カータリアの下宿人 のコピー | ナノ


▼ 私は…ええと何でしたっけ? (1/7)

生き物という者は少なからず自分と異なる者を拒絶する傾向がある、らしい。

こんな場所があることを、君達は知っているだろうか。

くしくも世間が"普通"と見定めた域から外れた異端者達、半端な者。
そんな者達が寄せ集められる、外界から一切の交流を閉じられた世界。

"箱庭世界デュムフレイ"――僕らの暮らすこの国はそう呼ばれていた。





「今日も買い出しかい、シェスナ君?」

「今日もっていうかこれからもでしょう?」

デュムフレイの商店街、青果店のおばさんに話しかけられ僕は無理矢理作った笑顔で答えた。
半ば投げやりな僕の返答を聞いたおばさんは肩を竦め苦笑いを浮かべる。

「それもそうだねぇ、たまには他の子達に頼んだら?」

「それも考えたけど…あいつらに任せると余計な物まで買ってきそうですし」

――見ろシェスナ!たまたま安売りしておったのじゃぞ!
なんて変なものを掲げ、はしゃぎ回る友人の姿がありありと目に浮かぶ。
いつか本当に実現しそうで頭が痛くなってきた。
そんな僕の様子におばさんは苦笑を深め、青果を紙袋に包んでいく。

「…あれ、りんご」

受け取った紙袋の中に、買った覚えのないものまで入っていた。
困惑した顔でおばさんを見上げれば、彼女は先程とは違う、人当たりの良さそうな笑顔を浮かべていた。

「それはサービスだよ!アルアちゃんにご馳走してやんな」

「……本当ですか!?ありがとうございます…後で差し入れに来ますね」

「おおそうかい!それは嬉しいねぇ、あんたのアップルパイは美味しいからさ。アルアちゃんへの愛が篭ってて!」

「なっ…!?」

思わず片手に持ったりんごを落としそうになった。
りんごを買った日のおやつが決まってアップルパイになることに、断じてアルアは関係ない。
彼女が食べてる時の笑顔を見るのが好きで、とかいう訳ではない。
断じてだ!

慌てて取り繕うも、おばさんには聴こえてないらしく、尚も豪快に笑っている。
僕は料金をおばさんに手渡し、そそくさとその場を後にした。
からかわれ続けるのは、良くない。
身体的にも精神的にも。

「あ…」

商店街からの帰り道。
何の気無しに空を見上げると何か光るものが視界を通り過ぎた。
昼間から流れ星か?
不思議に思ったが、それ以上のことはなく、僕は視線を元に戻す。
だいたいこの国が国だ。
変わり者ばかりが集まるこの国である。
毎日が波瀾万丈。
何が起きるかなんて誰にもわからない、わかりたくもない。
そんなこといちいち気にしてたらキリがない。
ふと何処かからズドォォンという地響きが聴こえてきた。
大方あいつがまた飛行訓練か何かと称して地に激突したんだろう。
下宿を壊してなければいいが。
そういえば、

「あいつが来た時も、流れ星を見た気がする」

正確には落ちてきた、と言うべきか。
ヘラヘラとどこか憎めない笑みを向けるあいつの姿が脳裏に浮かんだ。


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