ブログ | ナノ


▼ 13/06/17 (22:47)

 閣下に従う首席と、ドンを慕うおっさんで乖離パロ。おっさんがわりと黒いかも。

『乖離』

 隊長首席が自ら牢へ入ったらしい。困惑した看守の報告を受けて、アレクセイは地下へと足を向けていた。
 口止めをされたが彼の唯一の上司にあたる騎士団長へ言わずにいられないほどに、様子がおかしかったのだという。一体何があったのだろうか。彼へ課した任務を思い返しながらアレクセイはゆっくりと階段を下りた。
 アレクセイが牢屋で彼と会うことは珍しいことではない。鮮やかな紫を纏った騎士ではない姿の彼を迎えに来るためにここを訪れたことは何度もある。だが、騎士としての彼と会うのはこれが初めてとなるだろう。
 牢屋には人気がなく、看守だけが困ったようにそわそわとしながら指定の場所に控えていた。アレクセイの姿を見ると看守はほっとしたように息を吐き、アレクセイに促されるままに地下から出ていった。
 今牢屋に収容されている人間は一人だけ。しかも自ら希望して入ったという奇特な人間だ。足音を隠さず歩み、いつも彼が入っている一番奥の部屋まで進む。
「入るぞ」
 宣言しながら鍵穴に看守から受け取った鍵束から一つを選んで差し込み、捻る。そのまま鋼鉄製の頑強な格子を開けば、驚いたように見開かれる碧が燭台のぼんやりとした明かりを受けて煌めいた。
 彼の薄い褐色の肌には汗が浮かび、常に表情の薄い顔が苦悶の色で歪んでいる。鞘に納められたままの赤い剣や短刀は手の届かないほど遠くへ放り投げられ、それを手にしないようにか彼の手首には枷が嵌められていた。
「何をしている」
 それも彼自身が望んだのだろう。訝しく思って強い口調で問いただせば、耐えがたい痛みを堪えるように顔を顰める彼。握りしめた拳からは爪でも食い込んだのか血が流れ、寒さでも感じでいるのか全身が細かく震えていた。明らかに尋常ではない様子に近寄ろうとすれば、力のない声が懸命に警告を発する。
「――っ、離れて、くだ、さい……。今、すぐに……」
「何?」
 切羽詰まった言葉に、アレクセイは首を傾げる。訝しみながらも一歩踏み込んだその瞬間、シュヴァーンの霞がかった虚ろな瞳が鮮やかに色を変えた。浮かび上がったのは――明確な殺気。
 先ほどの弱々しさは嘘のように力強く早口で唱えられた呪文が、牢の中へ鋭い風を生みだした。鎌鼬じみたそれは枷を繋ぐ鎖を斬り壊し、遠く離れていたはずの剣を持ち主の手まで運ぶ。するりと鞘から引き抜かれた赤い刃は、何のためらいもなく騎士団長の鎧われていない喉元を狙って突き出された。
「何の真似だ」
 問いかけつつ、抜き放った剣で必殺の一撃を受け止める。加減のない全力の一撃だったのだろう、腕がかすかに痺れていた。
 交差する剣の向こう側で、皮肉気に歪められた唇が明るい調子で声を紡ぐ。
「大将ともあろうお方が、本当にわからないのかい」
 自分に向けられる、殺意を孕んだ暗い碧。軽い声色に隠されたどうしようもないほどに深い虚。芯はおそらくアレクセイの知る彼だ、だが今表層を覆うそれがなんなのか見当もつかない。――これは、誰だ。
 内心で動揺するアレクセイを見て、剣を突き付けたままの彼はにんまりと道化じみた笑いを浮かべた。


▼ 13/06/14 (21:31)

ある日、森の中で(下)公開しました。最後のあたりをとってもとっても悩んであのような感じになりました。あの後ユーリと合流するところまで書く予定でしたが、蛇足になりそうだったのでばっさりと削除しました。しかし、もったいないので会話だけ抜粋して下の方にこっそり記しておきます。



「なるほど、マスターが渋い顔をするわけだ」
「協力し合うようになってしばらくたったとはいえ、まだ完全に溝が埋まったわけじゃないからね」
「お久しぶり、青年」
「うちの首領はどうやら無事みたいだな」
「ぐっすりお休み中よ。一人で何とか頑張ってたんだから、しばらく寝かせてあげて頂戴」
「そうするよ」
「……さっきおっさんさ、カロルくんから熱烈な愛の告白をされてね」
「ふーん、それは良かったな。でも、そう思っているのがカロルだけじゃないって知っておいた方がいいと思うぜ。……それは、おっさんがどんな格好をしていたって変わらない」
「おっさん、自意識過剰になっちゃうわよ」
「あんたはそれくらいがちょうどいいんじゃねえか? ちゃんと受け止めろよ」

「じゃあなおっさん。年甲斐もなく恥らってないでたまには自分から顔みせに来いよ」
「そうね、考えておくよ」


▼ 13/06/09 (22:23)

ある日、森の中で(上)アップしました。やはりほのぼの物は難航します…。好きなんですけれどね!!
上ではほとんど出番はありませんが、下ではおっさんちゃんと出てきますのでご安心を。


▼ 13/06/02 (00:51)

 一度はやってみたかった自動人形おっさんパロ。しかし、なぜか怪しげな雑貨屋イエガーが出張ってしまった…。現代学園ファンタジーもの? 『わりと間違ったパロディ論』の後と考えても楽しめるかも。いつもとは一風変わった雰囲気になってると思います。

『街角のアンティークショップ』

 しんと静まり返った室内へ、時を告げる音が低く響く。それを奏でているのは年月を感じる重厚な時計だ。わりと広さのあるその部屋の中には、時計だけではなくいかにも長い時を経ていそうな、妖しい魅力を宿した品々が所狭しと置かれていた。
 木製の棚には花やガラス玉がつめられた小瓶が並び、書き物机と思われる物にはハサミや不思議な形の文鎮、真鍮製の天秤や燭台、地球儀などが雑多にならないようにセンス良く乗っている。
「――お邪魔しますよ、っと」
 突然降ってきた雨から逃れるために偶然入った店はどうやら雑貨屋の様だった。ユーリは水滴が商品にかからないように身を縮ませながら、周囲を珍しそうに見やる。こんなことでもない限り、一生入ることのなかっただろう場所だ。入ってしまったからには雨があがるまで暇をつぶさせてもらおうと考えていた。
 カバンの中から取り出したスポーツタオルで頭や制服を濡らす滴を拭きながら店の奥へと進んでいけば、椅子へと腰かける紫の影。好奇心を刺激されたユーリは導かれるようにそちらへと歩いて行った。
 売り物と思われる落ち着いて艶のある木製の椅子に、紫の羽織を纏った男が腰かけている。
「おっさん?」
 学校でいつも見ている白衣ではない衣をまとった物理教師は、雰囲気すら違っているように感じられた。うなじのあたりで結ばれた紐から零れた黒灰の髪が、彼の薄い褐色の肌に落ちて顔の半分を隠している。瞼を閉ざして俯く彼に緩んだ笑みなどかけらも見えず、ただただ静かだった。煩いほどおしゃべりな彼を知っているせいか、黒い靄じみた不安が心の中でざわりと蠢く。
 起こそうとしたのか、生死を確かめようとしたのか、自分でもわからないまま伸ばしていた手を、黒いグローブに覆われた手が止めた。
「それがお気に召しましたカ? お目が高いですネー」
 驚いて振り向けば、にんまりと笑う男の姿。一部だけ垂れた前髪をかき上げる仕草は、妙に洗練されていて美しい。タキシードと燕尾服が混ざり合いフリルを付け足した不思議な服は嫌味なほどに似合い、浮世離れした雰囲気を彼に与えていた。まるで世界史の教科書かファンタジーものの児童書から出てきたかのようだ。
「なんだよアンタ」
 ユーリは男の腕を振りほどき強く睨み据える。彼は苦笑して肩をすくめた。
「ミーはこのショップの者です。なかなか良いセレクトですが、気を付けてくださーい。それに触ってはいけませんヨー?」
「それ?」
 ここの店員だという信じがたい告白や、人をからかっているようなふざけた口調より、その言葉の方が気になった。男が視線を向け方を見れば、未だ目を閉ざし続ける物理教師の姿がある。男は優雅に首肯して微笑んだ。
「そう、これのことでーす」
「人を物みたいに言うなよ」
 ユーリは男の物言いに眉を寄せた。ついつい口調がきつくなる。割といつもいい加減でつかみどころのない教師ではあるが、ユーリはそれなりに彼のことを好いていた。だからこそ、彼を人として見ていない男の態度が気に入らなかったのだ。
 男は夜空へ浮かぶ三日月のように妖しく目を細め、ひどく残酷に言葉を紡ぎだした。
「物ですヨ」
 男は顔をしかめるユーリの前をするりと通り過ぎ、わずかに傾いていた教師を椅子へと座りなおさせた。
「随分と精巧に作られていますが、これは絡繰り仕掛けのドール」
「にんぎょう、だって?」
 物理教師の形を模した人形なのか、それとも物理教師が人形なのか。吐き出した声は妙に震えていた。男はなにが可笑しいのか肩を揺らして小さく笑い声をあげる。
「イエースイエース。人の命を吸って動く、所謂呪いの人形の一種デース。イージーにタッチしない――アンダスタン?」
「そいつはおっさん――レイヴンなのか」
 男は笑みを深めるばかりで問いには答えようとしなかった。素知らぬ風に教師の襟元を整えている。
「大きくて扱いに困っていたので、特別に安くしておきますヨ」
「質問に答えろよ」
 声を低め、男の胸ぐらをつかむ。男は相変わらず心の内を見せない道化めいた顔で、鮮やかにわらった。
「役に立つと思いますけれどネ。これは料理から戦闘まで何でもこなしますから」
「――あんた」
 それは、親友にすら隠しているユーリの秘密。人知れず夜を駆け、剣を振るう。それは誰にも知られていないはずだった。手が緩んだその隙に、男は軽やかにユーリから離れていた。
「おっと、レインがストップしたようですヨー。値段も値段ですし、すぐに決めろとは言いませーん。どうせすぐに買い手はつかないでしょうから、ゆっくり悩んで答えを出してくだサイ」
 一方的にまくしたてる男の姿が、不意に歪んだ。教師の姿も、周りに並べられた物たちも、すべてがぼやけて溶けていく。ただの影と化した男が優雅に一礼した。
「またお待ちしています」

 見慣れた街角に立っていることに気付いたユーリは急いでその場から駆け出した。向かうは、下校したばかりの校舎だ。靴を乱暴に脱ぎ捨てて物理準備室へと走る。
 音を立てて勢いよく扉を開ければ、びゅうと音を立てて風が舞う。開かれたままの窓から流れ込んだそれのせいで、カーテンが激しくはためいていた。
 だが、動いている物はそれだけだ。物理教師の姿は影も形もない。ユーリは開かれていた窓を閉め、深く息を吐いた。
 ただ家路についただけなのか、ここから消えてしまったのか、あの男の言葉は真実なのか、あの男ごと全て幻だったのか。何一つとしてわからない。
「……一体、なんだってんだよ」
 ユーリは俯き、頭を押さえたのだった。




「これがだれなのか、だって?」
「そんなこと、これだって知りはしない」


▼ 13/05/24 (20:30)

 日誌が小話公開用になり始めている…。ネタをぱっと表現できるからついつい小話を書いてしまいます。
 今回は昔中学校で自転車やバイクが走っているのを見た! という目撃情報を思い出して思いついた小話。

『割と間違ったパロディ論』

 閉じきった物理準備室の外から振動を伴って聞こえる轟音。それは廊下をバイクが駆け抜ける音だ。鼓膜を揺さぶる爆音に負けじと、狂気じみた絶叫が廊下中に響き渡った。
「どこだっ、ユゥゥリィィイイ! ユーリ・ローウェルゥゥウウウウ!」
「ほらほら、お呼びがかかってるわよ、青年」
 物理教師がニマニマしながら茶を啜り、耳をふさぐ団子頭の男子生徒へと話しかける。男子生徒は疲れ切った顔をしながら答えた。
「同姓同名の奴でも呼んでるんだろ。俺じゃねえよ」
「えー。ユーリ・ローウェルなんて洒落た名前、おっさんは一人分しか知らないんですけど〜」
 生徒の仏頂面を愉快そうに見やり、物理教師ことレイヴンはまた湯呑を静かに傾けた。

 バイクが奏でる爆音が聞こえなくなった頃。先ほどよりは小さいが騒がしい音が廊下の奥より響き始めた。
「ユーリ! どこにいるんだい、でできなよ!」
 ヒステリックな叫び声と、自転車のペダルをこぐ音。それを耳にした男子生徒ユーリの顔には、呆れを通り越して殺気すら現れ始めていた。レイヴンはそれを知らずかわざとか、茶化すように言った。
「またお呼びよ〜。青年ったらモッテモテー!」
「だから、同姓同名の奴だろ……」
 ユーリが破裂寸前の爆弾のように張りつめた空気を発し始めたので、レイヴンは慌ててもらい物の甘味をユーリへと献上したのだった。
 それからは扉の向こう側が騒がしくなることはなく、ユーリとレイヴンの放課後はまったりとすぎていった。
 
 ユーリが立ち去った後、レイヴンはわずかに開いた窓の方を向いて、流れ込む風に身を任せていた。眼を閉じて、風が運んでくれる仄かな緑の香りを堪能する。同じ風に乗って聞こえてくる鳥のさえずりの中、唐突に意味のある音が混ざった。
「シュヴァーン」
 威厳のある低い男の声とともに、背後に気配が生まれる。男性的な長い指が、肩を強い力で掴んだ。
(今度は俺が青年の立場、か)
 拒んで逃げ回れる彼とは違う、絶対的な呼びかけではあったけれど。
(ユーリがいなくてよかった)
 彼には見られたくない。
(知られたくない)
 男の指が、髪を束ねた紐へとかかる。解かれた髪を肌で感じながら、『彼』は瞳を開けた。

(――今は、まだ)

 君の知るおれのままでいさせて。


▼ 13/05/23 (22:02)

 ツイッターにてつぶやいた小話。しかし、長かったので反省してます。このサイトにしては珍しくユリ+シュ(レイ)表記。+や矢印が好きな管理人です。

『特に意味はない』
 ペン先が紙の上をひっかくわずかな音と、二人分の吐息の音だけが響く静かな部屋の中。黒紫色をした視線が、執務机で書類を処理し続ける橙色の男へと注がれていた。
 濃い灰色の髪と穏やかな大地を思わせる褐色の肌。瞳の色は大地がその身に抱え込む翡翠の碧だ。まるで意志の読み取れない瞳も、無表情のまま変わらない顔も、ユーリの記憶の中へ鮮やかに浮かび上がる男の姿とは欠片たりとも合致しなかった。
 シュヴァーン・オルトレイン。落ち着きと静けさを纏った今の彼の姿は、美しい響きを持つその名がよく似合っていた。親友がここにいたのなら、顔を輝かせてその名を呼んだことだろう。ユーリにとってなじみの薄いその名を、まるで神聖な詩でも吟じるかのように。
 人魔戦争を生き延びた英雄。平民にして隊長の席を射止めた男。かつての騎士団長の片腕。帝国騎士団隊長首席――。
 ユーリは思い切りしかめ面を作り、考えを霧散させようとするかのように乱暴な仕草で頭を掻いてため息をついた。頭の中でへらりと緩んだ笑みを浮かべる紫の男にその肩書きを張り付けようとしても、全くなじまない。それに何故か深い安堵を感じる。だが、彼が時々見せるようになった凪いだ表情を思い返せば、浮いていた肩書は最初から彼のものであったかのようにぴったりと張り付くのだ。
 胸に渦巻く熱を帯びた靄。それが何なのか考えようともせずに、ユーリは衝動に任せて彼が知る男の呼び名を呼んだ。
「おっさん」
「……なんだ」
「おっさん」
「なんだ」
「おーっさん」
「だから、なんだ」
 話している間もペンを止めなかった男がようやくペンを置き、不可解そうに眉を寄せて顔を上げる。その表情は未だ隊長首席と呼ばれる男のものだったが、ユーリは満足そうに頬を緩めた。胸に巣食っていた靄は去り、代わりに暖かいものが広がる。
「別に。呼んでみただけだ」
 首を傾げる男へニヤリと微笑みかけたユーリは、彼の傍へ行くためにソファから腰を浮かせたのだった。


▼ 13/05/20 (23:50)

 なぜ自分はツイッターにつぶやこうとして呟けないような小話ばかり思いつくんだろう…。ということで、妖しいオークションの話です。

『オークション・アンダーグラウンド』

 本日最後の商品です。淡々とした司会の声に、隠しきれない興奮が混ざった。豪奢なドレスや品のいいタキシードを纏った参加者たちが集う、一見すれば煌びやかなオークション会場。しかし、競りにかけられるのは物でもなく、動物でもない。――人間だ。
 正体を隠すために顔を覆う仮面の下から覗くいくつもの瞳が陰惨な艶を帯びて輝いている。司会とて、参加者たちと同じように後ろ暗い趣味を持つ好事家のひとり。そんな彼が職務を忘れて声を震わせるのであれば、最後の商品は恐ろしいほどの上玉なのだろう。
 カツリ。小さな靴音が、ざわついていた会場内をしんと静まり返らせた。スーツをかっちりと着込んだおそらく従業員らしき男に横抱きに抱えられながら参加者たちの目の前に現れたのは、大柄とは言えないがけして細いとも言えない一人の男。参加者たちのほとんどが好みから外れているはずなのに、何故か彼から目が離せなかった。
 おそらく年のころは三十を少し過ぎたあたりだろう。鮮やかな金茶の外套と、黒いズボン。瞼が伏せられているため瞳の色はわからないが、肌の色は乾いた大地を思わせる薄い褐色で、顔の右半分を覆い隠す髪は黒と見間違うくらいの濃い灰色をしていた。
 顔立ちは特別美しいというわけではない。外套の下から除く肢体は程よく筋肉が付いており、女性的な美しさなど欠片もない。それなのに、なぜか惹かれてしまう。狩りを行う獣じみたしなやかな肉体とは裏腹に、瞼を閉ざした彼から漂う憂いを帯びた空気や硝子細工めいた儚さのせいなのだろうか。
 彼を手に入れたい。あの閉ざされたままの瞳に、自分を映させたい。参加者たちの胸へ獰猛な支配欲が飛来する。
「あんたも、彼狙いかい?」
 参加者の一人である老紳士が、興奮冷めやらぬ様子で隣に立つ銀髪の男に話しかけた。
「ええ」
 がっしりとした体格の良いその男は、優雅な仕草で首肯した。どこぞの大貴族なのだろう、威厳と風格が漂っている。だが、それを詮索することは、この場ではタブーにあたる。老紳士は、男をそれ以上見ようとはせずにつづけた。
「あれはまるで魔性の生き物だな。あんたもそれに魅了されたクチか」
「そうですね、ええ」
 男が口元を歪めながら頷く。老紳士を嘲るような、絶対的優位に立っている者の笑みだ。仮面の下で、男の真紅の眼が炎を帯びて輝いた。
「――あれは、渡しませんよ」

 オークションを摘発する最中の閣下と首席、という脳内設定です。首席を横抱きにしていたのはとてもラッキーな騎士さんで、後日自慢するのでしょう。


▼ 13/05/20 (00:01)

 ツイッターでとある御方のつぶやきから構想を得て書いた小話です。読みたいといっていただき有難うございます!
 若干閣下←首席←フレンな感じ。ごく短めです。あと、なんとなくしんみりしている…。


『貴方の命に触れる』
 暗闇に煌々と瞬くルビィ。宝石が命を持つとしたら、このような輝きを放つのだろうか。そんなことを考えながら、フレンはそれに手を伸ばす。鍛えられた厚い胸板を後ろから抱きしめるように腕を回して、そっと赤い魔核に手のひらを触れさせた。
 それは今腕の中にある男の命そのもの。触れる手が、強張り汗ばむ。憧れのひとに、その命とも呼べるものに触れている。それを意識しただけで、心臓が間髪を入れずに鼓動を刻む。煩いくらいのそれが、彼に聞こえなければいいと願った。
(きれいだ)
 光が己の指先に灯る。ああ、そのまま浸食されたっていい。
 それは、触れてはいけない神聖なもの。絶対的不可侵のもの。そう思っていた、信じ込んでいた人の生命の源。そんなものが己の手の中にある。
(ほんとうに、きれいだ)
 なぞるように撫でて、隠すように包み込む。そうすることで、それが自分のものになったかのような暗い満足を覚えた。
 彼はきっと己のものにはならない。わかっているけれど、今だけは背徳感に酔わせてほしい。ようやく触れたのだと錯覚させてほしい。
(なきたいくらいに)
 ああ、この人は今何を見ているのだろう。翡翠の瞳は何を映しているのだろう。
 その答えなど、わかりきっているはずなのに。自分は映り込みさえできない。触れているのに、触れられやしない。
 フレンは唇をかみしめた。それでも、腕にも手にも力は込めない。束縛をしたいわけではないのだ。ただ、傍にいられればいい。瞳の中に映ればいい。

(――おしたいしています)

 そう、思い込んだ。


▼ 13/05/18 (19:46)

次の話は黄昏色かげぼうしの続きで、カロルくんとおっさんのお話です。ただ今ゆっくり執筆中。
黄昏色かげぼうしを読み返していてテンポやテーマの一貫性のなさなどが気になったので、大幅に手直しをしようかなと思っています。今のバージョンも気に入っているので、残しておくつもりですが。今までわりと長めな話ばかり書いてきたせいか、短編でうまく話がまとめられず力不足を実感してます…。しっかりとお話が書けるように頑張りますー。
あと、10/27のスパーク目指してお話の原案を考え中。とりあえずバトル話の短編二本で一冊、ほのぼの三、四本で一冊の予定です。本を作ることも、イベントにサークル参加することも初めてなのでドキドキですが何とか頑張っていきたいと思っています。


▼ 13/05/11 (22:31)

三分間 アップしましたー。思いついてから書き始めるのは早かったけれど、書ききるまでに多大な労力がいりました…。しかし、バトルは楽しい! 本当は書くより読むほうが好きなのですが…。
 虚空の仮面のバクティオン神殿で閣下が首席にかけるあの言葉についても考えてみました。つまり、ああいうことだったのでは、と。まあ、妄想なのですが〜。





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