隣に並んで、ふたり、サニー号へと続く道を歩く。
漁師や魚市場のひとびとでにぎわう声は、夕暮れの港からはとうに消えてしまい、ただ、カモメの鳴き声だけが空を渡っていく。
春島の夕暮れ。
道の向こうには、水平線ととけあうように沈む夕日が見えている。
太陽にひとときの別れを告げる島の浜風は、少し肌に冷たい。
ナミは隣を歩くロビンに手をのばし、その手のひらにそっと触れた。
夕暮れ時のさみしさが作用したのだろうか。
いつもなら誰かに見られるかもしれない場所で手をつなぐことはあまり好まないロビンだったけれど、今日は困惑した表情を浮かべるどころか、ナミの手を軽く握り返してからかうように言った。
「どうしたの、みかんちゃん?」
いつものようにロビンがいさめるような、でもつながれた手を無下にふりほどくこともできなくて困ったような、ちょっと情けなくて余計にいとしくなってしまう、そんな表情を浮かべると思っていたナミは、予想していなかったロビンの言葉にすぐには反応できなくて。
やられた、と思ったし、たぶん顔にも出てしまっていたと思うけれど、何でもないふうを装うことだけが、ナミにできるせいいっぱいのつよがりだ。
「……なんでもないよ、ニコちゃん」
いつも相手を戸惑わせるのは、ナミの特権であったはずなのに。
「それより、おなかすいちゃったよロビン。晩ごはん、何かな」
あからさまに話題を逸らす、そんなナミのつよがりを、ロビンはまたやわらかく笑って受け止める。
「サンジが作ってくれるものは、何でもおいしいわ」
「そりゃそうだけど」
ふたりの声は春島の風にさらわれて空中にとけ、ふたりの体温は手と手の間でとけあってあたたかい。
ナミはその温度をもっと感じていたくて、つないだ手のひらに、もう少しだけ、ぎゅっと力をこめながら……
まんなかに、あるといいなと思った。
もしも愛情というものが、真にこの世界に存在するのなら、ふたりがつないだ手と手のちょうどまんなか、そのぬくもりの中にあればいいなと思った。
ナミの胸に生まれた「好き」と、ロビンの胸に生まれた「好き」。
ふたつのこころにはぐくまれたふたつの想いが、今、手をつないだこの瞬間に、互いの腕をつたってすーっとまんなかによってきて。
愛という言葉以外に名づけようのない、このじんわりとしたぬくもりになっているのなら。
ふたり、手をつないで歩くことのできる、なんでもないこの時間が……
ただ、いとおしくて、まぶたにしみた。