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ガタガタと身を揺らす鉄の箱は、灰黒い熱い吐息をこぼしながら地を駆ける。

向かい合わせに座ってはみたものの、好意を寄せる女性と二人きりという状況下、僕は平静を保とうと普段なら有り得ないほどティムキャンピーを構っていた。今監視役は中央庁に呼び戻されているため、その代役はティムのメモリーだ。
リンクの本を捲る音が無いと、これほどにも人の発する音が少ないのかと思ってしまう。
そんな緊張をする僕を他所に、月精は強い意志を灯す瞳を手元にある数枚の羊皮紙に向け、一心にそれを読んでいる。

彼女に声を掛けていたのは殆ど無意識の所作だった。
返ってきたのは生返事。でも、一区切りついたらしい所で目を合わせてもらえた。

『なんだ』
「あ、いや…ずっと何を読んでいるのかなって」
『これか?楽譜だ。モテットの[Quem vidistis](クウェム ヴィディスティス)』
「クウェム ヴィ…?えっと…、曲とか全然分からないので…」

そう正直に伝えると月精はその整った顔の眉間に少し皺を寄せてしまう。

『アレンはカトリックじゃないのか?』
「一応…?」
『それなら知っていると思うがな。まだ譜読みが全て終わったわけではないが、』

月精は一呼吸おくと、旋律を奏し始めた。

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