十三夜月(クロード)
2021/02/10 11:40




きらきらと光輝くシャンデリア。

そしてその輝きに負けず劣らず彩りを放つ室内の装飾に荘厳な雰囲気を纏う天井画はかなりの年代物だと以前に聞いたことがある。

ノーブル・ミッシェル城の大ホール。

政財界の重鎮に各国の王室関係者と招待客はいつもと変わらぬ顔触れの筈なのに、心穏やかでないのには理由があって。

「…」

ホールの中央を囲うように出来た人だかりは一組の男女を見守る招待客の面々で出来たものであり、そこで何が起こっているのかは覗かなくとも容易に想像がついている。

聞き耳を立てなくても聞こえてくる感嘆の溜息や嫉妬混じりの声に対して当然と言えば当然だ、とクロードは肩を竦めた。

そこには、永年仕える我が主とひょんな事からこの城の主より託されたひとりの留学生の少女とのダンスシーンが繰り広げられており、事前に知らされている訳でもない今夜のパーティーの招待客にとっては寝耳に水とも言えるもので、彼らの話題に上るのは必至だった。

美しい旋律に合わせてホールの中央で艶やかに踊るその姿は見る者たちを魅了し、それはまるで予めふたりのためだけにセッティングされたかのように会場の雰囲気と見事に溶け込んでいた。

優雅に微笑むその瞳に、華麗に舞うその姿に誰もが口々に何処の令嬢だ、と噂する。

(それにしても…よく化けたものだな。いや、努力の賜物と言ったところか)

我ながら…とここまでに至る経緯を回顧しながら己に対する労いの言葉を唱えながらもクロードは苦笑混じりの溜息をついた。

と言うのも、最初のダンス曲が終わりを告げる前から薄々感じていた空気はクロードの予想を裏切ることなく、彼の主であるウィルの手を離れると次はロベルト、エドワード、キース、ジョシュア、そしてオリエンスのグレンまでもが目の前の彼女へダンスを申し込んでいるという有様なのだから。

「全く…」

ダンスのパートナーが変わる度に淑女の仮面を被った彼女は彼らの腕の中で優雅に美しくその姿を披露する。

(人の気も知らないで…)

視界に映るその笑顔に再び肩を竦めながら会場を見渡せば、彼女に対して明らかに何かしらの感情を抱いているであろう視線に幾つも気付く。

そうして、羨望とも嫉妬とも取れるような視線が中央へ注がれる中、外の空気を求めてクロードはその場から立ち去った。






「……」

雲ひとつない晴れ渡った晩秋の夜空に浮かぶのは、満月に次いで美しいとも称される十三夜月。

そんな月明かりなど目もくれずバルコニーに佇む人影は手にした懐中時計に視線を落とすと、楽しげにひとつ息をついた。

「さて、そろそろ…ですか」

ポケットにそっと時計を戻し、測っていたかのような仕草でゆっくりと廊下を歩き出せば。






「クロードさん!」



そう…己の名を呼ぶ彼女が


本当はどんな風に


笑うのか


本当はどんな風に


乱れるのか


今魅せる艶やかな華やかな姿は


本当は偽りのものであると



自分以外は



誰も知らない。






勿論…教える筈もない。








「さあ…帰りましょうか」










今宵は十三夜月。





本当の君の瞳に映るのは…ただひとりだけでいい。












fin





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