▼ 盗賊少女の大作戦 (2/6)
――本当に大丈夫なのか…?
ラックの指定した定位置に待機しながらロランは思う。
『レイラとティアを誰かが襲い、あいつが現れたところでラックが隙を見て顔を覆う布を剥ぎ取る』
それがラックの提案した"作戦"だった。
ロランは二人を襲う"誰か"に抜擢され、すぐにバレないよう変装をされたのだが
「これ…どこの不良だよ……。」
ボサボサだった髪はオールバックに止められ、身体にはペイントの傷跡にラックが何処からか持ってきた盗賊の服。
極めつけは黒いサングラス。
ここは人気の少ない場所だったのだが、もし他人に見られたら職務質問されかねない。
改めて自分の姿を確認し、ロランは柄にもなく深くため息をついた。
「――、―――でね――」
レイラの声が聞こえてきた。
同時にティアの笑い声も聞こえる。
――作戦開始だっ!
タイミングを見て、二人の目の前に立ちはだかる。
打ち合わせ通りロランの姿を確認した二人は揃って小さく悲鳴を上げた。
「…な、なんですか……?」
「なによ、アンタ。私達に何か用だっていうの?」
ティアは不安そうにレイラの影に隠れ、レイラは腰に手を当て眉を吊り上げる。
――というかレイラ、お前素で言ってないか?
「…お嬢さん方、可愛い?…な……いっ今から俺と遊ばな…い?」
緊張…というより恥ずかしさでロランの顔は引き攣り、馴れない台詞を言ったためか台詞は途切れ途切れ。
「…ちょっと真面目にやりなさいよ!てかなんで『可愛い』が疑問形なのよ!」
「んなこと言ったって、あんな真似出来るかよ!」
「もうっラックったらこんなんで本当にルースが現れると思ってるのかしら!」
「…僕がどうしたって?」
「「うわぁぁぁぁっっっ!!!?」」
口喧嘩をしていて現れた人影に気付かなかったロランとレイラは驚きに叫び声をあげる。
顔は相変わらず隠していたが、彼が心底呆れている様子なのは痛いほどよく分かった。
「悲鳴が聞こえたから一応来てみたけど一体何をやってるんだ君達は……」
「ええとですねー…」
まさか貴方の顔を見るためですとは言える訳がない。
目を逸らせ口ごもる一同をルースは頭に疑問符を浮かべて眺めていたが、
「討ちとったりーーっ!!!!」
静寂を破ったのは緑頭の獣人盗賊娘。
どこに待機していたのかルースの頭上から現れた彼女は、彼の姿を隠している布切れをつかみ取ると、そのまま力任せに引っ張った。
「…は?!ちょっと!何のつもりで…!」
「いいからその邪魔な布切れ取れっ!」
顔の部分を覆っていた布がはらりと落ち、長い金髪が顕わになる。
「――――えっ――?」
彼のその端正な顔立ちと透き通るような青い瞳を見たときティアは驚きに息をのんだ。
「――ルネイス……王子…?」
「―――っ!!!!」
ティアのその呟きを聞いたルースはルースの顔をまじまじと見つめていたラックを押しのけ、走り出し路地裏に消える。
「あ…おいっ、待てよ!」
慌てて追いかけたロランだが路地裏に入った時、彼の姿はどこにも見えなかった。
「…転移魔法ね………。」
隣に並んだレイラが呟く。
つい反射的にそのことについて疑問を述べたロランに少々ムッとしながらもレイラは説明してくれた。
「転移魔法っていうのは、自分の見た場所、行った場所に瞬間的に移動することのできる魔法のことよ。複雑な魔法だからそう簡単に出来るものじゃないんだけど…」
「そうか…じゃあ、あの時もそれ使って逃げたんだな…」
ロランはラックに財布を取られた時のことを思い出す。
名前を聞こうとして振り返った時、彼はどこにもいなかった。
そして、二度目に出会った時もいつの間にか姿が見えなくなっていた。
「………。」
「…ティア?」
ティアは難しい顔をして俯いていた。
なんだか困惑しているようだった。
「そういえば、さっき呟いてたのって…」
ティアはやがて顔を上げ、躊躇いがちに口を開く。
「私の思い違いかもしれませんけど、あの方はルネイス王子、"既に亡くなっている"方にそっくりなんです」
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