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話があると言われ、新藤が休んでいた部屋に戻ってベッドに腰掛ける。先程は気付かなかったが、この部屋には生活するうえに必要最低限の物だけが揃っていた。もしかしたら彼女のためだけの部屋かもしれない。
まぁ、それはどうでもいい。今の問題は組んだ腕に添えるこの指先だ。一定のリズムを刻むことを止められない。
まるで話しかけるなと言うような雰囲気だった。何故なのか、理由が分からないのが腹立たしい。

『ん。これで全部だ』
「おう、悪いな」
『そう思うならその神経質な所をどうにかしてくれ』
「難しい相談だ」

舌打ちをしかけて飲み込む。目の前には簡易机に添えられた椅子に座るバクに書類を渡す新藤の横顔。
俺から視線を逸らしたまま、俺の隣に微妙な間を空けて座った。その隣にフォーも腰掛ける。
俺と新藤の微妙な距離に気付いたバク。その疑問を他所に表情を変えることなく、彼女は話を促した。資料にある程度目を通した彼は深い呼吸をする。その瞳に隠しきれていないのは憐れみに思えた。

「今回の発作で八回目になる。新藤、君が十八歳になってから三回目だ。サイクルが徐々に短くなってきている。もう、いつ次の発作が起きてもおかしくないと思っていた方がいい」

(もうそれほど…進行しているのか…。)

もしかすると、自分の体のことを俺に知られるのが嫌なのではないか。だからこの態度なのかもしれない。
一見平然とした彼女と違い、眉根を寄せる俺にバクは向き直る。

「神田は普段なるべく新藤に付いていてほしい」
『そこまでしなくてもいい』
「これは決定事項だ。既にコムイとも相談済みだからな」

万が一の対応を任務も同行できる俺に委ねるということなのだろう。言われなくともそうするつもりだったのだから丁度いい。

「もう誰もいないところで倒れてしまうのは避けたいんだ。今回は偶々彼が見つけてくれたからよかった。そうでなかったらかなり危険だったんだぞ」

分かっているだろう?と強い口調のバクの言葉に彼女は瞳を細める。
万が一のことがあったらどうするつもりだったのだろうか。

「神田、もう重々承知だとは思うが彼女は自分の体調は殆ど人に言わない。それどころか自分が具合の悪いことに気付かないこともある。無理をさせないように頼む」
「分かっている」
『別に、無理…なんか…』

突然ぼんやりとした口調になった。いかにも眠いといった声に不審に思って隣を見やったとき、肩に重みが加わる。

「どうした?」
「あぁ、またか」
「新藤―、まだ起きていろよー」
『ん…』

ゆったりと瞬きをするのが辛うじて見える。今にも眠ってしまいそうだ。
俺に寄りかかった体を支えてベッドに横にさせ、その体にフォーが毛布をかけると穏やかな寝息を零しながら眠ってしまった。

「心配しなくても大丈夫だ。回復傾向の証拠だよ。恐らくそれが最後の“睡眠”だ」
「三十分もすりゃ大抵は起きるから。気にすんな」

安心させるように笑う二人を一瞥し、彼女の顔を見やる。柔和な寝顔だ。起きないだろうとは思うが、できるだけそっとベッドに掛け直す。
気付かれないように小さく、安堵の溜息を漏らした。

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