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豪奢なベッドは、少年一人が寝るのには余りにも広すぎるように見えた。しかし大人三人がゆうに寝られるほどのサイズも、花崗岩の柱が支えている煌びやかな天蓋も、アミルにとっては日常の一部でしかないのだろう。何の疑問もない様子でそこに一人腰を下ろしている。

だが、その顔には、焦りのような、何かをこらえるような表情が浮かんでいた。先ほどからそわそわと自室の扉を見ては、かすかな物音にも顔を上げて反応する。だがそれが自分の期待していたものでないとわかるとまたベッドに座り込む。

その動作を先ほどから何度も繰り返しては虚しく時間をすごすばかりで、何も手につかない様子だった。

いつになく涼しい夜だというのに、せっかく清めた少年の身体はうっすらと汗ばんでいる。頬は上気し、開けられた窓の外から聞こえる虫の音も自分の浅い息切れで耳に入っていないだろう。

不意に部屋に響いたノックの音に、アミルが跳ねるように立ち上がる。扉がぎいと軋んで、ようやく待ち望んだ人物が現れた。

「―― 遅い!」

ハリードの姿が見えるやいなや、アミルは鋭く言葉を投げつける。しかしそれには玉座での尊大さも威厳も身を潜めている。声はわずかに上擦り、せっぱ詰まった気色が見て取れた。

アミルの一喝にも、不自然な様子にも、やはりハリードは顔色一つ変えない。相変わらずの慇懃さでドアを閉めると、入口に立ったまま律儀に頭を垂れる。

「申し訳ございません。夜着の用意が――」
「そんなものはどうでもいいだろう! …っ早く、しろ!」

少年は今にも男に食らいつきそうな勢いで怒鳴り付ける。そこで、男の表情に、喜怒哀楽のどれともつかないわずかな色が差した。

「しろ、とは――一体何をして差し上げればよろしいのでしょう?」

演技がかった動きでわずかに首を傾げたハリードに、アミルはますます神経を逆なでされたようだった。扉のそばに立ったままのハリードと自分の距離すら苛立ちの原因だと言わんばかりに、一歩、身を乗り出す。

「いいから…っ、早くこれを、外せ!」
「これ、とは?」

あくまでも惚ける様子で、ハリードはそこに立ち尽くしたまま、初めて口元に笑みを浮かべる。アミルは歯噛みをしながら声のトーンを下げていく。身体が火照り初めているようで、小さな顎から汗が一滴落ちてシーツに染みを作った。

「…お前、俺をバカにするのもいい加減にしろよ」
「――バカにする?」

瞬間、ハリードの表情にわかりやすい変化が表れた。それまでわずかに伏せていた目をあげ、アミルをまっすぐに見据えた。その眼光は暗く鋭く、怒りをあらわにしていたアミルも言葉を詰まらせる。

「一体――人をバカになさっているのはどちらでございましょう? 王子アミルは昨日お教えしたことも忘れてしまうほどうつけなのですか?」

言いながら、厳しい表情をかえずにつかつかとアミルの元に歩み寄る。

「“おねだり”の仕方はそうじゃないでしょう?」
「―――っ!」

あっという間にアミルの元にたどり着くと、そのまま両の手首を押さえ込んでベッドに押し付けた。アミルは咄嗟に目をつぶり、さほど抵抗もなく後ろに倒れ込んでしまう。すぐに目を開き、ハリードをにらみつけるが、その瞳はうっすらと潤んでいた。

黒曜石の瞳を堪能するようにのぞきこみながら、ハリードはアミルの身体を包むローブを一気に胸までめくり上げた。

「ああ――もう、こんなにして」
「っあ、見る…なぁっ」

衣服をめくりあげられて露わになった小麦色のきめの細かい肌に、うっすらと紅が差し、なまめかしく色づいている。少年から大人への過渡期の身体には、色気とあどけなさとが同居していた。

しかしなにより目を引くのは、その中央でいきり立つ生殖器だった。根元を金属のリングで締め付けられて、先端は赤黒く充血している。鈴口が開いたり閉じたりを繰り返しながら透明な液をとぷとぷとこぼし、自らの腹に塗りたくり、汚し続ける。

ひっきりなしに溢れる先走りは、厚手のローブも透けようかという量に達している。それを見てハリードは笑みを深くした。

「今日一日中この様でいらっしゃったのですか? 従者たちの目の前で、こんなにもはしたないものを隠しておられたのですね」
「言、うな…!」
「彼らが知ったらどう思いますでしょうね? 将来、一国を背負う王子が、――ローブの下では性器をこんな風になさって、興奮して悦んでいらっしゃるなんて?」
「ふざ、け…お前が、こんなの、付けたんだろ」

言い返すアミルに、ハリードはより顔を近づけて、わずかにからかいを含んだ声で囁く。

「“こんなもの”を付けられて、勃起させているのはどなたですか?」
「……ぁっ、は――!」

くすぐったかったのか、それともハリードの言葉に反応したのか、身をすくませてアミルが声を上げる。

アミルが恥じる様子にハリードは満足げに目を細めた。羞恥に耐えられなくなったのか、アミルは組み伏せられながら顔だけを背け、強気な態度を保とうと声を上げる。

「いいから、早く外せよ!」
「…いけませんね、そんな態度では。お教えしたでしょう、“おねだり”はどうなさるのですか?」
「……っ、言えるわけ、」
「言えない、と?」

ハリードはおもむろに身体を起こし拘束を解くと、妖しい笑みを張り付けたままアミルの膨れ上がった性器に手を伸ばす。

「あっ―――はぁあ! さわ、る、な…ぁ!」
「どうして? アミル様のここは、とても嬉しそうにビクビクしていらっしゃる」

性器全体を手で包み込むようにして、くちゅくちゅと揉むように擦り上げるとアミルの身体がひきつったように反り返る。性器を弄ぶハリードの手を、必死に引きはがそうとするが、ろくに力が入らない様子だった。

「やめっ、ろ、ハ、リ…ドッ、貴様――っ、あ、っああ、っんぁ!」
「貴様? そのような下品な言葉を使われてはなりません」

それまで性器全体をまんべんなくこね回していた手が、亀頭に標的を絞って添えられる。もう片方の手で竿を握り込むと、アミルはこれからくる刺激への恐怖で、必死に腰を引こうとする。

「お逃げにならないでください」
「それっ、だめ、そんな、したら―――」
「――― お仕置きです」
「――――っぁぁああアアア゛ッ!」

す、と目を細めて、何のためらいもなくアミルを責め立てる。先走りを塗り込むように手のひらで亀頭を摩擦しながら、射精を促すように竿を一定の速度でしごき上げていく。

「―――ッあ、 ――ッッ! ――――っぁッあっ!!」

外に声が漏れるのを気にしているのか、それとももはや声を上げる余裕もないのか、少年は吐息だけで嬌声を漏らす。その身体はびくびくと震え、声色もあっという間にせっぱ詰まっていくのがわかった。

「うっあ゛! な、に――っ? あ、なん――か、ッぁあア!!」
「ああ、お行儀悪くシーツを汚されては……染みになってしまいますね。洗わせていただく私の身にもなってくださいませんか?」

アミルの先走りはすでに腹や股を伝い、シーツに次々とこぼれ落ちている。しかし当の本人はそんなことにかまっていられない様子でハリードの手をのけようと躍起になっているが、相変わらず力は入っていない。

「やっ、め、ぁ、ぁっあっあ――っあ゛っなんかきちゃ、っぁ!」
「お仕置きですのに、ずいぶんと腰がいやらしく動いていらっしゃいますね?」
「っあ゛、イけ、なっ――のに…! 腰っ勝手、にぃッ――!」
「そんなに嬉しいですか? 射精できないままにこんな風に、いやらしく…いじめられて?」

射精を封じられた状態でも、腰は勝手に持ち上がり、ハリードの手に合わせてうねうねと激しい上下運動を繰り返して排泄を促そうとする。

「あ゛っ! も、やめ、て…! あ―――は、っあ゛!」
「…あぁ、アミル様のが、私の手の中でビクビクと悦んでいらっしゃいますよ」

快感が飽和しきっているそこを、ハリードの指が這い回り、甘い刺激を注ぎ足していく。

裏筋から鈴口にかけてを親指で擦り上げながら余った指で敏感な粘膜をくすぐるように掻き撫でる。もう片方の手は先走りを全体に塗りつけるように根元から括れまでを粘っこく、にちゃにちゃと音を立てながら往復する。

アミルの性器をすっぽりと包み込んで余りあるハリードの両の手が、そこに寄生する軟体動物のように這い回りつづけると、アミルの腰はますます浮き上がり、身体は波打つように快感を全身に送り出していく。

しかし根元をせき止められたままで、快感の逃がしどころを失ったアミルはそれをすべて小さな身体で受け止めなければならない。

のけぞった身体を硬直させたまま、射精直前の、あの脳みそが痺れるような甘すぎる刺激を受け続け、ぶるぶると身体を震わせている。

「あ、ああ! ああッ! ――あああ゛っ! こん、な―――ぁあッ!?」
「射精なさるよりも気持ちがよろしいのに、イケないのはお辛いでしょう?」

もはや聞こえているのかもわからないアミルに、それでもハリードは卑猥な言葉を並べて追いつめていく。その顔はうっすらと紅潮し、嗜虐に酔う笑みが浮かんでいる。

「ですが、すぐに教えて差し上げますよ。その辛さ以上の快感を、」

巧みな指技がアミルの昂りに次々と熱を送り込む。やがてアミルの身体に異変が起き、溜まりに溜まった快感が決壊するときがきた。

「ふっぁ――! な、ッこれ、来ちゃっ…くる、クる…のぉっ!」
「構いませんよ。そのまま、お好きなだけ、気持ちよくなってください―――」

ハリードの甘く低い声に導かれるように、アミルの腰がぐいと突き出される。絶頂の波の予兆に身体を突っ張らせてだらしなく口を開けたまま、わなわなと顎をふるわせるアミルを白く長い10本の指が、その中心を余すところなく容赦なく責め立てていく。

「――――――っぁ!! ――ッあ――――ッあ゛っ! 」
「ああ、すごい。アミル様――ほら、よろしいですよ」

ハリードの僅かに興奮した声がアミルの脳みそを震わせる。

アミルの張り詰めた性器を中心にへこへこと腰が振り動かされる。すぐにそれは大きな痙攣となり、アミルを射精を伴わない絶頂がおそっているのだと分かった。

声も上げられずに、ハリードに性器をしごき上げられたまま、自由になる四肢も意志とは関係なしにのた打ち続ける。

「―――あ! ――は、ぁ…っ! …………っ」

ようやく身体をベッドに沈ませることの出来たアミルだが、 慣れない快感に神経が沸騰したまま、シルクの衣擦れすら小さな絶頂を引き起こす。

絶頂に痙攣するたびに身体全体が滑らかな刺激に包まれ、また腰を跳ね上げる動作をベッドの上で独り繰り返す。熱が治まるのにしばらく時間がかかりそうだった。
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