「向日葵って以外に重いよね」
「……ひまわり、が?」


“花言葉”と表紙に書かれた本をぺらぺらとめくっていく。
今気づいたが、図書室で勉強がしたいと言い出したのは高尾君なのに、ちっとも勉強しない。


「向日葵は重くないよ」
「あ、いやいや、違う違う、花言葉とかそういう意味で」


ぺらり、またページが捲られる。


「雫ちゃんにさ、高尾君向日葵みたいだね、って言われてから興味もって」
「…う」
「自分でいった事じゃん、照れないでよ」


クスクスと笑われるのは少し癪に触る、笑顔は好きだが、高尾君のからかうような笑いは少し苦手だ。
向かい合う様にして座ってるために顔を背ける事ができないのも嫌だ。


「向日葵の花言葉ってさ、王道なのから外れたら結構悲しいのもあるんだよね」
「色とか大きさでも異なるからね」
「大輪の向日葵は偽りの富とか、偽りのお金とか、大輪なのにこんな扱いだし、紫の花言葉なんて悲哀なんだって」
「紫色とかあるんだ」


私がイメージする、というよりポピュラーな向日葵は、太陽の様に明るい黄色の花弁をつける。
紫の花弁がある事に驚きだが、大輪に偽の富なんていう寂しい言葉をつけなくてもいいような気がする。


「しかもどっかの神話じゃ失恋した神様が向日葵になったんだって」
「失恋ってのは縁起が悪い」
「ねー!俺達付き合いほやほやのラブラブカップルだもんね!!」
「勉強!」
「…今まで雫ちゃんものってたのに…」


いきなり右手に指を絡められるもんだからびっくりした。高尾君のやる事なす事心臓に悪い。
勿論高尾君はシャーペンに手をつけずまたページを捲った。


「でもそれ以上にいい言葉ばっかりなんだよね、向日葵って」
「例えば?」
「熱愛、光輝、愛慕、敬慕、憧れ、願望、負けない、自由な愛、未来をみつめて、元気な子供、太陽の恵み…とか、まだある」
「多いね」
「種類が沢山あるからねー、…俺、わりと向日葵だ」


ぼんやりと高尾君を眺めていたら、いきなり目があってどきりとする、やっぱり心臓に悪い、しかも何故か少し真剣な目だから余計にどきどきする。


「だってさ、俺が雫ちゃんに対する思いの代弁じゃん、向日葵の花言葉」
「例えば」
「未来をみつめて元気な俺の子を産んでね!!とか」
「……飛躍しすぎ」


こういう事恥ずかしげもなくいうんだから、高尾君は。
なんとか仕返しがしたくて高尾君がもってきた花言葉の本の一つから良さげな花言葉を探す、何か不意をつける言葉がないものか、
そして私の指は日輪のような花の所でとまった。


「…高尾君、案外私も向日葵かも」
「へ?」
「“あなただけをみつめる”」


向日葵の花言葉は本当に多い、これが薔薇とかになったらさらに多くなるのだから驚きだ。
私の発言に完全に不意をつかれたのか、「あー…」と、困ったように呟いた。


「…雫ちゃんどこでそんな口説き方教えてもらったの」
「自己流!」
「あっ、そ。くっそ、可愛い」
「はい、遊びはここまで、高尾君、勉強!」
「はーい」


テストがもうすぐあるのが憂鬱だ、だけどそんな事も小さな幸福になるんだから、青春ってほんと凄い。


「雫ちゃん」
「ん?」
「向日葵ってさ、“笑顔”っていう花言葉もあるんだよ」


悲哀、偽の富という不吉な花言葉から始まり、憧れ、熱愛、愛慕、あなたをみつめる、なんていうロマンチックな言葉。そして笑顔。
案外、私も高尾君も向日葵なのかもしれない。


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