Novel
氷点下

ひんやりと外の空気が冷たい。 

そう、小さなラコッテ村にも冬が来ていた。

ピチャン、ぺチャン。

雫が家々に滴っている。雨音ではない。

村全体が白い。

辺り一面雪である。しかも今日は氷点下らしい。

「あーあ、つまんないや」

雪が降った後は、普通の子供なら喜ぶだろう。

他の子供達は雪投げをしたり、雪だるまを作ったり
遊び放題だ。

しかし、彼――ロランにとっては、がっかりだった。

彼は冒険者に憧れている。

師匠であり、村の村長でもあるバルト・ゲージェに今日も剣の稽古をつけてもらう筈だったのだが、それがパーになったからである。

いくら世界に名を馳せる冒険者でも年を取るのは当たり前なのだが、まさかぎっくり腰になるとは。

「たまにはレイラと遊んでやるか…?」

独り言の筈だったのに。

「それなら僕と遊んでよ」

「え」

まさか声が返ってこようとは。

「教会にいるよ」

空耳だろうか? 

聞いた事の無い声だ。

たけど、からかっている感じはしない。

ロランは半信半疑で、普段はあまり行かない
教会へ行く事にした。

雪の道を滑らないように、ゆっくりと歩いていく。

キョロキョロ。

「お、邪魔します…」

ギィー。

古びた門を開けて、中へおずおずと進む。

教会の中は眩しい。ステンドグラスの前には神父さんがいる筈だが、いない。

「神父さん?」

「ロランさん、初めまして」
 
「え?」
 
光の中から犬耳の男の子が現れた。 

「あんまり綺麗だったから、お邪魔しました」

ぺこりとお辞儀をするシフォン。

「君は?」

「僕はシフォンといいます。折角だからロランさんにも聞かせてあげようと思って」

「何を?」

「しっ、静かに」

 耳を澄ませると…


 カーン、コーン、リリリーン。

 チャチャチャーポロン、コロン。

 タッ、タカ、タッタター。

なんとも言えない可愛らしい音楽が流れてきたではないか。

シフォン「此処に凄い見事な氷柱があったんですよ。綺麗な水が音色が良いんです」

まるで何処かの異国の音楽隊が弾く演奏会のようだ。

シフォン「付き合ってくれて有難うございました」 

彼は徐々に消えていった。同時に音も止んでしまう。そして、村の氷が全部溶けてしまった。

ロラン「不思議だったな」

彼が去った後は何故か微かなお菓子の香りがした。

火を操るレイラには見せられなかったが、
珍しく彼はこの素敵な音楽を聞かせてあげようと思ったらしい。

次の日、彼女に会ったロランは彼女の目の前で歌ってみせた。

「良い曲だろ?」

しかし、聞いた方はひどい音だったらしい。

「何処がよ?この前の仕返し? 折角、新しい術を覚えようとしてたところだったのに〜」

 プンプン。

逆に怒られて、気まずくなってしまった。

「慣れない事はするもんじゃないな」

二人の春はまだ遠いようである。

影で隠れて見ていた師匠は大笑いしたのだった。

ロラン「でもあの子は誰だったんだろう?」

それから毎年、ロランは氷の時期になると
彼を思い出したという。

彼は冒険者になってからは、行く先々でこの話をしたそうな。

 おしまい。



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