音楽室、それは殺伐した話をするには持ってこいの場所…と、高尾君がいっていた様な気がする。なんか色々尾びれがついたような気がしないでもないが、大体あってる様な気がする。

落ち着け門田雫、まず先手必勝だ。此方から先にアクション起こせば私の勝利だ。

深く、深呼吸した。


「雫ちゃん?」
「う、ぇげっほ!!」
「うおお何!?どうしたの雫ちゃん!?」


背後から不意討ちとは相変わらず狡い。深呼吸した時にきたもんだから噎せたじゃないか、ほんと狡い。


「ずっる」
「え、何、ご、ごめん…」
「狡いわ、高尾君狡いわー」
「ちょ、ごめんて!ね!?」
「…」


手を合わせて謝る高尾君をみて先手必勝とか忘れてしまった。もうやだ、高尾君狡すぎる。私なんか全然狡くないと思う。


「あー…、お父さん、はどう?」
「…ありがとう」
「へ」
「本当にありがとう、高尾君、ありがとう」


涙を溢さないように我慢する。久しぶりに私のお父さんがお父さんだった。もう一生わかりあえない気持ちでいた私が子供だった。
世の中は思っていたより難しくなくて、求めている物をくれる人だっていて、それで皆どんどん変わっていくのに、幸せで幸せで…


「高尾君、」
「…雫ちゃん」


言おう、彼に伝える言葉は一つだけだ。


「…これ」
「あ、」


淡い黄色のノートを高尾君に渡す、これで全てが終わる、このノートが始まりで、もどかしい関係の終止符なのだ。

…そう、このノートに全てがあるわけで…


「…じゃ」
「……え?」
「じゃじゃじゃあね高尾君!!そのノートに全部書いてあるから!!明日学校でね!!!!」
「…はっ、あああああ!?」


鞄を引っ付かんでドアへ走りだす、運動神経なんてあるわけないが、私には走りだすしかないのだ。

逃げるが勝ち、狡い私ができるのはノートまでだった。


「まて、って!!」
「う、ぎゃあ!?」



←|
top