02
――あれは今から数年前。
俺を買って奴隷同然に扱ってたあの家を逃げ出してコーネリアにたどり着いてすぐの頃。
数日間何も食べてなくて、そろそろ限界で取りあえずお金の入っている麻袋を腰に下げて歩いてる人を見つけてその麻袋を盗ったのはいいんだけど、空腹でふらふらだったからあっけなく見つかっちゃって……。
しかもその人、町の怖い人達の1人で、近くにいた仲間と共に俺を追いかけて来た。
俺は薄暗い路地裏を必死に逃げて逃げて逃げて。
……でも途中で体力の限界で動けなくなって捕まった。
捕まった瞬間に地面に抑えつけられて罵声。
背中を蹴られて麻袋を取られても、抵抗する体力も気力もなくてただされるがまま。
きっと俺は死ぬんだ、って思って諦めた。
……その時だった。あの人が俺の前に現れたのは。
あの人は男女二人と一緒に行動していた。
向こうはたまたま路地裏を通っていたようで俺と俺を捉えている怖い人達を見て、あの人以外の男女二人はどんどん歩いて行っちゃったんだけど、あの人だけは俺の前で足を止めた。
訝しげに思って顔をあげて見ると、あの人は俺の事をなんとも言えない複雑な顔で見ていた。
俺も昔の事は覚えて無いけど、何か他人のような気がしなくて必死に助けを求めた。
……でも結局、助けてくれなかった。俺を見捨てて行ってしまった。
あの人の事が今でも忘れられない。
必死に泣き叫んで助けを乞う俺を戸惑い、恐怖を孕んだ眼差しで見下ろすあの顔を。
一度も振り返らずに歩いて行ってしまった背中を。
俺はあの人に裏切られた。
信じてたのに。
それからは何か全てがどうでもよくなっちゃって、取りあえずがむしゃらに生きてる。
……さて、じゃあ生き長らえるためにパンでも買って来るかな。
すっかり暗くなった空を仰いで、俺は噴水の縁から立ち上がった。
市場の方を眺めれば露天の店先にカンテラの光が灯り、とても綺麗。
俺はゆっくりその光に向かって歩いて行った。
END
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