「兎崎こそこんな時間にスコップ持って何してんだよ…まさか何か埋めてたとか言わないよな?」


ユウタはスコップと兎崎というなんとも不気味な組み合わせに苦笑いすると、もしかしてなにか触れてはいけない事に触れてしまったのではと不安な表情をみせた


「掘ってたんだよ」

「何をだよ?」

「手伝ってくれるなら教えてあげる。」

「えー…やだよなんか怖ぇもん」



兎崎はユウタのその言葉に笑いながら鍵を取り出すと硝子戸の前に立った


ユウタはやっと落ち着いたかの様にひとつ息をついた

先程までたえられない程の恐怖を感じた暗闇の商店街も、何故かこの不気味な店主と一緒だと少し平気な気がした

もし今幽霊がでたとしても
兎崎がいればきっと大丈夫だろうという安心感も暗闇が平気だと感じた理由のひとつだ


が、よく考えたら兎崎の事は何も知らない

知っているのは
ここで駄菓子屋をやっている兎崎という人
それだけだ

母には兎崎はそんなやつじゃないとだいぶ知ったような事を言ったが
そもそもそんなやつじゃないと思ったのは、この駄菓子屋のこの不思議な店主と自分が顔見知りになったというどこから出てきたかわからない優越感と
自分が勝手に味方だと思い込んでいるという事のふたつだけで

人を信用する根拠としてはまったくなにもかもが足りていないどころかずれている

今更ながらよく知らない人を頼るのはどうなのだろうかと思い
こんな時間にスコップを持つ兎崎を前に母の言葉を思い出した


「なぁ、兎崎って…悪い人じゃあないよな?」

「僕が?やだな急に何言うかと思ったら。」


鍵の開く音が暗闇に響き消えた

と、兎崎は何かに気付き開けた鍵を再びしめ、硝子戸に僅かに映るいつの間にかそこに立つ第三者に話し掛けた


「まーた何か用?」


兎崎の問い掛けに暗闇の中姿を見せたのは坊主の男だ

「あ、またお坊さん」

そうユウタが口にすると男はこんばんはと笑みをうかべ兎崎の方を見た

「まだ言い足りない感想でも言いに来た?」

兎崎は硝子戸に背をつけ腕を組み男の目をみた


「いえ、この時間は運動で散歩をしている事が多くて。そしたらたまたま見かけたものですからそのぉ…その状態を」

そう上から下へ目を行き来させる坊主の言葉にきょとんとすると兎崎は「ああ」と眉をあげ
泥だらけの自分の着物とスコップを見た

「無理もないね。」

そう言うと兎崎はスコップを立て掛け両手を叩き泥を払った

「さすがの僕でもこんな時間にこんな人みかけたら怪しいと思うよ、近くに畑でもあるか…僕の仕事が庭師なら別だけど」

それ以上何も言わない兎崎のその格好を疑うような目で見る坊主にユウタが口を開いた

「埋めてたんじゃなくて掘ってたんだからな!」

なんのフォローにもならないようなユウタの言葉に兎崎は笑いながら「そう」というと
これでこの話しはお仕舞いと言うかのように坊主に背を向け再び硝子戸の鍵をあけた

「埋めてたにしろ掘ってたにしろ怪しい事に変わりありませんよ店主さん。町の人の不安が拡がるような事は避けてもらいたいものですが…」

「いやだな人聞きの悪い」

それだけ言うと硝子戸を開け店内に入ろうとする兎崎を引き止めるように、坊主は慌てて声を駆けた
「ひとつ聞きますが店主さん、名前は?」

「兎崎だよ。」

「違う。下の名前ですよ」

男の言葉に兎崎は目を開き息をのんだ

いつもどんな事を聞いても
適当だろうがずれたような事だろうが何かしら答えを返す兎崎が珍しくその質問には口を閉ざした

ただ店内を見つめ何か考えている兎崎をユウタが心配そうに見上げる

いつもにこにことしている顔が印象のその店主の口は横にむすばれ瞳は何か思うように一点を見たまま動かない

暫くして兎崎はいつもの笑顔をつくると男の方を向いた

「さぁ、忘れたかな。」

またはぐらかした答えを返したのかそれとも本当に忘れたのか
そう返す兎崎に坊主はポケットから畳まれた紙を渡した

「散歩ついでに渡そうと思いまして」

そう言う坊主から兎崎は目を離さずそれを受けとる

「それを見てもしやと思って持って来たんですが…スコップを持った店主さんを見てなんとなくわかったかもしれません」


坊主の言葉に眉を寄せると兎崎はそっと拡げた紙に目を向けた

どうやら新聞の一枚のようだ

異様な雰囲気に戸惑いながらも
ユウタはこのまま話しを聞いていれば兎崎が何者なのかわかるんじゃないかと少し期待した

まじまじと新聞の文字に視線をすべらせていた兎崎はニイッと笑みを浮かべるとその新聞を畳み坊主をみた

「よく見つけたね、だけど僕の探してる記事じゃない」

ユウタはどうにか畳まれた新聞の文字が見えないものかと色々な角度に顔を動かしてみたり目を細めてみたりしたが
この暗さもあり見えそうで見えなかった

「それはわかってます。私が言いたかったのは、あなたが何を掘っていたのか知っているっていう―――」

「わかったよ!」

坊主の言葉を遮るように折れた兎崎が声をあげた

「わかった、それを知ってるなら今度話しはしてもいい。だけどもしあなたの目的が僕の邪魔をするような事なら話さないよ」

先日から自分の事を怪しんでいる坊主にうんざりしていたのもあるだろうが

はぐらかしても次の言葉を用意してる坊主に受け答えするのが面倒になったというように溜め息混じりにそう言うと
新聞を持った手をおろした

チャンス!とばかりにユウタが近づいたがずっと持っているのが邪魔だったのか
とりあえずといったように兎崎は硝子戸横の郵便受けにそれを投げ込んだ

「惜しいーっ!」と口だけ動かし拳を握るユウタをちらりと見たが気にせず兎崎はその視線を坊主に戻した

「邪魔なんてとんでもない。店主さんの探し物が見つかればその怪しい状態で夜中うろつく事もなくなるでしょう?」

「その通り」

「町の人の不安が拡がる事もなくなる。私の休日を邪魔する…は言い過ぎですが、相談も減る。何よりですよ。」


ふーんなるほどと言うように笑みを浮かべると兎崎は

「てことはお坊さんは僕に協力してくれる、僕は町の人の邪魔をしない、お坊さんは僕の邪魔をしない。僕がひとつ得してるけどいいの?」

と顎をあげ目を細め

「それに、」と続けようとしたが
その時商店街の黒の中二つの足音が響いた


「兎崎ーっ!!」


息をきらし声をあげこちらに走って来るのはミキとカナだった

ミキは慌てているのか兎崎の前へ状況などおかまいなしに走り込むと必死に兎崎の袖を掴んだ

「兎崎!学校で幽霊探しをしてた友達が旧校舎に閉じ込められたの鍵はかかってないよもしかしたら…っ!」

ミキは息継ぎもせず早口でいうと友達を助けてくれと兎崎の袖を引いた

「旧校舎で幽霊さがし?。そんなの探してるからいけないんだよ…悪いけど僕にそのこを助ける理由はない」

「お願い兎崎友達にはちゃんと反省させるよ!!」


はぁと深く息をつき兎崎は暫く悩んでいたが呆れたような顔をした兎崎からはいい返事がかえってきそうもなかった


「私は店主さんに協力する、店主さんは町の人の邪魔をしない、私は店主さんの邪魔をしない。そして店主さんは私が旧校舎のお友達を助けるのに協力する。これでおあいこでいかがですか?」

坊主の言葉に冗談でしょと言いたげに眉間にしわを寄せるとそのままの表情で再び長く溜め息をつくと
渋々店の鍵を閉めいいよと返した

そうと決まるとミキは案内するよう先を走った

あと少しで何かわかったかもしれないのに!と悔しげに握った拳を降っているユウタを横目に少し首を傾げると兎崎は坊主の方をみた


「さっき言い掛けた事だけど、僕の協力してくれる気になるにはあなたの言い分じゃ釣り合わない気がするんだけど?」


子供達よりだいぶ後を歩く兎崎はいつになく鋭い目で坊主をみた


「いいえ釣り合います。"大事(オオゴト)"になる前にあなたの探し物がみつかるならその方がいいって事ですよ」

「あぁ、もしあなたの言ってる"大事"っていうのが僕が思った"大事"と一緒なら…賢いね。でもさ、色々調べたみたいだけどあなたがどんなに僕の事を調べても僕の事はわからないよ」

「何故言いきれるんです?」


その言葉に振り向いた兎崎の目を見ると坊主は悪寒に襲われた

「だって僕ですらわからないのに」

兎崎は坊主に突き刺すような視線をむけると再び前をむいた




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