執事メイドカフェに、三人で戻る。北本さんは「あかん」と呟いて俺達を席に通した。


「改めまして、はじめまして、雫の母ですー」
「あ、た、高尾和成です、雫ちゃ…門田さんとは仲良くさせて…」
「聞いてるわよ高尾君、そんなかたくならないで」


ほほほと上品に笑う女性は、かなり雫ちゃんに似ていた。


「お、お母さん、なんでいるの」
「いいじゃない、ちゃんと券貰ったし」
「置いてたの!」


わーわーと雫ちゃんが声を大きくして怒る。何故か全体が緊張する店内。ふざけんな一番緊張してるのは俺だ。


「…み、みるくてぃお持ちしましたあ!!」


討論する二人の会話を遮り、裏返った声と共にミルクティーがテーブルにコトリと置かれる。
何事かと上をみると真っ赤な顔をした鶴ちゃんが顔を隠していた。おい鶴ちゃんまだ注文すらしてないぞ。


「あなたが結城さん?」
「は、はい、門田さんとは、良い交友関係を結んでおりまして…」
「あらやだ貴方もかたいわー」
「はいすみません!!」
「鶴ちゃん落ち着いて本当に落ち着いて!!ただのパート主婦だから」


ああだめだ、これは崩壊していく。俺もかなり緊張しているが鶴ちゃんは使い物になる気がしない。厨房へ鶴ちゃんが戻り、島田が皿を割った。…

…島田は関係なくね?


「沢山友達いるのねー」
「う、うん、あと美亜ちゃんとか、緑間君とか島田君とか北本さんとか…」
「楽しそうでなによりよ」
「…うん」


ああ、なんだ、なんか普通の親子になりそうじゃんか…
正直俺は緊張でまともに喋れる気がしないから安心だ。

三分ほど和やかな時間が流れる。自宅でしそうな親子の仲睦まじい会話に、周りも普通の接客をはじめる。
俺もそろそろ仕事に入るか、と席を立った。


「あ、あと、お父さんが帰ってくるって、」
「はぁ゙?」


瞬間、場が凍てつく。客からあの真ちゃんまで、雫ちゃんのあまりの声に低さとドスの効いた声に活動を停止した。
俺もはじめは何事かと思ったが間違いない。間違いなく元は雫ちゃんのキュートボイスだ。


「なんで」
「家族だからよ、次の日曜日に…」
「私その日居ないから」
「…なんで?」
「お父さんと顔合わせたくない」


一気に氷河期になった店内、俺は何事もなかったかのように席に座り直した。



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