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「起きていたのか」
『え…?』

(嘘…)

少し驚いた顔をする神田に私は固まってしまった。

「…何だよ」
『あ、いや…、もしかして…何度も来たのか…?』
「何度もというか…、毎日来ていた」
『そ、そうか…。すまない、知らなかった…』

だから驚いたのか、と納得したらしい神田が此方に来ると、山積みの本で座れない椅子の代わりにベッドを勧める。
神田の重みだけマットが沈むのを感じるも、混乱状態の頭では何と声をかければいいのか、全く浮かばずにどうしようもなくて、俯いたまま沈黙してしまった。

「今は眠くはないのか」

此方に顔を向けることなく掛けられる言葉が沈黙を裂く。

『あ、あぁ。まだ眠くない』
「疲れは」
『多少、あるけれど…、平気』

(駄目だ、ぎこちなさ過ぎる。もっと、言わないといけないことは山ほどあるのに。
最後、なのに…)

『…あの、』
「何で言わなかった」

形無き刃で貫かれる感覚。その広い背中から伝わる、負の心。
言葉が喉に詰まり、直ぐに出て来なかった。そんな私に呆れたのか、神田は小さく息を吐く。

「言いたくないなら、言わなくていい」
『…』

この言葉に甘えられたら、どれだけ楽なのだろう…。
瞼を下ろし、そっと深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。ゆっくりと、散らばる思考と言葉を拾い集めた。

『いや…、ちゃんと、話すよ…。私は神田の過去(こと)を、知っていたんだ。お前にも、知る権利があると思う。
どこから、話そうか…』

伝えることで、けじめをつける。

もう、二度と…。

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