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『…触ってほしい?』

その日唯一聴けた男の言葉を頭の中で何度も何度も再生しながら、俺は自分の身体をまさぐった。

「…触って…っほし―」

トイレの個室、外に声が漏れないように口の中でつぶやきながら、乳首にはまだ触らない。自らを焦らすように、人差し指で乳輪の周辺をくるくると執拗になぞる。それだけでも声が出そうなほど、昂っていた。身体中の熱を逃さないために、あの声を忘れないために、もう一度思い返す。

『…触ってほしい?』

低くて、少し掠れた、冷静だけど熱を含んだ声が俺の耳元で囁く。我慢ができなくて無意識にガクガクと頭が縦に揺れる。俺の指が左右の胸の中心に近づいていく。螺旋を狭めながら、ゆっくり、ゆっくり。

「はっ…ぁ……」

まだ触れないうちから吐息が漏れるのを押さえられない。乳首に触れたときの快感を想像してさらに荒い息を吐いた。

どこの誰とも知れない男の指に見立てた俺の人差し指が、すっかり待ちわびて固くなっているそこに触れる。

「――っ!…っは」

一瞬遅れて背中をかけ上る快感の大きさに、危うく喘ぎ声を呑み込み損ねて口を大きく開ける。すんでのところでやっと声を押さえた俺の理性なんかお構い無しに、一度快感の波を経験した身体は勝手に赤く膨らんだ乳首を苛めだす。

『…触ってほしい?』

霞みがかかった頭の中に三度、あの男の声が蘇る。俺は一体どうして駅のトイレで自慰に耽っているのか。やけに冷静な自分が今朝の出来事を思い出していた。

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