俺の呪いをといてくれ | ナノ


▼ 62 剣と魔法 -クレッド視点 回想1-

兄貴に何度も好きだと伝えながら、気持ちの根源を口にする事は避けてきた。
どう思われるのか不安だった。幼いときの大事な記憶にまで、影を落としてしまうような気がして。

「俺は……小さい時から、ずっと兄貴のことが好きだ。……好きになったのは、兄貴だけだ」

けれどついに、長く胸に秘めてきた思いを、顔を合わせる度に思っていたことを、言ってしまった。
俺がそう告げた時の兄貴の表情は、きっとこれから一生忘れないだろう。

電撃に打たれたように固まり、大きな目をさらに見開き、愛らしい小さな唇を少し開けている。
鮮やかな深緑の瞳には俺だけを映し、握っている滑らかな手に力を込めると、目の前の白い柔肌が微かに震え出す。

ーーああ、なんて、かわいいんだ!

いや、兄貴が呆然とショックを受けているのに、独りの世界に入ってはいけない。
しかしこんな時ですら、自分の兄を腕の中に収め、その存在を思う存分感じたい欲に駆られてしまう。

もし様々な感情にまみれた胸の内が、常に晒されている状態になってしまったら、この人は俺のことをどう思うのだろう。
やはり、重いと感じるだろうか? そうだ感じるに決まっている。

兄貴はしばらくの間、その場にじっとしていた。
何も身に着けていないというのに、ベッドの上で可愛らしく座り、ある一点を見つめている。

しばらく妄想に耽っていた俺だが、さすがに心配になり兄貴用のガウンを手に取って、そのしっとり柔らかな肌にくるませた。
未だ揺れ動く深緑の瞳と一瞬だけ視線が交わり、安堵感を覚える。

「兄貴、大丈夫か?」

頬に手のひらを添え、極力優しく撫でる。するとようやくこちらを向き、俺を認識してくれた。
実の弟による秘めた思いを突然告げられ、余程ショックだったのだろうか。

「だ、大丈夫だ。ちょっとびっくりしたけど……」

視点が定まらないのが気になるが、どうやら即拒絶されたわけではないらしい。この感触は、期待しても許されるのか。

「嫌じゃない? 俺の気持ちを知って」

堪え性のない俺は、つい兄貴に迫るように体を寄せ、核心に触れた。
反応を知ることに、恐怖を感じないと言えば嘘になる。
けれどもう、隠しておくことは出来ない。この思いは、自分でも呆れるほど長い年月を経ているのだから。

「……え? 嫌な訳ないだろ。今、安心してるんだ。俺……」

思いがけぬ気持ちを吐露され、一瞬舞い上がってしまいそうになる。
だが再び意識を違うところにやりがちな兄貴を、急いで引き戻そうとする。

「兄貴。安心、したのか?」
「……いや、違うな。悪い。お前にしたこと思い出せないのに、こんな事言ったら駄目だよな」

すぐに顔が曇ったのを見て、俺は後悔した。何故あんな事を言ってしまったのだろう。
責めるつもりなど無かったのに。虚ろな表情から考えるに、あらぬ妄想をしているに違いない。

「心配するな、兄貴。俺は今、兄貴が俺のことを好きって思ってくれて、嬉しいんだ」
「……でも……やっぱり気になる。クレッド、教えてくれ。何があったんだ?」

一転緊迫した様子で腕を掴まれる。
本当に覚えてないらしい。それなのに、こんなに気にして……兄貴は昔から優しい心の持ち主だ。
俺が意地悪いことを言っても、いつも顔を赤くして反論するに留まる。

しばらく黙って考えることにした。
本当に余すことなく伝えてしまっていいのだろうか? おそらく引かれるんじゃないか。

その上、この気持ちの変遷を説明し出すとなると、物凄く時間がかかることが予想される。
だがそれは、言うなれば思い出話を振り返るに過ぎない。勿論他にも色々人物は登場するが、つまるところは俺達二人だけの大切な過去だ。

途中不穏な要素があったとしても、結果的に暗い感じに終わったとしても、全て過ぎたことだ。
俺は今、兄貴を手にして言い知れぬほどの幸せを感じている。

無論この先それを手放す気は、一切無い。これからどんな不要な人間共がーーいや獣も含めてだがーー現れようとも。
俺の決意は堅い。それを知ってもらう良い機会かもしれない。

「クレッド……? 大丈夫か?」

一人思案に耽け過ぎたのか、気がつくと戸惑いを浮かべた顔が迫っていた。
俺ははっとして、心を落ち着かせた。兄貴の黒髪を指でそっと撫で、安心させるように努める。

「じゃあ兄貴、俺の話聞いてくれるか? ちょっと長くなるけど」
「えっそんなに長いのか? 別にいいけど……頼む、聞かせてくれ」

兄貴の表情はまだ不安げな影を潜めていた。
ああ、そんな顔させたくない。やっぱり話なんか隅に置いて、すでに知り尽くした肌を再び重ね合わせ、不安を全て取り除いてあげたい。

そうして兄貴の心も体も俺で満たして、何もかもどうでもよくなるぐらいにーー
溢れかえる邪な感情を必死に抑え、俺は思いの丈を語ることにした。




※※※



俺達兄弟は、代々続く騎士の称号を持ち、土地の領主を主君として奉仕するハイデル家に生まれた。
騎士団に所属し多忙な父と、騎士である夫を支える母。乳母のマリアと世話役のヴィレ。
俺と兄貴に最も近い人間はその四人の大人だった。

年が離れた上の兄二人は家を出ていた為、その頃から俺にとっての兄と言えば、兄貴ただ一人のようだった気がする。

なだらかな丘の上に建つ庭園つきの屋敷の中で、俺達は育った。
当時八歳だった俺は、十一歳の兄貴と同じく普通学校に通い、多くの時間を兄にべったりとくっつき過ごしていた。

学校から帰宅すると、すぐに剣術の稽古を始めなければならない。けれど兄に手を繋がれて向かった先は、いつも馬のいる場所だった。
屋敷の敷地内にある厩舎には父が所持する数頭の馬がいた。

「お兄ちゃん。早く稽古場に行かないと、僕たちお父さんに怒られるよ」
「大丈夫だよ、クレッド。待って、今この人参あげちゃうから」

柵に掴まり、夢中になって馬達に野菜を与える兄貴からは、すでに動物好きの片鱗が見えていた。
俺は時間を気にしながらも、嬉しそうに振る舞う兄の近くにずっと寄り添っていた。

稽古着に着替え、屋敷の周辺に建つ道場へと向かう。木剣を手に持ち二人で型の練習をし始めると、ちょうど父が入ってきた。

「「お父さん! お帰りなさい」」
「よしよし。ちゃんと始めてるな。二人とも、こっちに来なさい」

ついさっき道場に来た俺達に対し、僅差で登場した父に冷や汗をかく。同じく一瞬焦った表情をした兄貴だったが、すぐにニカっと笑いかけてきた。

父がそんな俺達の頭に手を置いて、くしゃくしゃと撫でてくる。しかし程なくして青色の瞳をもつ目元が鋭くなり、騎士の顔つきになった。

「では俺に向かってこい。考えて動くんだぞ」

普段は優しい父だが、稽古中は厳しい。子供だった俺達二人にも、剣術に関することならば手を抜かなかった。

「てええい!」
「真っ直ぐ剣を構えろ、セラウェ」

長い木剣を構える体の大きな父に向かって、果敢に挑もうとする兄貴がすごく格好よく見えた。
今と違い目線がずっと上にあった当時の兄貴を思い出すと、違った意味で胸が高鳴ってくるほどだ。
二人の立ち合いを気にしながら、俺も真似して必死に剣を振り下ろす。

「クレッド、お前はまだ腰が入ってない。背筋を伸ばすんだ」
「はい!」

助言を貰いながら、片腕でいなしてくる巨大な存在の父に二人で斬りかかる。
稽古を始めて数十分後、後ろから扉の開く音がした。

「旦那様。お客様がお見えです」

世話役のヴィレの声が響く。彼は乳母であるマリアの息子で、ハイデル家の世話役として働く青年だ。父に仕え、雑務から馬の管理まで幅広くこなす、言わば執事のような役割を担っていた。

「ああ、今行こう。……お前達、稽古を続けるんだぞ。怪我はしないようにな」

青い瞳が細められ、言葉尻が柔らかくなる。俺と兄貴が元気に返事すると、父は満足した顔で部屋を後にした。
扉を開けたまま父を見送るヴィレが俺達に振り向き、穏やかな笑みを見せた。

「坊っちゃん達、奥様がケーキを焼いてらっしゃいますよ。おやつの時間に皆で頂きましょう」
「えっ本当に? やったな、クレッド!」
「うんっ」

兄貴が嬉しそうに飛び上がる。俺はケーキよりもそんな兄の顔を見るのが好きだった。
母は料理が得意で、よくお菓子を焼いては皆に振る舞っていた。
使用人とはいえ家族同然の存在だった二人も含めて、皆でお茶の時間を楽しむことが多かったのだ。

「あー、俺なんか疲れてきた。ちょっと休もう」
「えっもう? じゃあ、僕はもう少し続けてるね」
「うん。ここで見てるから、頑張って」

父の言う通り、そのまましばらく稽古をしていたのだが、兄貴はその頃から体力に乏しく、疲れやすかった。
本を読む時の集中力は凄いのに、剣術となるとこまめに休憩を挟もうとする。

道場に備えられた人型の木の的に向かって、真剣に木剣を当てる。何度か叩きつけていると、マットの隙間から釘のような金属がはみ出ているのを見つけた。
壊したかもしれない、ふと気になった俺はその釘に手で触れた。

「いたッ」

先が尖っているのに気が付かず、指先が出血していた。思ったより深かったのか、だらっと血が流れてきた。

「えっ何? どうした、クレッド!」

遠くに座っていた兄貴が急に立ち上がり、血相を変えてこちらに向かってくる。
落ち着いている自分に対し、俺の指を見て真っ青になった兄貴の顔が、今でも印象に残っている。

「大丈夫だよ、お兄ちゃん。ちょっと血が出ただけだから」
「駄目だろ! 早く見せろ!」

指が切れただけで、何故そんなに動揺するのだろう。俺より年上の兄が狼狽えるのを見て、子供ながらに不思議に思っていた。

「ああ、すごい血が出てる。……俺が見てなかったから……ごめんな」
「違うよ、僕が勝手にやったんだ」

俺の言うことはあまり耳に入ってない様子だった。その時は血が苦手だったのかな、などとぼんやり考えていた。
けれど今なら兄貴の責任感の強さと、人のことを思う優しさが分かる。
兄貴は突然俺の想像していなかった行動に出た。

「待ってろ、クレッド。今治してやる」
「え?」

そう言って、兄貴は怪我した方の手を掴んだ。少し離れた距離からもう片方の手を当て、奇妙な言語を唱えだした。けれどその真剣な表情に、口を出すことは躊躇われ、俺は静かに様子を見守っていた。

「……出来た……治ってる、クレッド……」

自分の怪我よりも兄の動向が気になっていた俺は、小声で呟かれたその言葉を聞いて、兄貴の目線を追った。
指を見てみると、血が止まっている。それどころか、傷跡も綺麗さっぱり無くなっていた。

「わあ! なんで? お兄ちゃん、何したの?」

痛みも感じなくなっていた指を掲げながら、興奮して尋ねた。兄貴はほっとした様子で俺を見ていた。

「よかったあ。これ、初めてやったから心配だったけど」
「……え? 初めてなの?」

俺が思わず驚嘆の声を上げると、一瞬口が滑ったという素振りを示して、慌てだした。

「いや、別に実験したわけじゃないぞ。傷を治したくて……」
「実験? ねえ、これってもしかして、魔法?」

服を掴んで勢いよく問う。すると俺の頭に手を置かれ、優しく撫でられた。
少しくすぐったくなり、身をすくめる。

「そうだよ。魔法だ。でも皆には秘密だぞ」
「お兄ちゃん凄い! どうやってやったの?」

目を輝かせて迫った俺の前で、兄貴が途端に言葉に詰まった。

魔法の存在は知っていたが、実際に目の当たりにするのは初めてだった。
魔術を使えるほどの魔力を持つものは限られていて、珍しい存在なのだ。それを身近な兄が見せてくれたということに、子供だった俺は興奮を抑えきれなかった。
それに加えて、あの魔法が初めてだと告げた兄の言葉が、胸の奥に響いたままだった。

「勉強したり、色々だよ。本当に誰にも言うなよ、クレッド」
「うん。言わないよ。二人の秘密だね」
「そうだな」

笑顔を向けられた俺は異様に嬉しくなり、兄貴に抱きついた。まだ言ってなかった事を思い出し、顔を上げる。

「ありがとう、お兄ちゃん……」
「はは。大げさだよ、お前」

照れたように告げる兄だったが、しっかりと抱きしめ返してくれた。その時の俺は、言葉には表せない幸せを感じていた。

台所に向かうと、料理の準備をしている母と乳母の姿があった。
母は俺達の姿を見つけると、中腰になり手招きした。俺と兄貴はすぐに駆け寄り、ワンピースの上からかけられたエプロンにしがみつく。

「良い匂いがする、お母さんケーキ作ったの?」
「そうよ、セラウェ。二人が好きなチョコとチェリーのケーキよ」
「やったあ、食べる!」

甘いものが好きな兄貴は異常にはしゃいだ後、台所をうろうろしだした。

「あれ、牛乳どこ?」
「ふふ、ここですよ。お坊っちゃん」
「あっ。ありがとう、マリア」

乳母のマリアが笑みを浮かべ、脇の机にある牛乳瓶を取ってグラスに入れ、それを兄貴に手渡した。
喉が乾いてたのか、ぐいっと飲み干すのを見て、俺と母が目を合わせて笑う。
母がグラスに水を注ぎ、俺に手渡してくれた。

「クレッド、あなたもお兄ちゃんと一緒にお風呂入ってきなさい。その後皆でケーキ食べようね」
「うん、分かった。お母さん」

母がにっこりと笑って言った。母の口調はいつも優しい。喋り方だけじゃなく、大きく丸い目元は兄貴とそっくりで、柔和な雰囲気も似ている。
肩までの長さの緩やかな黒い髪色に、緑の目も同じだが、兄貴の瞳のほうがもう少し濃く、青みがかっている。

俺はこの似通った二人がとくに好きだった。無邪気な子供に過ぎない自分が、遠慮なく甘えることが出来る存在だったからかもしれない。

「じゃあ、私は坊っちゃん達のお洋服を用意しますね」

作業を一段落させたマリアが言い、俺は後をついていこうとした。でも何故か兄貴はまだ台所でじっとしていた。

「お兄ちゃん、行かないの?」
「クレッド、先に行ってて」
「なんで? 一緒に行こうよ」
「俺もすぐに行くから」

ちらちらと母の様子をうかがう兄貴を怪しいと思いながら、俺は部屋を出て行こうとした。廊下に出たのだが、二人の様子が気になり、もう一度台所へと引き返す。
すると話し声が聞こえてきた。

「お母さん、ごめんなさい。クレッドが指を怪我しちゃったんだ。血が出てた」
「えっ、本当に? 見せなきゃ駄目じゃない」
「大丈夫。魔法を使ってみたら、治ったよ」

その言葉を聞いて、俺は急いで台所へと入っていった。
どうして? 秘密だって約束したのに。すぐにお母さんに言うなんて。
信じられない気持ちを抱えながら、子供だった俺は兄貴を精一杯睨んだ。

「ひどいよお兄ちゃん! 約束破って!」
「うわあ! なんでお前入ってくるんだよっ」
「嘘つき! 二人の秘密だって言ったのに!」

俺は興奮状態で兄貴の服を掴み、力のままに揺さぶった。
様子を見ていた母が俺達の間に割って入り、二人の顔を交互に見た。
困り顔を向けられ、途端に心が静まり、冷静さを取り戻していく。

「やめなさい、クレッド。約束ってなあに?」

優しく問われて、兄貴を見やった。明らかにどぎまぎした兄の様子を余計に怪しむ。
きっと俺はガキらしく膨れた顔をしていただろう。

「だって、魔法を使ったこと、誰にも言うなってお兄ちゃんが言ったのに。自分で喋ったんだ」
「それはそうだけど、違うぞ、クレッド」
「何が違うの? 本当のことでしょう?」

俺が問い詰めると、兄貴はぐっと身を引いて口をつぐんだ。今考えると、幼い年齢のわりに俺の態度は生意気だったと思う。

「あのね、クレッド。お兄ちゃんの魔法のこと、お母さんも知ってるのよ。だってお母さんが、魔法の使い方をセラウェに教えたんだもの」
「えっ?」

諭すように語りかける母に、驚きの目を向ける。

「どういうこと? お母さんも魔法が使えるの?」

それまで知らなかった事実に呆気に取られていると、母からにこっと笑顔を返された。

「そうよ。少しだけね」
「ええっ、凄い……でも、どうして教えてくれなかったの?」

俺が尋ねると、母はまた困ったような顔をして、言葉を探しているようだった。
それを見かねた兄貴が、俺の肩にそっと手を置いた。

「クレッド、騎士は普通魔法使わないんだぞ。だからお前にも秘密って言ったんだ」

当時はよく分からなかったが、この時の兄の台詞は父の存在を危惧したものだと、今ならはっきり分かる。
騎士として武勇を誇り、四人の息子を立派な騎士へと成長させようと思っていた父は、魔法に関して良い思いを持っていなかったのだ。
だから兄貴が当時から隠したいと思っていた気持ちも、理解できる。

「セラウェはね、あなたの怪我を治したかったのよ。私はいつも魔法をむやみに使っちゃ駄目よ、って話してたんだけど。でもクレッドの指がちゃんと良くなって嬉しいわ。お兄ちゃんにお礼言った?」
「う、うん。……そうだったんだ。ごめんね、お兄ちゃん」
「いいよ別に。俺も勘違いさせてごめんな」

母の言葉に対し、俺は急激に兄貴への申し訳無さを感じていた。秘密を明かしてまで俺のことを助けてくれたのに。
優しく許してくれた兄貴を見て、もう一つの気になったことを口にした。

「ねえ、僕もお兄ちゃんみたいに魔法使える?」

俺の言葉に、二人はびっくりした様子で互いに目を見合わせていた。兄貴の困惑した顔を覚えている。
母は俺の前にしゃがみ込み、優しく真っ直ぐな目で語りかけてきた。

「ごめんね。クレッドは使えないと思う。セラウェの魔力は人より大きくて、魔法が使いやすいのよ」
「そうなんだ……」
「クレッド、でもお前は騎士になりたいんだろ? だから魔法は必要ないんだよ」
「……うん。でも僕も使いたかったな」

兄貴が俺の頭に手を置いて、慰めるように撫でてきた。
まるで自分は騎士にならないみたいな言い方だと、今の俺ならばすぐに感づくのだろうが、その時の俺は兄貴も一緒に騎士になるのだと、信じて疑わなかった。
何故なら兄貴は俺のお手本だったし、毎日一緒に稽古をしていた仲だったからだ。

「とにかく、これからは三人の秘密ね。ちゃんと守れる?」
「「うん!」」
「よし、良い子ね。じゃあ二人とも、お風呂に入ってきて」

大きな声で返事をし、俺は兄貴に手を引かれて部屋を後にした。
もともと母と兄の秘密だったことが、俺も仲間に入れてもらえた。その事がすごく嬉しかった。

けれど晴れやかな気持ちになっていた俺は、この時まだ、兄貴の気持ちがこれから大きく魔術に傾いていくという事を知らなかった。



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