06
「あたし記憶喪失の人に会うの始めてよ!ホントにあるのね!記憶喪失って!」
「ね〜!すご〜い!」
「記憶が無いなんて僕……考えられないよ……!」
「おい、お前ら少し落ち着け!」
……リーナ、俺、一応記憶喪失なんだけど。会うの始めてとか嘘つかないでよ!
って言うか皆俺が記憶喪失だって事すっかり忘れてるでしょ!?
「あ。あんたさ、出身地がわからないのは困るわね。ここから少し歩けばコーネリアの町が見えて来るから取りあえずそこに行けば何とかなるわよ。あたしたちはこれから洞窟行くのに急いでるから、じゃーね」
リーナは立ち上がり、俺たちが来た方を指し示しさっさと歩きだそうとする。そのあまりの唐突さに女性は一瞬あっけにとられるが、何を思ったか女性はリーナの足に上半身ごと絡みつけてしがみついてきた。
そんなに一人になるのが嫌なのかな。
「待って下さい!私も連れていって下さいっ!」
「ムリ。早く離しなさいよ!」
「そんな事言わないで下さいよ……!わ、私、洞窟入るのが趣味なんです!そう!趣味!」
乱暴に足を降って引き離そうとしているリーナにお姉さんはどうしても俺たちについて来たいみたいで見え透いた嘘をつく。
……というか俺だったら洞窟なんか行くより町へ行くけど。
「……まあそんなについて来たいんだったら別に良いけど。でもあたしはあんたが怪我しようが何しようが責任取らないからね。自己責任でよろしく」
え、許しちゃうんだ。
「やった!ありがとうございます……!」
そして嬉しいんだ、お姉さん。これから何が起こるかわからない洞窟に行くんだよ?ピクニックじゃないんだよ?
な〜んか俺の周りってさ、世間の常識とかけ離れた常識持ってる人多くない?まあ別に良いんだけど。
「……お姉さんさ、名前無いと困んない?」
俺は喜んでいるお姉さんの横に行って聞いてみる。
「そうですね、確かに名前がわからないというのも何かと不便ですねぇ……あ、あなたのお名前は?」
「ルノスだけど……」
何故に俺?と若干思ったものの、素直に答えた。
「じゃあ私の名前はルゥでお願いしまーす!」
手をあげて笑顔でちゃっかり宣言しているお姉さん……ルゥさんに皆呆気に取られ複雑目で見ている。……その気持ち痛いほど良くわかるよ。だってルゥさん軽すぎるもん。でもここで相手が喜び、かつ自分の味方につけるような言葉をかける事が大事なんだから!
「わあ!俺の名前から取ってくれたんだね!何だかお姉さんにとっても良く似合う名前だよ!」
とどめのにっこりスマイルをすれば完璧である。これで俺に少しも興味を持たない人がいたら教えてほしい。
「……ありがとうルノス君〜!あなたならそう言ってくれると思ってたの!」
俺以外のしれっとした空気をさすがに感じ取ったのか、ルゥさんは俺の手を取りやたらとキラッキラした目をして俺を見つめる。
完璧だね!これでルゥさんは俺の味方なわけ♪
ま、ここで味方作ったって無意味に等しいけどね。ほんの遊び感覚だからいーか。
「……なんでもいいけどさっさと行くわよ!こんな所で油売ってたら日が暮れちゃうわ!」
「はいはーい」
てかホントに埋蔵金なんてあるのかな?多分無いよね。でも洞窟探索は面白そうだから良いけど。
そして程なく俺たちは森の木々の間に洞窟らしき岩の裂け目を見つけたのだった――
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