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「あ、あっ…――ん、っ、…ぁ」

こいつはいつだって何も言わずに僕のことを抱く。

自分はネクタイを緩めるだけでほとんどスーツは脱がずに、ほぼ全裸の俺を組み敷いて、必ず正常位で僕を見下すみたいにする。でも絶対目と目は合わせないで胸とか首の辺りをぼんやり睨み付けな がら無造作に腰を打ち付ける。

最初から最後まで、僕のイイところとか悪いところとかは一切お構い無しに好きなようにされ る。痛かったりたまにすごく良かったりするこの行為が、だけど僕は好きだった。

たまに寂しくなるとわざと大きな声で喘いでみる。そうすると 「うるさい」とか「黙ってろ」ってあの声で言われて少し強めに突かれて僕のスイッチがまた押されてしまう。

「っん、あ……っ、っふ」 「――――ッ、ぁ」

健気に声を押さえて、されるがままに感じていると、滅多に言葉を発しない口から微かに息が漏れ出す。と同時に僕の中のモノが存在感を増して、切羽詰まった動きに変わっていく。

僕はこの瞬間が好きだ。それまで無表情だった整った顔が少し辛そうに歪んで、あ、とか、ふ、とか小さく漏らすのがたまらなくいとおしい。僕の中がきゅうきゅうと締まっていくのがわかる。それだけこいつも僕も気持ちよくなっていく。

「ひ、――ぁ、や、も…っ!」
「…っ、く」

ここにきてようやく、最後のお楽しみとばかりに僕のに構って くれる。

それはやっぱり僕を気持ちよくさせるためのものではないから、右手でぎゅっと握り込むと決して優しくない動きで 責め立ててくる。でもここだけは絶対に痛くしない。だから僕もひいひい感じて声をあげてしまう。

「っ、あっああっ――も、イく、」
「――っふ、ぁ、……っ!」

今まで無理に我慢して歪ませていた表情にいよいよ余裕がなくなって、明らかな昂りが滲むと、一瞬遅れて僕の中に熱を吐き 出した。僕も自分の腹を汚しながら絶頂して、余韻に浸りながらまだ中でドクドク脈打つものを感じて満たされていく。



疲れていたのは始めから分かってたし、好きなだけ余韻を楽しんだらさっさと僕から出ていくのはいつものことだけど、後処理もせずに背中を向けてもう寝息をたて始めたのに少し驚いた。

僕も今日は自分の身体すら拭くのが億劫で、服を汚さないように少しだけ背中に頭をくっつけて隣に並ぶ。

こいつに聞きたいことも言いたいこともたくさんあるけど、今はただ珍しく一緒に寝られる時間が嬉しかった。

シーツを洗うのは少しだけ先延ばしにしよう。酒とタバコの臭いにまどろみながら、僕はそんなことを思う。





(次:あとがき)
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