「……」
「それでですね、雫ちゃ…雫さんがくしゃみしたんですけどそのくしゃみの仕方が可愛くてですね…」
「…高尾君、またずれてる」
「え、あ、あーと、あ!雫さんが授業中眠くなった時なんですけど」
「やめて!高尾君もうやめて!!」


思わず顔を覆った。

“私の話”は高尾君の隣になった時からはじまった。事細かに話された私の出来事にお父さんは無表情、お母さんは一喜一憂しながら話を聞いてくれた。
問題は文化祭の終わり頃から起こった。私のメイド服が可愛かった、からはじまり、“私の可愛い所”について此方も事細かに話はじめた。

くすくす笑うお母さんと眉間に皺を寄せるお父さん、満面の笑みを浮かべ、嬉々として話す高尾君と顔を覆う私。なんなんだこれ


「とにかくほんと雫さんは可愛いんですよね天使です彼女」
「褒めてもらってよかったわね雫」
「……」
「……くだらんな」


無機質的な声に足に錘を付けられたみたいに固まる。やっぱり結局はこうだ。否定と嘲笑、蔑み、お父さんは変わらない。高尾の手首に指を絡めた。“支え”がないともう私はここにいられない。


「お前、勉強はどうしたんだ?昔は友人どころか、親しい人間すらいなかったのに、上辺だけの友達など暇潰しにもならんぞ」
「…上辺なんかじゃないもん」
「横にいる軽薄な男をみてみろ」
「っ!!」


嫌悪が沸いた。それだけは駄目だろう。何も知らない癖になんで高尾君の悪口をいうんだ。何もしてくれなかったお父さんより何倍も何倍も何倍も何倍も助けてくれたのは高尾君なのに!!


「お父さん!」
「何も知らないのに言わないでください」


明らかに怒りを含んだ低い声が響いた。


「貴方がどれだけくだらないと蔑もうが、今の彼女を作り出したのは昔の彼女です。どれだけ無意味だと言おうが彼女が作り出した笑顔は何にも変えられない素晴らしい物でした。俺がいうのは甚だ可笑しいかもしれませんが、彼女の努力を嘲うのはやめてください」

「…随分と、偉そうな口を叩くな」

「…大切で大好きな人の悪口は聞きたくありませんから」


重力に逆らわずに、私の涙がスカートに水玉模様を描いていく。


「…雫ちゃん、自分の部屋いってていいよ」
「………うん、ごめ、ん」


息が絶え絶えになった私を宥めるように擦られた腕に頬を押し付けた。



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