雰囲気には見えない。

「は? いやいいよ。寝間着あるし」
「兄貴の寝間着洗っちゃったよ。それでいいだろ?」
「何言ってんだ、洗濯してんの俺だぞっ」

明らかに嘘ついてる。やっぱり頑固で子供っぽいところは変わってない。
こうなったら兄貴の俺が言うこと聞くしかないんだ。

「はあ。しょうがねえな。じゃあいいよ、このままで。もうベッド行くぞ、クレッド」
「うん、早く行こう」

にこにこと嬉しそうに言う弟に抱き寄せられ、二人で寝室に向かった。
結局あんだけしつこかった弟の服は、わりと早く脱がされてしまった。



***


弟と触れ合った後、夜中に目が覚めた。
俺が先に寝てしまったせいか、隣の弟は珍しくうつ伏せで顔をこちらにむけて寝ていた。
枕で顔が半分隠れているが、すやすやとあどけない表情が見える。

可愛い……

つい柔らかな金色の髪を触りたくなるけれど、起こしたらかわいそうだ。
ああ、でもやっぱ我慢できない。
瞬時に決意を翻しそろそろ指を伸ばすと、クレッドの頬がぴくりと動いた。

「……に、い……ちゃ……」

えっ。
今信じられない言葉が聞こえた。
たぶん寝言だろうが、是非もう一回聞きたい。

「…………」

けれど弟はそれっきり黙ってしまった。
何の夢を見ているのだろう。昔の俺が出ているのか?

好奇心といたずら心がむくむくと湧き起こる。

「クレッド、お兄ちゃんだぞ……ここにいるよ……」

一人で何を言ってるんだ、寒すぎる。
脳内でツッコミを入れつつ、ドキドキしながら問いかけた。

すると信じられないことに、クレッドは新たな反応を見せた。

「……おに、い…ちゃん……」

やばい。今日だけで二回も聞けた。
ずっと前俺が無理言って呼んでもらって以来のことだ。
なぜこんなにも胸が踊るのか。

きっと思い出話してたから、こいつも俺たちの夢見てるんだろう、ふふ。
開き直って話しかけ続けた。

「可愛い、クレッド……もっとお兄ちゃんって言って……」
「何言ってるんだ?」
「うわあああぁぁッ!」

調子乗ってたらいきなり罰が下った。
叫び声を出し硬直した俺を、ぱちっと目を開いたクレッドがじっと見ていた。

こ、こわい。怖すぎる。
一気にホラーになっちゃったよ。

「なんだ、起きてたのか、はは」
「兄貴がぶつぶつ言ってるから目が覚めたんだ。何してたんだ?」
「何って……お前こそなんの夢見てたんだよ。ていうか俺出てただろ? お前嬉しそうに寝言喋ってたぞ」

興奮気味に尋ねると、弟が耳までサアっと赤くした。
そんなに照れたりして、一体どんな夢見たというんだ。

「いや、別に……。今日兄貴が昔の話してただろ。だからその時の……あれだよ」
「あれってなんだ。お前お兄ちゃんお兄ちゃん言ってたぞ。俺と何してた?」

こいつの夢の話なんて聞いたことがない。
俺と違って普段は夢すらほとんど見ないらしいし。

興味が抑えきれず顔を迫らせると、クレッドはとうとう白状した。

「だから……兄貴の服を……また貸してもらって……ただけだよ」

予期せぬ言葉に驚いた。
もしかして、あの話か?

「なあ、それってお前が俺に服くれた後、やっぱ一枚だけ返してって言ってきたやつか?」

俺がずばり聞くと、弟は固まって黙ってしまった。
図星らしい。
けど凄いな、その話はしてないのに。

「なんで知ってるんだ? ……もしかして、本当の話なのか」
「うん。それ夢じゃなくて本当にあったよ。お前の記憶にもちゃんと残ってたんだな」

思わず嬉しくなり、弟の頭を撫でた。
そう、心温まる思い出話だが、続きがあったのだ。
やっぱり四歳の弟が完全な一人寝をするには、ちょっと早かったらしい。

その時のことを説明すると、クレッドは何も言わず、くるりと俺に背を向けてしまった。

「え、おい。なんであっち向いてんだ? ちょっと、クレッド」
「何でもない」
「恥ずかしがるなよ、小さいときの話だし、ほんと可愛かったんだぞ。つうかシグ兄さんが出てってから、お前もっと俺にべったりするようになってーー」
「わ、分かったからもういいよ兄貴ッ」

そんなに恥ずかしいのか。
こいつが俺に背中を向けるなんて、ほとんど無いのに。

少し寂しいけど、たまにはこうして寝るのも、悪くないか……。
腰に手を回すと、弟が腕を上に乗せてきて安心した。

「クレッド、もう寝た?」
「……寝たよ」

まだ声がムスッとしている。
やっぱりちょっと頑固なことが可愛いんだよな。

しばらくそうしていたが、クレッドはやがて観念したのか俺のほうを向いて、いつものように腕の中に包み込んできた。
ああ、やっぱりこうやって弟と眠るのが、俺は一番幸せだ。



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