鶴丸国永の独占欲

パソコン画面を眺めながら頭を抱える。

「同じレシピで鍛刀してるのに…どうしてうちには来てくれないんだ…」

先日政府から通達された新刀剣男士の鍛刀に散々打ち込んではいるものの、なかなか降ろせないでいる。枯渇してきた資材と札のことを考えると頭が痛いくらいだ。なぜだ…霊力?それとも運?

「全く、きみは次から次へと本当に熱心だな。新しい刀がそんなに良いのかい?」

横から鶴丸が覗き込んできた。

「わぁ!」
「ははっ驚いたか?」

振り返ると鶴丸が満足そうに笑っている。その手にあるお盆にはお茶と饅頭。休憩の用意をしてくれたのはありがたいが、もっと普通に声をかけて欲しいものだ。

「驚いたよ、もう。気配消すのやめてってば」

文句を言いながら卓袱台に移動する。

「きみがいつも良い反応をしてくれるもんで、つい、な」
「人のせいにしないで」

差し出された饅頭に齧り付くと、ほんのりとした甘さが口内に広がった。ついさっきまでの緊張感や苛々が解けていって思わず頬が緩んでしまう。

「ははは、だらしない顔になってるぞ。そんなに美味いかい?」
「うぐっ…とても」
「そうかそうか。どれ、俺も頂くとしよう」

そう言うと、饅頭をひょいと上に放り投げて、ぱくっと一口で頬張り、お茶で一気に流し込んでしまった。

「んんん、こりゃ確かに美味いな!」
「……」
「ん?どうした?」
「いや、なんでもない」

うちの鶴丸は少しばかり中身が残念だ。見た目に反して気っ風が良いと言うか、男らしいと言うか、粗雑と言うか。たまにオヤジ臭い一面を目の当たりにしてびっくりするときもある。それでいて戦場では華麗に無駄なく活躍してくれるのだから、私の心臓には鶴丸が知らずに放ったハートの矢が多数刺さっている(なんだ弓兵積めるじゃないか)。

「口を開いた途端に残念なんだもんなぁ…」
「ん?」
「なんでもないです。…あ。あのさ、“目新しい男が好き”みたいな人聞きの悪い言い回しはやめてよね」
「ふーん。どうかな。違ってるかい?」
「いや、戦力になりそうだし、是非うちにも来てもらいたいけど」
「本音は?」
「めっちゃタイプだから近侍に就いてもらいながら大切に育てたいです」
「はっ!そんなこったろうと思ったぜ」
「冗談よ、もう…」
「いやいやいや、面食いだからなぁ、きみは。これでも心配してるんだぜ。新しい刀がきて、きみを取られてしまわないか、とか」

こちらへ伸ばされた細く白い手に、頬を撫でられる。

「…っ!」
「ははっ、まるで百面相だな。さっきまで顰めっ面してたってのに、もう真っ赤だ」

皮肉すら感じる言葉に反して、その笑顔はとても優しい。そんな表情は反則だ。そして自分こそ百面相じゃないか。

「と、取るとか取られるとか、別にそんなんじゃないじゃない」
「んー。まぁ今のところはなぁ」
「どういう意味?」
「や、忘れてくれ。こっちの話だ」

白くて細い手をヒラヒラさせながら鶴丸が苦笑した。

ふと鍛刀の事を思い出した。私には図りかねる話をしている時間はないのだ。お茶を飲み干して手を合わせる。

「ご馳走様でした」
「なんだ、もう良いのか?」
「うん。鍛刀に向けて資材と札の調達しなきゃ。お茶とお饅頭、ありがとうね」

再度パソコンの前に戻ろうとしたところで手を引かれた。

「鶴丸?」
「なぁ、そいつはもう諦めたらどうだい」
「え?…っうわ!」

掴まれた腕を更に強引に引かれて、倒れ込んだところに鶴丸が覆いかぶさってきた。

「ちょっと…もう、なに?」
「男前の刀なら、ここにはもう何振りもいるだろう」
「だから、さっきのは冗談だってば。ちゃんと戦力のこととか、本丸のこととか考えてのことだよ」
「そうさなぁ…光坊、和泉守、三日月…あぁ、一期のときは特に酷かったな」
「!」

挙げられた名前にドキっとする。確かにいずれも私の好みだからと躍起になって鍛刀した刀剣ばかり。鶴丸は私が審神者を始めて間もない頃に奇跡的に来てくれた刀だから、当時のことを覚えているのだ。

でも、だからって他のみんなを蔑ろにしている訳ではない。我が本丸にいる刀剣男士は全員漏れなく大切だし大好きだ。ただ、人間てのは欲深いものだから、定期的に刺激が欲しくなってしまうのも仕方ない。明け透けに言えば、主である私のモチベーションがイケメン一振で上がるなら、安いものなのではないか!…いや、言えないけど。

「俺がやる」
「…え?」
「きみが欲している刀の分も俺が戦績をあげるし、驚きが必要ならいま以上に驚かせてやる」

あまりにも真剣な表情にたじろぐ。

「っ、あなたにばかり負担かける訳には、いかないから」

鶴丸を退けようと伸ばした手を素早く掴まれて頭上で一纏めにされてしまった。反射的にまずいと思って振りほどこうとしたがビクともしない。そんな細腕のどこに馬鹿力を秘めていたのか。

「離して!」
「さぁて、どうしたもんかなぁ」

空いた方の手で乱暴に帯を解かれ、そのまま襟元もこじ開けられた。

「っひ!」
「あの刀を諦めるなら、止めてやる」
「…え…」
「諦めないならこのまま手篭めにしちまうぜ」
「冗談、でしょ?」

口元が震える。鶴丸の表情が強烈過ぎるのだ。まるで捕らえた獲物をどう甚振ろうか思案しているような。こんな彼は今まで見たことがない。

「冗談かどうかはそのうち分かるさ」
「…んっ」

つぅ、と彼の赤い舌がを首筋をなぞっていく。どうやら本気らしい。だとすれば、私はもう新刀剣男士を諦めるか彼を受け入れるかの二択しかない。なによりも、普段はすっかり忘れてしまうが、彼は神なのだ。神を怒らせて良いことなんて一つもない。

「この状況で考え事をする余裕があるなんて驚きだなぁ」
「あっ…ぃ!」

胸を鷲掴みにされた。ぐにぐにと強く揉まれて、変な気分になってきてしまう。鶴丸のことは確かに好きだが、そんな関係は望んでないのに。

「鶴丸が、変なこと言う…から、っんン」
「なんだきみ、こんな風にされて感じているのか?」
「ち、ちがう」
「存外いやらしいんだなぁ」
「や、あんっ」

胸の突起をピンと弾かれて身体が跳ねた。SEX自体が久しぶりで、すでに身体が疼きだしている。自分のはしたなさに幻滅だ。自己嫌悪に陥っている間も、鶴丸の手は止まらない。触れるか触れないかの微妙な加減で腰を撫でられる。

「んんっ」
「腰が動いてるぜ」
「つるまるの、せい…でしょ」
「お。嬉しいことを言ってくれるねぇ」
「っばか!」
「ほら、どうするんだ?あの刀を諦めるか?まぁ、鍛刀する気力も体力もなくなるくらい抱き潰しても良いんだが」

綺麗な顔でゾッとすることを言う。だけどその通りで、早く判断を下さなければ、内腿を擽る鶴丸の手が、今にも下着にかかりそうだ。

「…っん、ぁ、…る」
「んー?」
「あ、諦めるからっ…も、やめて!」
「なんだ、そいつは残念だな」

思い切って断言したら、鶴丸は素直に引いてくれた。起き上がって彼に背を向け、乱れた髪を直す。とりあえず落ち着こうと深呼吸を繰り返していると、後ろから肩を抱かれた。

「ひゃ!」
「約束だからな。違えるなよ。結果に関わらず、あの刀目当てで鍛刀したらすぐに襲ってやるからな」
「っ!」

低く囁かれて身体が震える。こういう鶴丸は苦手だ。どうして良いかわからなくなる。

「鶴丸こそ約束忘れないでよね…」
「あぁ勿論わかっているさ」

そう言うと、鶴丸は私を解放してくれた。再び心臓を落ち付けようと深呼吸していると、彼がとんでもない事を言い出した。

「まっ、きみが俺のことを好きになるように仕向けるのは、止められてないからな」
「…!?」

してやったりと言いたげな鶴丸の笑みを見て、今度は軽く目眩がした。


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