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「なぁ、神田となんかあったのか?」 洞窟特有の湿り気のある冷たい空気を肺の限界まで取り込む。一瞬揺らいだ水面が沈黙を取り戻した。 『急に何だ』 「いつもあたしへの近況報告の第一声、神田の話だったぜ?」 今日は珍しくミランダっていう奴の話だった、とニヤニヤと笑うチビに沈黙を返す。どんな意味に取るかはコイツ次第。今はまだ神田の話題に触れたくなかった。 『それより、本当にいいのか?』 「んぁ?あー平気、平気。どうせOKは出るんだ。先に準備運動をしていたっていいじゃねぇか」 『それでいつも怒られるじゃないか』 「んなこと言って。気にしてねぇくせに」 『まぁそうだけど』 小さな体に似つかわしくない大きな態度のフォーに手を引かれて連れて来られた封印の間。フォーの寝室と言ってもいい。以前アレンを目的にAKUMAが襲撃したときの傷跡がまだ垣間見える。此処は私にとっての修練場だ。 「ほい、目隠し」 グローブのような手に握られた赤く長太いシルクのリボンが靡く。それを受け取ると視界を奪った。後頭部で蝶結びにしても端があり余るそれは、洞窟を流れる風でひらひらと舞い始めているだろう。 暗闇の中、小さな気配が結び目を確認する。 「よーし、ちゃんと解けるようになっているな」 『時間は?』 「んー、先ずは十分くらい」 『分かった。誰かが来たら中止な』 「はいはい」 ジャリッと踏み込む音と同時に後方へ飛び退く。元いた場所は斬られた。二対の大鎌の身震いが伝わる。 「始めるぜ」 |
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