乳もでかくなければウエストがくびれているわけでもない。鼻も低い。ついでに言えば強くもない。
そんじょそこらの一般市民の私のどこがいいのか、とスイリューに尋ねてみたのが、思えばそもそも愚作だった。
スイリューはそのきれいな顔面いっぱいに「そんなこと考えたこともなかった」とでっかく書いて、しばらく考え、それはもう爽やかな笑顔で、
「枯れ木も山の賑わいってところかな!」
「ぶっ殺すぞ」
てきめんに喧嘩になった。というか、一方的にブチギレて帰った。その帰路で、まさか生まれて初めて怪人に出会い即座に死んでしまうとは。人生わからないもんである。
次会うときには仲直りもするつもりだったわけだし、別れるつもりもなかったのになあ。
「わかったよ」
とスイリューは言った。
自分の墓石に座ると、ちょうどスイリューのきれいな顔が目の前にくる。しかしスイリューは私を見ない。死んでいるのでしょうがないが、スイリューには私が見えない。墓参りに来る直前まで女の子とヤってた事がばれていないと思っているに違いない。甘い。
掃除もせず水もかけず線香もあけず、花だって水にさしたりしないで墓石の上に置いただけ。
「ずっと考えてたんだけどさ、」
いつもの自信満々でちょっといらっとくるような笑顔とはちょっと違った。なんだかちょっと困ったような照れたような、かわいい顔で笑って、
「理由なんか無かったんだよな」
私が居なくなってもスイリューは変わらないだろうとは思っていた。案の定なんにも変わらなかった。葬式にも来なかったし。ていうかまさにその日ナンパで女の子ひっかけててまじかこいつほんとぶっ殺すぞって思った。
女好きで喧嘩ばっかですぐ人のことバカにする。努力だって嫌い。スイリューの悪いところなんか十も二十も思いつく。
でも、好きだったんだよ。
理由なんか無かったまま、私に会いに来てくれた君のことが。
スイリューの黒い目は墓の上に置かれた安っぽい仏花に向けられていた。困ったような笑顔がごまかすような苦笑いになって、段々萎んでいく。落としたまんまの視線が叱られた子供みたいで、かわいそうだった。
頭をなでようとして、すり抜けそうなのでやめた。
一撃