衝撃の事実にアレンとラビは驚愕の声を上げ、神田は無言で瞳を細めた。


「元鴉部隊とはいうものの…正確に言えば、所属はしていません」

「どういうこと?」


その反応を受け止めたリンクは先を続ける。


「二人は実験として特殊な教育をされました。戦闘部隊としての十分な訓練も受けています。教育は順応し、実力も申し分ない。君達が相手をして分かったように、その能力は類をみない強さです」


彼が話す間も双子は笑みを浮かべたままだ。


「しかし鴉部隊に所属するための決定的な力が無かった」

「決定的な力?」


彼の右手が胸の前に上がる。
その指先には鴉の使う“羽”が。


「この“羽”を、使えなかった」


アレン達は眉根を寄せて双子を見やる。二人は表情を変えない。


「鴉部隊の証ともいえるこの羽は一切応えなかった。
術式が間違っていたわけではない。力の巡らし方を間違えたわけでもない。
それなのに二人は飛び立つ羽を得られなかった」


彼の言葉に添って双子が拗ねたように頬を膨らます。


『“幼少から訓練すれば扱える”って先達は言っていたけれど』

『あれ、真っ赤な嘘だよ』

『どんなに訓練を重ねても うんともすんとも言わなかったし』


二人の笑みから温度が喪われた。
それを見たリンクは瞼を下ろす。


「羽を得られなかった穴を彼らは生身の戦闘スキルで補いました。
しかしその努力は鴉では価値が無いと判断されたあげく、部隊には不要だと除籍されたのが二週間前です」


胸につかえた物を吐き出したくなるような感覚に襲われる。
二週間前、ブローカーが惨殺され始めた時期と重なるではないか。


「じゃあ…、ブローカーの惨殺事件は全て…」

『私達がやったんだ』


今度はさも愉快で堪らないというように声を上げて笑い出した。


『面白かったよ?魂を売り渡したあいつらが命乞いしたあの瞳!』

『でももっと面白かったのは、君達の歪んだ顔!』


ケラケラと笑う双子はわざとらしく何か思い出したような声を上げた。


『何で人を殺すのか、訊いたよね』


視線を向けられたアレンは小さく頷いた。


『じゃあ私達からも訊くよ』

『何故人を殺してはいけないの?』

「え…?」


それは予想だにしなかった問いかけだった。
からかいかと流そうとしたが、双子の瞳は真剣だ。


『動物は互いに狩りや護身のために殺戮をする。その殺戮は誰も咎めない』

『人間だって自然界の片隅に属した動物。
それなのにどうして人間同士が狩りをしたら咎めるの?』


彼女達の疑問が嫌な想像を掻き立てる。


『君達は“人を殺してはいけない”っていう』

『それはたとえ私達にとって危険な存在、邪魔な奴も生かさないといけないってことでしょ?』

『矛盾しているでしょ』

『危ない奴らを殺すために戦争をするのに』


理解が出来ないと双子は顔を歪める。
その様子を見ていたエクソシスト達は確信してしまった。
教団が施した“実験”と“特殊な教育”は人を殺すことに疑問を持たず、ただ排除命令を遂行する人形を作るためだったのではないかと。


『“我ら黒の教団、人類に危険を齎す者は誰であろうと抹消せよ”』

『“そのユダを斬り刻め”』

『“その存在を是とするな”』

『“黒き双翼よ”』

『“下せ、最後の審判を”』


幼子に歌う子守唄のように一羽の鴉は囀る。


『ちゃんと教えられた通りにしたのに…』

『最初は“家族”も喜んでいたんだよ?
それなのに…だんだん皆私達のことを避けるようになったんだ』

『挙句の果てに“お前達はもう要らない”って』

『訳わかんない』


音もなく二人の左手に刃が現れた。袖に隠していたのだろうか、手首から肘辺りまでの長さのそれはカーテンの隙間から差し込む光を反射する。身構えたエクソシスト達に、二人は刃を向けた。


『私達は“鴉”として認めてもらえなかった』

『それなら“私達自身”を、』

『君達やハワードに、』

『鴉や教団に、』

『認めさせる!』
『認めさせる!』


キィンッ!と鋭い金属音を立ててエクソシスト達のイノセンスを左手の刃で弾く。あまりの素早さと衝撃に一瞬反応の遅れた彼らの隙間を潜り抜けて双子は窓ガラスを突き破った。
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墮天の黒翼

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