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後編


名前を聞いてなかったから私は仮名を付け心の中で訴える。
出来ますじゃないだろお!?

私が叫びたいのをこらえていると変態少将はニヤリと笑い女秘書希望Aを上から下までじっくりと見た。お前は親父か。
いや世界中の親父に失礼だ。この際変態単細胞と言うべきだろう。
そしてとうとう私の番が回ってきた。

「では最後の方どうぞ」

ゆっくりと、ゆっくりと口を開く。
私の前の女性達は少将に気に入ってもらう為に自分アピールをして、中には「毎日尽くします」なんて自分をある意味売っている人もいて。
私はこの面接に怒りと飽きれと馬鹿馬鹿しさが溜まっっていった。

「−−−」

「は……?」

「きゅ、休憩にします!その後に結果を発表するのでまたここへ集まってくださいいい!!」

私が言葉を言い終わると変態単細胞は眉間にしわを寄せ、シャチさんは慌てて声を上げてこの場を閉めた。
女性達はあんぐりと私を見ている……ざまあみろ。

ていうか、ペンギンさん明らかに肩を震わせて密かに笑ってるよね。
まぁいいや、と私は一息入れる為に颯爽と秘書試験会場を出た。






「はぁー、スッキリした!」

言いたいことを出し切った私はふんふん、と鼻歌を口ずさみながら廊下を歩く。

「自業自得だしね……むぐぅ!?」

突然通った前の扉が開き、口と体を塞がれ引きずり込まれた。
そのまま口だけを外され私は驚いた状態で上を向く。

「お前みたいな女初めてだ」

「……トラファルガー少将!」

犯人は変態単細胞だった。

「どういうつもりですか?離してください!」

「お前こそさっきは刺々しい言い方しやがって新米のくせに生意気だな」

「本当の事を言ったまでです!」

確かに相手が少将なこともあり出過ぎた真似をしてしまったかもしれないが。

「ほォ……じゃあ俺には落ちないと?」

「はぁ?なんでそこまで飛ぶんで−−!?」

意味の分からない台詞に異論を唱えようとした私の唇に何かが押し付けられた。

「んんっ……んー!」

それがこの男の唇だと分かり抵抗するがくぐもった声しか出ず、腰ごと抱きしめられ頭を後ろから固定した状態になす術がなかった。
唇をこじ開けて舌が入って来ようとする。

「んぅ……っ」

そうはさせまいと攻防するが酸素が行き届かなくなった体はいとも簡単に突破され舌の侵入を許してしまう。
それから彼の行動は早かった。舌を入れた瞬間に激しく口内を掻き回され、こんな事をされたことなどないがはキスが上手いと経験の少ない私でもわかるような舌使いにまるでふやけるような感覚が体を支配する。
舌と舌が絡まり恥ずかしい水音を聞きながら彼はゆっくりと私の腰を緩める。
やっと終わりかと感じたが、違がったようで今度は束縛に使っていた手を私の顔に持って来て固定したのである。

「ふぁ……」

「そんな顔するな。我慢できなくなるだろ」

だったら止めろと睨み付けるが、その反抗に満ちた目に少将はニヤリと笑うとまた先程よりも深い口づけをした。



***

シャチside



「今頃あのリーシャって女海兵、少将に喰われてるかな?」

「……どうだろうな」

ペンギンは何故か楽しそうに答えるから俺は首を傾げた。

「気にならねェのかよ?」

「気になるが、後でわかるだろ」

「喰われたかか?」

俺がそう聞けば「あぁ」となんとも曖昧な返事を返され余計に分からなくなる。
少将は女癖が悪いことでも有名で‘ローに近付けばもう二度と同じ姿で帰ってはこれない’という海軍七不思議の一つとして知られている。
意味はそのままで、普通の女がローに近付けばたちまち欲に濡れた女に変えられてしまうという意味だ。
あの顔に地位、彼に近づくものは全員それに引き寄せられてくるからあの人も本気で女の相手なんてしない。

「けどよォ、あの海兵は今までの女と違うよな……態度も」

「言動もな」

ペンギンの言葉に先程面接の時に発言した女海兵の台詞を思い出す。

『私は上司に言われて仕方なく、仕方なくここへ来ました。そりゃもう嫌でしたけど、仕方なく。私的には落としてもらえればこの上なく大歓迎なんですよ?変態単細胞をお持ちのどこかの少将様の秘書になるくらいなら、仕方ないですけどね』

なんて、どこにそんな不採用どころかクビにされるようなアピールがあるのか。

「あの海兵俺採用してェなァー」

「お前とはこの件には珍しく気が合うようだな」

俺の呟きにペンギンが少し口元を上げながら賛同する。
こりゃ明日は雪だわ。

「あいつは、何か変えてくれるかもしれねェな」



***



休憩時間が終わり面接室に全員が席をついた。

「えー、これよりトラファルガー・ロー少将付きの秘書を発表します。合格者は一名」

ザワザワと部屋が騒がしくなる。
そんな中私は憤りを感じ拳を握っていた。
部屋に引きずり込まれ濃厚なキスをされた私は離された瞬間変態単細胞の股間を蹴り上げ貞操の危機を免れたのだ。
勿論痛さに苦しんでいた変態単細胞、もとい、少将は私が部屋を出ていく時に不吉な言葉を投げかけた。

『絶対ェ落としてやる』

と−−。

あまりに不吉過ぎて鳥肌が立った。
落とされてたまるか。

「ナンバー22を少将の秘書として採用する」

「……は、はい?」

自分の番号が呼ばれ私は思考が停止する。

「っ……異議ありです!!」

どこかの弁護士並にビシッと手を上げて意見を申し立てる。

「却下」

「他にも沢山……!」

「却下」

私より秘書になりたい人がここに沢山いるのに、と言おうとするが職権乱用の如く「却下」しか言わない変態単細胞。

私は嫌だ!!

「お断りさせていただきます!」

「却下」

「却下却下ってそれしか言うことないんですか!?ペンギンさんもキャスケットさんも何か……!」

腹が立つ人間には無駄だと感じ側近の部下の二人に助けを求める。

「少将が決めたことだからなー」

「あぁ」

「決まり、だな」

二人も役に立たなかったようでやはり部下というべきか、変態の肩を持つようだ。
ニヤリと笑うロー少将にギリッと歯を噛み締める私は「やりませんから!」と部屋の出口へ向かい扉を乱暴に閉めた。

「フフ……逃がさねェよ」

だから妖しく口元を上げる人間の呟きが私に聞こえることはなかった。


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