「忘れていたわけじゃないわ」

「はいはい、本の方が面白かっただけよね?」

真実を隠すためにこころをウソで覆い隠したあとならば、口をついて出るほんの少しの「ほんとう」さえも、まるで偽りのように聞こえてしまう不思議。

あなたは知らない。

私があなたを、愛しているということを。

でも、私は知っている。

あなたが私に向けるまなざしが、他のクルーたちに向けるものと変わらない、友情のまなざしであるということを。

そんな状態で、愛などという言葉が、いったい何になるというのか。

「じゃあ、このまま本を読んでいてもいいかしら?」

「ダメにきまってんでしょ! ほら!」

航海士はロビンの右手を取り、ぐっと引いた。

たいしたことのない航海士の力にロビンは簡単に引っ張られて立ち上がり、名残惜しそうなふりをして、左手に持っていた読みかけの本を閉じてデッキチェアの上に置き、指先でなでた。

「本なんて戻ってくればいつでも読めるでしょ? でもお店は今しかあいてないの!」

「もっともね」

航海士の正論に、ロビンは諦めたようにため息交じりにうなずいてみせた。

あなたと交わす時間のほとんどを、「あなたを好きだ」という「ほんとう」を隠すための、「あなたは私にとって特別ではないの」という「ふり」で埋めていく。

だって私の「ほんとう」を知ってしまったら、あなたは二度と、こうして私の手を引いてくれたりはしないでしょう?

それならば、私の中にある、愛なんて軽いものだ。

「ほんとう」なんて、軽いものだ。

あなたのそばにいられることに比べたら、どんなものだって、ふけば飛んでいく抜け落ちた羽根のように、軽すぎる。



……………



でも時々、そんな軽さに耐えられなくなって。

クルーとして、あなたとともに過ごした昨日など忘れて。

クルーとして、あなたとともに過ごす明日など捨てて。

「愛してる」というむきだしのこころひとつを持って、あなたとともに過ごす特別な今を求める、そんな夢を見るこの愛など……

壊れてしまえばいいのに。











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