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『夜いる?』『いるよ』

これだけのメールやりとりで僕らはセックスの約束を取り付ける。正確に言うとあの男の一方的な性欲処理とか憂さ晴らしに 利用されてるだけなのだけれど。

そんな訳で今日もこいつはどこで女の子だか男の人だかと遊んできたのやら、なぜかスーツ姿で酒臭いまま勝手に僕のアパートにあがり込んできて、僕が文句の1つも言う前にあっという間 に押し倒してきた。左手にしたままの腕時計が一瞬目に入って、もう3時回ってるじゃん、と思う。

「ちょ、――ん、ふっ」
「うざい、黙ってて」

酒焼けなのかタバコのせいなのか、喉が擦りきれたみたいなが さがさした声で耳元で囁かれ(ただ声が出ないだけなんだろうけど)、不覚にも色っぽいと思ってしまう。

酒とタバコの臭い がする最悪なキスも、無茶な脱色ですっかりキューティクルを失ったオレンジ色のまだらな髪が顔に落ちてきてチクチクする 不快感も、シーツを明日洗濯することを考えてもう襲いかかる 疲労感も、声を聞くだけでスイッチが入ってしまった僕には些細なことでしかなくなっていく。

「ん……っぁ、は」

鬱陶しいくらい長くて乱暴なキスの間に、雑に服を脱がされていく。Tシャツがめくりあげられて、部屋着用の適当なズボンが意図も簡単に剥ぎとられた頃には、なんでかわからないけど僕はもうこの男に早く抱いてもらいたくて仕方がなくなってい る。

ようやくキスから解放されて荒い息を吐いていると、片手で自 分のベルトを外す音が聞こえてくる。

もう片方の手は僕の頭の横についたままで、男の顔がずっと近くにあってちょっとだけ 緊張する。目の下に隈があるから、多分寝ずにずっと飲んでたんだろう。

いつからだろう。誰とだろう。それは楽しいんだろうか。僕は酸欠でぼんやりする頭で考える。

酒が結構回っているみたいで、ベルトを外すのに手間取っているみたいだった。こうやって何もされないちょっとの時間が苦痛だと感じるようになったのはいつからだっけ。気にしちゃいけないことが次から次へと浮かんで消える前にまた浮かんでくる。

僕はそれを1つも目の前にいる男に聞けなくて、意味ありげに見つめてみるけど返事が返ってくるどころか視線も合わせて くれない。

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