夏祭りの帰り、高尾君は私の家の前まで送ってくれた、そういう優しさに女の子が勘違いするんだよと少しだけ高尾君をうらめしく思った。 鶴ちゃんには「恋だけど恋愛はしない」だけ送った、私の気持ちがそうだったから、そのままの文にした、返信は「大丈夫」だけの文だった。そのメールに私は何故か泣いた。 八月になったら高尾君も鶴ちゃんも部活動に忙しくなる。八月の間は特になにもせずだらだらと過ごすつもりだ、少しだけ寂しいとは思ったけど駄々をこねるほど私は子供ではない。 両親が共働きで友達は早い間に私の近くにいなかったから独りは慣れていた、久しぶりに近くに人間が居すぎたんだ、昔に戻ればいいだけの話。それだけの話だ。 そんなわけで独りで過ごして一週間、図書館で借り込んだ本の五冊目を開く、最近人気がでてきた恋愛小説、内容は普通な女の子がかっこいい男の子と恋愛する王道的な話だった。 ちょうど物語が中盤まできていた、いきなりでてきたもう一人の男の子にヒロインが告白されるシーンの時、私の携帯が小さく鳴る。 「……」 着信、しかも高尾君からで電話だ、いや、これは出たくないな、メールじゃなくて電話だもの、うん、出たくない。 「…もしもし」 仕方ないんだって一週間独りでいたら人と会話したりしたくなるじゃないか、大丈夫すぐ切るから、普通の会話するから。 『雫ちゃーん?』 「はい」 『おーお久しぶり!!元気?』 「高尾君も元気?」 『元気っちゃあ元気だけど今合宿中なんだよな!!もうすぐ元気じゃなくなる!!』 「お、おおお…そっか…」 『だから雫ちゃんに電話した』 じわりじわりと顔に熱が溜まっていくのがわかる、恋したら世界が変わるとかそんな風にいうけど私の場合は顔にでるみたいだ、無表情の癖に、あー電話でよかった。 「…が、頑張って」 『おう頑張るー!!』 「た、高尾君」 『ん?』 「あの、電話とか、メールとか、しても、いい?」 『………』 別に好きだといってるわけじゃないしいいだろう、今以上の関係を求めてるわけじゃないから少しだけ、少しだけ… 『…俺からもするからね?』 「!!うん、ありがとう!!」 友達として過ごしたい。 ←|→ ⇒top |