▼ 盗賊少女の大作戦 (1/6)
「……つまりは、ルースの顔が気になったからルースを探してたのね。」
腕を組み、ため息をつくレイラにラックは頭を掻きながらたはは…と苦笑いを浮かべる。
ロランの財布を盗み損ね、逃げ出したラックがすぐに街を離れなかったのはルースのことが気掛かりだったからだった。
「だ…だって!このラック様を打ち負かした奴の顔はばっちり、しっかり、かっきり、この目に焼き付けとかないと!」
「焼き付けてどうすんだよ。」
「もちろん、泣きべそかいて土下座させてやる!」
ラックは自分がルースに勝った時のことを想像しているのか、優越感に浸った顔でにへにへと笑っている。
時々、泣いたって許さないだとかぶつぶつ呟いている辺り、相当な妄想癖なのだろう。
「あの…それであの方のお顔の件は……?」
躊躇いがちに声をかけたティアにラックは耳をぴくっと震わせ、妄想の世界から現実に引き戻される。
そうだった!と突然声を張り上げたラックは、ティアだけではなくその場にいた全員の視線を集めるように語りだした。
「あたし、そのルース?って奴の顔が気になって、ある作戦を考えたんだ。でもあたし一人じゃ無理なんだよね。」
「作戦…?」
「えっとね、それは………」
くいくいっとラックは手招きをする。
ロラン達はそれに応じ、ラックに耳を近づけた。
「……えぇっ?!そんなこと……」
「だいたい、上手くいくのかよ?その作戦…」
「大丈夫大丈夫!ラックちゃんの考えた作戦なら大成功間違いなーーしっ!」
ドンッと自身の胸を叩くラックに逆に不安にさせられる。
その自信は一体どこからくるのやら。
「話は決まったのかしら?」
そういってこちらに寄って来たのはギルドマスター、エリィ。
そういえば彼女のギルドに案内させてもらう約束をしていた。
「…このまま断ったら一生怨まれそうだから付き合うよ。」
エリィには悪いがラックの用事に付き合うことにする。
まあ、正直なところ自分もルースの顔が気になっていたのだが。
「なんだ、案外物分かりいいじゃん銀髪頭!」
「銀髪頭…っ?!俺はロラン・ファイリスだっ!」
ぎゃーぎゃー喚く二人の馬鹿にレイラは頭を抱える。
なんともニギヤカな仲間が増えたものだ。
「そう言うと思った。私はしばらく私用でリシアの宿にいるつもりだし、終わったら宿に寄ってちょうだい。」
そう言って去るエリィにレイラとティアは頭を下げる。
エリィの姿が見えなくなると、ずっと口喧嘩をしていたロラン達にレイラは痺れを切らし二人の頭を小突いた。
「いつまで喚いてるのよ、アンタ達は!」
「……痛てっ!」
「……痛っ!」
二人は頭を抱えしゃがみ込む。
その動作があまりにも息ピッタリだったため、ティアは思わず笑ってしまった。
「何よぅ〜…」
「いえ、ごめんなさい。なんだかお二人共兄弟みたいですね。」
「えーっ!こいつが妹か?」
「嫌だ!こんな弟!」
声を揃えて不満の声をあげる二人。
ラックの"弟"発言にロランが突っ掛かり、またもや口喧嘩が始まる。
そんな二人の様子にレイラは頭を抱えため息をつき、ティアはにこやかに笑っていた。
「でも、とりあえず今日はリシアの宿に泊まりね」
レイラが二人の口喧嘩を止めた後、呟く。
あたりはもう夕焼け色に染まっていた。
「そうですね。もう遅いですし」
「作戦は明日からって訳か」
ぞろぞろと宿に向かって歩き出す三人をラックは後ろから眺める。
そうして三人とは別の方向に身体を向けたラックは先程まで喧嘩していた声に止められた。
「ラック?どこ行くんだ?」
「……どこって………野宿」
お金無いし、とラックは両手を上げて見せる。
「っていう訳だからさ、明日さ!ここで集合!ねっ?」
――ぐぅ――――
ここと地面を指差すラックの腹の虫が鳴る。
あ…と小さく声をあげたラックの表情は困ったようだった。
「…腹減ってんだろ?レイラとティアが待ってるんだ、行こうぜ」
「いいの?」
「何が?」
「その…あたしがついてっても……」
ラックはロランから顔を逸らし、口ごもる。
そんな彼女の様子にロランは思わず大声で笑い出した。
「お前さぁ、さっきまでの元気はどこ行ったんだよ?大盗賊の一番弟子なんだろ?」
「そ…そうだよ!あたしは悪い奴からしか盗まない仁義の盗賊!」
「そうそう……って、ちょっと待て。いま悪い奴からしか盗まないって言ったよな?」
「うん」
「……俺の財布」
ラックはしばらくぽかんと口を開け、『あ』と声を漏らす。
「……てへっ!」
自分で自分の頭を軽く小突いた盗賊少女は、ロランからの文句が聞こえる前にレイラとティアの元へと駆け出した。
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