秀徳高校に入ってはじめての席替え、後ろに真ちゃん、前には同中、前隣はクラスのマドンナ(同中)、

隣になった女の子は表情筋が死んでいた。
死んでんじゃないかってぐらい無表情だった。

門田雫ちゃん。隣になって一週間。挨拶を返せばちゃんと返してくれるし、話題をかければちゃんと返してもくれる。
ただし門田ちゃん、一切表情がかわらない。笑わない、悲しまない、怒らない、常に真顔、無表情。

横をみればブックカバーつきの小説を黙々を読んでいる門田ちゃんがいた。
黒、より焦げ茶色に近い髪が肩より少し下でゆらゆらゆれている。
伏せ目がちのやる気の無い目が小説の文字をかなりハイスピードで進み読んでいくのがわかった。


「何よんでんの?面白い?」


不快にさせないように笑顔で喋りかけてみる。門田ちゃんは肩を震わせ小説を閉じた。


「……おや、」
「え?」


小説の文字からゆっくりと視線が上に向く、透き通った瞳が俺をうつして止まった。
まるで吸い込まれそうなぐらいに俺だけを見つめる。


「お山に布団が、ふっとんだ、おやまー」
「……は?」


表情は全くかわらない、かわらないが、なぜか真剣にみえる、じっと俺を視界にいれて駄洒落だけを言っておしまい。なのに俺と門田ちゃんの間に緊迫した空気がなぜか流れていた。
ふう、と息を吐いて目を一度閉じて、また目を開ける。


「高尾君。どうかな、ちょっとでも笑える?いや無理か」


え、俺は一体門田ちゃんにどんな反応をしたらいいんだ。笑えば、いいのか?いや、この場合笑うのはある意味失礼なのか!?
どこに視線合わせばいいかわからない「あーうん、笑え、ない」歯切れ悪く返事をかえしてもやっぱり表情はかわらない。
無表情のまま考え込む様に顎に指を当てる、また緊迫した空気が流れ、数分後門田ちゃんが口を開けた。


「高尾君、一つお願いしていいかな?」


やっぱり無表情のままでいった門田ちゃんの俺は意味もわからず「え、ああうん!!」と返事してしまった。


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