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気が進まなかったがとりあえず月精の部屋の近くに来た。最近具合が悪い、そんな言葉を聴いてしまえば、昨日のことを嫌でも思い出してしまうではないか。 心配に、なる。 部屋を訪ねるもう一つの口実だと自分に言い聞かせ、重たい足取りを更に進める。 すると何処からかコンッコンッと何かが当たる音がした。音を辿るとそれは彼女の部屋で。 不審に思い声を掛けるが応答は無く、先程よりも短い間隔でコンッと扉が鳴り続ける。断りを入れてから警戒をしつつドアノブを回せば、音も無く扉は進入を許した。そして拳一つ分ほどの隙間を作る。すると暗闇から小さい黒いものが飛び出してきた。 月精のゴーレムである。 それは忙しなく神田の周りをグルグルと飛び回ると、彼の肩に着地して蝙蝠のようなその羽をばたつかせた。 その様子がまるで 入れ、と言っているようで胸騒ぎを覚えながら暗闇へと足を踏み入れる。 廊下から差し込む心細い光では流石に闇の中。灯りを点けたいがこの部屋にはベッドのサイドテーブルにしかランプは無かったはずだ。 とりあえずそこまで行こうと手探りで進めば、何か薄く硬いものを踏んだらしい。足の下にあるそれを徐々に慣れ始めつつある目で確認すれば、掌程の長さの銀の刃を持った抜き身のナイフだった。 手に取りながら彼女はこんなナイフなど持っていただろうか、何故床に、と疑問に思うのもつかの間。室内の異様な光景に気付く。 ベッドには寝ていた痕跡はあるが、部屋の主の姿は無く、窓辺にある椅子は倒れていた。その横のスタンドの下には掛かっていたのであろう彼女の団服がグシャグシャになって転がっている。 ただならぬ気配に一先ずコムイに連絡をしようとゴーレムを取り出した。 ふと部屋の片隅にうっすらと光が漏れていることに気付く。光の進入を許すのはこの部屋の洗面所へと続く扉。微かに人一人分の気配もする。 ここにいたのかと安堵しつつ、何故反応が何も無いのかと疑問に思いながらノックをし、声を掛けた。だがやはり応えは無い。 仕方ないと深呼吸を一つしながら扉を開くとそこは、 赤に染まっていた。 |
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