翌日朝教室へ入ってきたまだランドセルもおろしていないミキとユウタに
タクヤが飛び付くように駆け寄ってきた

「すっげー大ニュース!十何年も昔だけどこの旧校舎で実際事件があったんだとよ!事件に巻き込まれたのは女の子でそのときつけてたハートのペンダントをなくしたんだだから―――」

そこまで言うとタクヤはいたずらにポケットから何かを出しミキに投げつけるよう渡した

「ハートのペンダント持ってると狙われるんだってよ!」

投げつけられたそれを持つ手を拡げるとそこにはハートのペンダントがあった

この冗談のためにわざわざ似たものをみつけ持ってきたのだろう


笑うタクヤにふざけないでよとそれを投げかえすとミキはむすっとし席についた

その後を追うようにミキの所へ行くとタクヤは「なー悪かったって」と笑いながら隣の机の上に座った

「なぁでもすっげーだろ本当なんだぜ!怖い話しってちゃんと元があんだな!ただの作り話しじゃねぇんだぜ?」

自慢気に話すタクヤを呆れた顔で見ながらミキはため息をついた

「で、あんたが盛り上がってる怖い話しってなんなのよ。どーせ音楽室からピアノが聞こえたとかそんなんでしょ」

ミキの言葉にタクヤはきょとんとした顔をしてみせた

「おまえ知らないのかよ?旧校舎の方に池があるだろ、あそこに昔ペンダントを落とした子がいて今も探して旧校舎をさ迷ってるって話しだよ。池に近づくとそのこに落とされて溺れたり怪我するって噂だったんだけどこないだ3年生が落ちて怪我したんだ。だから今は池の近くは柵があって立ち入り禁止…おまえ本当に知らないのかよ」


はぁと呆れたように言うタクヤを見上げるとミキは悔しそうに口を結んだ

確かに駄菓子屋の事ばかりでここ最近の学校の出来事など気にしていなかった

「私が聞いた話しはそれとはちょっと違ったなぁ」

そうタクヤをよけながらカナがミキの隣の席に座ると机で教科書を揃え引き出しへと詰めた

「聞いたってなんでカナ知ってんのよ」

「ほら私塾一緒のこから聞いたりするから」

なだめるようにミキに言うとカナは続けた

「私が聞いたのは確かハートのペンダント持ってると現れるのは男のこだし旧校舎さ迷ってるのも男の子だったんだけどなぁ…」

「なんでハートのペンダントで男のこなんだよ」

タクヤの言葉にカナはなんでだろうと首をかしげた

「でも確かに男の子の話しだったよ。もし遭遇しちゃったら"1、2、3…"て数えると消えるって」


「違うだろ、遭遇するのは女の子でもしもペンダント渡さなかったら夢に出るって話しだよ!なんでもいいけどよ、おまえらもつまんねぇ駄菓子屋の話しばっかしてないで放課後来てみろって」

そういうとタクヤは机からおりミキ達の返事をまたずに向こうへ行ってしまった

「つまんなくないわよ…っ」

そう呟くとミキは口を尖らせユウタの方を見た

「あんたまさか放課後タクヤ達と行くとか言い出さないわよね?」

ミキの言葉にユウタは首をぶんぶんと横にふった

「俺が行くわけないだろそんな怖い所!ミキはどうなんだよ」

「私とカナは今日委員会の集まりがあってただでさえ帰りが遅いから行かないわよ」

そう言うとミキは一時間目の算数の教科書を出しながら
なくても行かないけどと付け加えた



その日の夜
久々に一人で下校し駄菓子屋にも行かなかったため帰宅してからずっとリビングでテレビに写し出されたゲームにかじりつくユウタに母が声をかけた


「ユウタ、少しは手伝いなさい」

「うん」

聞いているのかいないのか完全にゲームの世界へと行ってしまっている頭でなんとか選んだ二文字を
現実世界でコントローラーを動かす体が抜け殻のよう口にする

ため息をつきながら流しに向けた手を何か思い出したかのように止めると
母はエプロンで手をふきながらテレビゲームにかじりつくユウタの後ろに立った


「ねぇユウタ、昨日ミキちゃんのお母さんに聞いたんだけど最近駄菓子屋さんに寄ってくるんだって?」

駄菓子屋という言葉にユウタの頭が現実世界に戻される

そういえばそのせいで最近は帰りも遅かった

まずいなぁと思いながらきっと自分の後ろで眉を吊り上げてるに違いない母と目を合わせないために、そのままゲーム画面に目を向け続けた


「いいじゃん」

「だってあそこ開いてる時間だって遅いんでしょ?ミキちゃんのお母さんもあんまり行かない方がいいんじゃないかって。買い食いだってよくないよ!」

「だからいいじゃん別に!」


駄菓子屋についてタクヤには馬鹿にされるし母には否定されるしでなんだかムッとしたユウタが声をあげると母はテレビを消した

あ!とつい振り向くと想像以上に目くじらをたてていた母と目が合った


「ちゃんと聞きなさい!何かあってからじゃ危ないって言ってるのよ!」

「危なくないよ!兎崎はそんな奴じゃねぇもん!」

そう母を押しよけるとユウタは部屋のドアを開け放ったまま玄関に走った


「あっ!こら待ちなさいユウタ!」


無意識のうちにユウタの足は駄菓子屋にむかい走っていた

勢いで家を出て来たはいいが行く所がそこしかないというのも無意識に考えたのだろう

が、こういう時に限って駄菓子屋の明かりは既に消えていた

母を押しよけたあと向かった先が自分の部屋でなかった事を激しく後悔する

まったくなんで外に飛び出してしまったのか
部屋より玄関の方が近かったからだろうか


先程までは気付きもしなかったがほとぼりが冷め我に帰ると辺りに明かりがまったくなく、ぼやけるような月明かりでなんとか少し手前が見えるだけの暗闇に急に寒気がした


辺りの暗闇が迫ってきて飲み込まれる様な感覚に襲われ
ちょっとした事で腹をたてた事を再び後悔した

外に飛び出す事で心配した母がごめんと折れて駄菓子屋の話しはなかった事になるんじゃないかと一瞬思っていた事も


風で草が揺れる音にも心臓が痛い程跳ね上がり
勘違いなのはわかっていたが、誰かに見られているような恐怖に段々と堪えられなくなってきた

すぐさま走って帰ろうとも思ったが
今走ると糸が切れたように泣き叫びながら家まで走ることになるだろう

自分で飛び出しておいてそんな顔で帰れない

そう思いごまかすようにいきをつくと
ユウタは涙で霞む目で硝子戸を覗き必死に目をこらした

店内は静まり返り真っ暗で人の気配もまったくしない

レジ台の後ろのぬいぐるみがいつにも増して不気味にみえる


硝子戸に自分以外の人が映ったらどうしよう…

こんな時ばかり想像力豊かな頭からよくない考えが次から次に生み出される

「兎崎!」

もしかしたら店内にいるかもしれない兎崎を必死に硝子戸を叩きながら呼んだが返事はなかった


辺りは再び静けさに包まれる


硝子戸を開けようとしてみたが鍵がかけられていて僅かに動くだけだった


と、その時背後から何かを引きずる音が聞こえた気がしてユウタは硝子戸を揺らす手を止め息を潜め耳をすました

何かを引きずる音は間違いなく近付いて来ている

金属を引きずるような鈍く嫌な音

徐々にはっきりと聞こえてくるその音はすぐ近くまで来ているようだった


逃げたいが動いたら見付かる気がした

この暗さでは相手に自分は見えていないかもしれない

硝子戸と一体化するかのようにぴったりと体をよせると荒くなる息を必死に潜める自分の鼓動が相手に聞こえるんではないかという程の大きさで耳に響く


早くどっか行けよ…っ!

恐らく音の近さからしてもう背後の辺りまできているのかもしれない


震えるユウタの体の振動が硝子戸に伝わり音をたてた


しまった…っ!


ユウタは体を強張らせると思わず目をかたく閉じた

とその時不気味な金属音がぴたりと止まった

周りの風景を耳で感じるかのように耳をすまし、
何も音がしない事を確認するとユウタは恐る恐る顔をあげた


次の瞬間ユウタの心臓は再び跳ね上がった

硝子戸に映る自分の後ろに人影がうつっていた

驚き慌てた勢いのまま声をあげユウタは後ろを振り返り硝子戸に背をつけ腰を地に落とした


「やぁ。」


ユウタの後ろに立っていたのは泥だらけの手で土のついたスコップを持った兎崎だった


「…は?兎崎?」

「そうだよ。どうしたのそんなところで」

「ど、どうもしねぇし!駄菓子買いに来ただけだし!」

「そう?…泣く程駄菓子買いたかったの?」


兎崎はそう不思議そうに眉を寄せ地べたに座るユウタの前にしゃがみ込むと
慌てて目をこするユウタの顔を覗き込んだ

ユウタは震える足を落ち着かせながら立ち上がると泥だらけでしゃがみ込む兎崎を見下ろした



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