後ろ姿を見れば、遠目にもすぐわかる。
細身で長身の立ち姿、すらりと伸びた四肢、肩にかけた小さめのリュック、お気に入りのテンガロンハット。
「ロビンー!」
ナミは見慣れた後ろ姿に向かって大きく呼びかけると、夕暮れの港町の、サニー号へと向かう道を走り出す。
名前を呼ばれたロビンは足を止めて振り向いた。
その表情は、眉根を寄せた、困り顔。
ロビンが何を言いたいかなんて、わかってる。
「ナミ、私たちは一応賞金首なのだから、あまり大きな声で名前を呼ぶべきじゃないわ」
追いついたナミが、少し咎めるようにロビンにそう言われるのは、もう、何度目だろう。
何度言われたって、ロビンの名前を呼びたくなれば、いつでも、どこでも、ナミは「ロビン」と声にするのだから、もういい加減にあきらめればいいのに。
心配性のロビンは、こんなふうに町中で呼び止めると、いつも律儀に困った顔をする。
「いいじゃない、別に。ロビン、強いんだし」
そう言ってナミが笑うと、ロビンは短くため息をついた。
ナミが名前を読んで、ロビンがナミの方を向く。
ほんとはただそれだけでうれしいんだって言ったら、ロビンは笑うかもしれないから、真実はいつも胸に秘めたまま。
「そういう問題じゃないと思うわ」
「じゃあ、偽名でも決める?」
ナミが冗談めかして言うと、ロビンは口もとに手をあてて、「ふふ」とやわらかく笑った。
「なあに、それ?」
……この、笑顔が好き。
ふんわり、笑った顔。
「外を歩くときの、ふたりだけのコードネーム、みたいな?」
「私に訊かれても、わからないわ」
やさしいやさしい、ロビンの笑顔。
この笑顔を見ると、ナミはいつもうれしくなってしまって、何か気恥ずかしいような、この感情をどうあつかっていいのかわからなくてもどかしいような、そんな気持ちになる。
「みかんちゃんと、ニコちゃんとか」
思春期でもあるまいし、好きなひとの笑顔にいちいちときめいていてもしょうがないとは思うのだが、こころのはたらきはいつもナミの意思とは無関係に、このひとが好きなのだとつきつける。
「それ、あなたはいいけれど、私は本名じゃない」
「いや、響きがかわいいじゃない? ニコちゃん」
「かわいいとかかわいくないとか、そういう問題じゃないわ」
「じゃあ、かわいくない?」
「それは……かわいいかもしれないけれど」
続く言葉を見つけられなかったのか、ロビンはナミから視線を外して歩き出した。
ナミは慌ててその後を追う。
こういうとき、ロビンがいつもより速足になるのは、言い負かされたことへのちょっとした抵抗のようなものだった。