燭台切光忠サンドイッチ ※胸クソ注意
“今日も可愛いね”
うっとり見惚れてしまうくらいの笑顔で光忠が頭を撫でてくれる。優しい彼の手が気持ちよくて目を閉じると、瞼にキスをされた。
“好きだよ”
“うん、私も”
言いながら抱きついたのだけれど、光忠は抱き返してくれない。いつもなら苦しいくらい力いっぱい抱きしめてくれるのに…。
“光忠?”
見上げると、そこには無表情の彼がいて酷く冷めた目でこちらを見下ろしていた。
“み…っ”
“触らないでくれるかな”
“!?”
あまりの豹変っぷりに硬直してしまった私から離れて、彼はどこかへ向かって歩きだす。
早く、なにか言って呼び止めないと…でもなんて?あんな温度のない瞳を向けられたのは初めてで、どうして良いのかわからない。もしかして彼の気に障るような事やらかしてしまった?でも…思い当たる節はないけれど…でもなにか、なにか言わなくちゃ…!
「あるじ!」
はっとすると、心配そうにこちらを覗き込む近侍と目があった。
「…清光…」
「大丈夫?うなされてた…」
「ん…平気…」
目をこすって状況を確認する。どうやら任務の空き時間中に、机に突っ伏したまま居眠りしてしまったようだ。
「う…痺れが…」
「ムリしないで横になればよかったのに」
「ちょっとだけ休むつもりだったんだけど…あててて」
ゆっくりと腕と脚を伸ばしてピリピリとした不快感に耐える。
(夢、か…)
夢は記憶の整理だったり、夢主の不安を反映するって聞いたことがあるけれど、今の私にとってはどちらもドンピシャすぎて余計に沈む。
「ねぇ主」
「ん?」
「もうすぐ第二部隊が戻ってくるけど…」
「そっか、もうそんな時間か」
「大丈夫、なの?その…色々と」
「うん?あー…大丈夫、ありがとうね!」
元気に笑ってみせるとジト目で返されてしまった。清光にはどうしたって隠し通せない。
「あのさぁ、俺、主のこと大好きだよ」
「うん、ありがとう」
「でも嘘つきな主は好きじゃない…かな」
「うん」
「あとムリしてるのも」
「うん、清光の気持ち分かってるよ。心配かけてごめんね」
「分かってくれてるなら、いい」
頬を染めながらヘラっと笑う清光。察した上で適度なフォローを入れてくれるのが何よりも有難い。
「主。第二部隊、無事帰還したよ。報告いいかな」
障子戸の向こう側から低くて甘い声がした。瞬間、私の呼吸がひくと止まる。そんな私の肩に手を置いて「任務中」と清光が呼び戻してくれた。
(集中しなきゃ)
深呼吸をして気を引き締める。清光が近侍の定位置に座したのを見届けて、許可を出す。
「どうぞ」
現れたのは他でもない燭台切光忠。
「ご苦労様でした、燭台切」
「このくらいなら何てことないよ」
「頼もしいわね。じゃあ早速だけど報告お願い」
第二部隊が討伐した敵の数、部隊編成を報告してもらい、近侍の加清光がそれを書き留める。
「異常は特にはなかったよ」
「そう。みんなに怪我もないようだし良かった。清光、報告書の送付お願いね」
「おっけー。じゃ、おつかれ」
清光が報告書を手に立ち上がり、執務室を出ようとして足を止めた。
「あれ、燭台切は行かないの?」
「あぁ別件で主に話しがあってね」
「…そ。じゃあお先〜」
「苦労様、清光」
すたん、と障子戸が閉められて静かになる。空気が張り詰めている気がするのは私の緊張のせいだろうか。気をとり直して彼に向き合う。
「さて、燭台切。お話ってなに?」
「うん。もう一人の僕とはうまくいってかなぁと思って」
「…!」
そう、一振り目の燭台切光忠とは恋仲なのだ。…まだ、多分。
「最近、前みたいに一緒にいるところを見ないし」
「…それは…い、忙しくて」
「そっかぁ。政府からの任務も立て続けに入ってくるもんね」
「……え、えぇ」
「主とは言え、君は女の子なんだから、あまり仕事ばかりでもいけないよ」
光忠とは、一緒にいるどころか少し前から顔も合わせていない。以前はそれが寂しくて、彼を探して本丸を歩き回ったりもしたけれど、多分、彼の方がわざと合わないようにしているのだと気づいてからはそれも止めた。最高練度に達していることもあって部隊長に据えることもなくなった。だからと言って、二振り目の彼とどうにかなりたいなんては思っていないけれど。
「彼もちょっと冷たいんじゃないかな。君がこんなに頑張っているのに…ねぇ?」
同意を求めてきた燭台切を睨みつけて突き放す。
「彼のことを悪く言わないで」
「おっと失礼。怒らせちゃったかな」
燭台切が伸ばしてきた手から顔を背けた。
「ふふ、そういう強気なところも堪らなく好きだよ」
「…」
「けど、」
「っきゃ!」
手首を掴まれて強引に引っ張られる。そのまま彼の胸に受け止められた。
「僕だって”光忠”だよ。そして君のことが好きだ」
「や、離して!」
「ねぇ僕にしておきなよ」
「…っ」
顎を捕らえられ上を向けさせられる。当たり前だけれど、光忠と同じ顔、同じ声、同じ温かさ、同じ匂い。勘違いしそうになる自分に向けて言う。
「私が好きなのは光忠だけよ。悪いけれど燭台切、あなたじゃないの」
「…へぇ、一途だね」
うっとりするような微笑みなのに、声だけは凄く冷たい。顎にかかった手に、ぐっと力が入った。
「痛っ、…ん!」
無理やり唇を奪われる。光忠以外を受け入れたくなくて、燭台切の肩を押したり、一番嫌がりそうな髪を引っ張ってみたり、精一杯の抵抗をしてみるけれど、肩と顎をがっちり固定されてしまって、とても敵わない。
暴れているうちに呼吸が苦しくなってきて、抵抗し続けるにも体力がなくなってきたころ、顎の拘束が緩んだ。その隙をついて酸素を取り込むために顔を逸らす。
「は、はぁ、はぁ」
「ふふっ可愛い」
「うるさぃ…」
「さてと」
「!?」
抵抗する間もなくあっさりと組み敷かれてしまった。両手を頭上で一纏めにされる。
「な、なにを…」
「この状態でわからない訳、ないよね」
「っ…ん!」
再び乱暴に口づけられる。今度は熱い舌が口内を侵していく。
「ふ…んんっ」
びくりと身体が跳ねた。上顎の窪み、舌の付け根、下唇の裏側…私が感じる箇所を抉るように刺激していく。私はこのキスを知っている。光忠だ。彼と同じキス。懐かしい感覚に鼻の奥がツンとなる。
そうして充分蹂躙された後、ちゅ…と音を立てて下唇が解放された。
「あぁ…いい顔してるね…美味しそうだ」
「っだれが!」
「君はどこまで美味しそうになるのかな?」
「ゃ、やだっ」
力任せに暴かれた首元から鎖骨を舌でなぞられる。同時に袴の隙間から手を差し込まれ、太ももの裏を擽られて身体が跳ねた。光忠以外に触られたくないのに。嫌なのに。胸を食まれて思わず声が出てしまった。
「く、ぅ…」
「もしかして我慢してるの、声」
頭を振って否定する。我慢するとか、しないとか、それ以前の問題だ。
「へぇ…どこまで耐えられるかな?」
「ひゃ!」
耳孔に舌を差し込まれ思わず声が出てしまった。それに気をよくしたのか、ぐちぐちとしつこく耳孔を舐めまわされる。
「あ、や、やぁあ」
胸の突起の縁もなぞられて思わず背中が弓なりになる。
「んっ…ぁ、や、」
「ふふ、やっぱり声を聞きながらの方がいいね」
「っるさ、ぃ…あっ」
ぎし、と縁側から足音が聞こた。燭台切が上体を起こして障子の向こうへと視線をやる。その隙に拘束を振り解こうとしたが力は弱まらないままだ。それでもどうにか逃れようともがいていたが、次第に近づいてくる足音に気付いて動きを止める。
「主。僕だけど、今いいかな」
なんてタイミング。これまで散々避けていた光忠が漸く来てくれたと言うのに。こんな状態で返事なんて出来るはずがない。
「燭台切くんが来てないかな。そろそろ帰還すると思うんだけど」
一瞬、頭をハンマーで殴られたのかと思った。私が会いたいと焦がれていた光忠は、私ではなく、もう一振りの自分を探してここにきたのだ。あまりのショックに全身から力が抜けていく。
「入っておいでよ」
「!?」
「燭台切くん…そこにいるの?」
「な、何を…」
抗議の意味を込めて燭台切を見やったものの、こちらに向けられた笑顔がいつもと変わらなくて戦慄する。
(信じられない!)
「主も入って貰えって」
「!!」
「そう、じゃあ失礼するよ」
「だ、だめ…!」
暫く振りに見る彼の顔は、これ以上ないと言う程に驚いていた。
「なに、してるの?」
「見れば分かるでしょ、ねぇ主」
見られてしまった。一番見られたくない彼に。なんでもっと抵抗しなかったのか。なんで付け入る隙を与えてしまったのか。なんで声なんか上げてしまったのか。自己嫌悪と罪悪感に満ちた雫が目尻からこぼれ落ちる。
「ごめん、ちょっと味見のつもりだったんだけど…煽られちゃって」
「っそんなことしてない!」
誘惑されたとでも言いたげな燭台切の言葉を反射的に否定する。が、他の男に組み敷かれた状態で、光忠がどこまで信じてくれるのか検討もつかない。
その場に立ち尽くした光忠の表情がわからず、最悪の結果が頭をよぎる。
(もし、もしこのまま決別することになってしまったら…)
そう思うと涙が止まらない。かっこいい事を良しとする光忠の前でなんて醜態だ。いよいよ居たたまれなくなって両腕で顔を覆っていると、障子戸が閉まる音がした。
(終わった…)
信じてもらえないまま光忠は去っていってしまった。結果は変わらなくても、せめて信じて欲しかったなぁ、なんて…。
「ごめん。きみのこと、そんなに追い詰めていたんだね」
近くで光忠の声がした。恐る恐る腕を下ろすと、捨てられた犬のような顔をした彼が膝をついている。
「…みつ、ただ?」
「悪い恋人でごめんね」
「そんな…っんぅ」
抱き起こされてキスをされる。言いかけた否定の言葉は光忠の唇に飲み込まれた。久しぶりすぎる光忠とのキスが嬉しくて嬉しくて身体の底から震える。
光忠の首に腕を回そう伸ばした手を阻まれた。
「…僕もいるの、忘れないでくれるかな」
二人してそちらを見やると、至極不機嫌そうな燭台切が、私の手首を掴んでいた。ギラついた瞳に少し恐怖を感じる。
「先に始めてたのは僕なんだから、割り込まないで欲しいなぁ」
「始まってなんてっ」
「燭台切くん、悪いけど、主は僕のだから…」
「咬ませ犬、なんて…格好つかないな」
太ももに差し込んまれた手が動いて、深いところを刺激した。
「ひゃっ」
突然のことにびっくりして声が出る。はっとして光忠を見ると、彼も驚いた顔をしていた。
「きみ…もしかして、いま感じた?」
「ぃや、ちが…ぁんんっ」
否定しようとした途端、激しくなった刺激にまたもや声が出てしまう。食いしばって我慢したは良いが、今度はさらに刺激が強くなって、そこから水音が鳴るようになってしまった。
「んっ…んん」
俯いて羞恥心に耐えていると、光忠に顎を掴まれて上を向かされた。さっきの燭台切と同じような、ギラついた瞳をしている。
「ねぇ主」
「…っ?」
「僕も咬ませ犬になるつもり、ないよ」
そこまで言い切ると燭台切に顔を向けた。
「燭台切くん、どうかな?主を満足させられた方に譲るってことで」
「へぇ。面白そうだね、いいよ」
「ちょっ…」
とんでもない提案を却下すべく声を発したが、こちらを向いた二人の迫力に押されて、それ以上の言葉は出てこなかった。
─────
「ぁあ…ぃ、やっ」
「ふふ、ここ本当に好きだよね」
「こっちも凄い…ぐしょぐしょだよ」
身包み全て剥がされて二人に全身を弄られる。
「燭台切くん。指いれたまま、そこグリグリしてみて」
「ん…ここかな?」
「ひゃ!あ!あっ」
「はは、本当だ…すごい」
「あーんなに嫌がってたのにね」
耳元で囁きながら光忠が胸を揉みしだく。声ですら下半身に響いて腰がくねってしまう。とんでもない提案だと跳ねのけたかったはずなのに。
「はぁ、は、光忠っ」
「んー?」
息も絶え絶えになりながら呼ぶと優しく応えてくれた。
「も、だめ、だめっ」
「燭台切くんにイかされちゃうの?」
必死に頷いて訴える。
「僕以外は駄目だよ、我慢して」
「んっ」
「へぇ…妬けるなぁ」
やり取りを見ていた燭台切が指を激しくする。どうにかやり過ごそうと気を紛らわせようとしたけれど容赦なく追い詰められて痙攣が止まらなくなる。
「や!あ、んっ!やだ!や…!」
光忠の腕にしがみついて達した。
「あーぁ。駄目だって言ったのに」
「主、光忠くんにごめんなさいは?」
「はぁ、はぁ、ごめ、なさ…」
混沌とした意識で言われるがまま光忠に謝罪をする。
「だぁめ、許さない」
「きゃ!っぅぐ」
乱暴に畳に押し付けられた。呼吸が整わないままうつ伏せにされる。手をついて上体を起こすと光忠が再びとんでもない事を言ってきた。
「燭台切くんに犯してもらおうか」
「!?」
「いいのかい?」
「特別」
「や、やだ!光忠!」
光忠の腕に縋りつく。
「言ったでしょ、許さないって」
「やだ!光忠、ごめんなさい、ごめんなさい!」
「言いつけを守れなかった悪い子にはお仕置きが必要だからね。さぁ燭台切くん」
「じゃ、お言葉に甘えて」
「ひっ」
燭台切に奥まで一気に貫かれる。
「いや、いや、光忠ぁっ」
光忠の真意がわからないまま奥を蹂躙され、涙が溢れてくる。
(なんでなんでなんで)
光忠は私が他の人に抱かれてもいいのか。お仕置きだなんて理屈に合わない言葉では納得できない。
「光忠、光忠ぁ、なん、で、っぁん」
「はぁ、主、」
「んぐっ…んっんっ」
口内に光忠のが捻じ込まれる。その大きさに呼吸がうまく出来なくて、だんだんと思考が落ちていく。
(なんで私こんな物みたいに扱われてるの?事の始まりはなんだっけ…)
「んっ、ぁ…んぐ、」
「はぁ、はぁ、主っ」
「燭台切くんっ、さすがに、中はダメだよ、」
「ん、わかってる、はぁ、くっ…」
ずるりと燭台切が引き抜かれて背中に温かいものが掛かった。とほぼ同時に光忠が私の頭をがっちり掴んで容赦なく腰を振りはじめた。光忠自身が喉の粘膜まで塞いでいよいよ呼吸ができなくなる。
「んぐっぐ、ぐ、ぉ」
「はぁ、は、出すよっ」
「んーっんぐっ、は、げほっ」
喉の奥に体液が出されたのを感じて、私は意識を手放した。
─────
縁側に腰掛けながら月を見上げていると、燭台切くんが隣に腰を下ろした。
「片付け終わったよ。主はぐっすり寝てる」
「そう、ありがとう」
「光忠くん…本当に良かったのかい?」
「何が」
「主のこと」
「あぁ…」
今回の情事は、全て彼と仕組んだことだった。
主と恋仲になれた時は本当に本当に嬉しくて、どちらかの命が終わるまで大切にしようと、本気で思っていた。それがいつからだろう。慕ってくる彼女に苛立ち始めたのは。
立場上、他の刀剣たちとのコミュニケーションも大切だろうけれど、本音は僕しか彼女の瞳に移したくない。嫉妬する自分が格好悪くて彼女を避け続けていたある日、二振り目の僕を戦場から持ち帰った。転機だった。
自分がそうだった様に、いずれ二振り目の僕も主を好きになるだろう。しばらく様子を伺ってみたら案の定だ。利用出来ると思った。僕に対する罪悪感と執着心を植え付けたら、主はきっと僕だけしか見なくなる。表向きは“僕たちの主”だけれど。
「君もそのうちわかるさ」
「…そう?」
「そうだよ。だって僕だもの」
彼が僕の本当の目的に気付いたとき、折ってくれたら良い。
そうしたら僕の計画は完成する。
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