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リダイヤル。
「おかけになった電話は現在電源が切られているか電波が」
録音の案内はことさら冷たく言い放つ。
切断。
電話しないで、と言っていた。理由はわからないが自分は雉島を傷つけたか怒らせたかしたのかもしれない。
なんだろう。
様子がおかしかったのは通話の始めからだった。拒絶直前の話だって別に大した内容でもない。
そしてそもそも自分は女が怒った理由を察するのがこれ以上ないくらい苦手だ。面倒くさくて放って置きたくなる。
でも相手は女である以前に雉島だった。
雉島なのだった。
メールを起動させる。
装備もなしに地雷原へ踏み込むような心地だ。どこに踏んだら爆発するかわからないまま、細心の注意を払ったつもりで、打って、消して、打って、頭を抱えた。
さっきの電話の意味がよくわからなかった。
なにか気に障ることを言っただろうか?
指摘されないとわからない。すまない。
悩んだ。自分なりの誠意は尽くしたつもりだが、これは果たして雉島にどう伝わるのだろう。
電話をかけたい。
声ならもう少し気持ちが伝えられるような気がする。
送信。
短いメールにどれほど時間がかかったのだろう。ビールは気が抜けて温くなっている。
待っても返事はこなかった。
寝ているだけだ、きっと。
朝日だ。
六時前には起床していた。がっつり体を動かして今日の授業のチェックをしてから車に乗り、寄ったコンビニで朝のおにぎりと昼のカップめんを買う。
コンビニの駐車場でメールをチェックした。
ハンドルに額をくっつけて、ひしゃげそうな気持ちをため息ひとつで持ち直す。仕事だ、今日も。
雉島からの返信はない。
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