▼ vol.7
ぽっかり二人分のスペースが空いた水槽の前に立つ。
館内にあふれているざわめきは確実に耳に入っているのに、目の前に広がる青の中に吸い込まれていくような錯覚に陥っていく。
「綺麗だな…まるで海の中にいるみたいだ。」
そう言って目の前に大きく広がった水槽の中で、ゆるやかに旋回を繰り返すジンベエザメや魚の群れを見つめる琉夏くん。
「ね?私もそう思った。光が射し込む造りになってるから、海の中から水面を見つめている感じになるよね。魚たちも気持ちいいんだろうな…綺麗…。」
何時間でもずっと見ていられるほど落ち着く光景。
綺麗なヒレを優雅に揺らしながら泳ぐ魚に見とれていると、周りの音量がゼロになったように遮断された。
深い海の底というのは、今私が感じているようなところなのだろうか。
光も届かないような深い海の底の静けさが私を包む。
普段は海を見ても特に何も思わないけど、こういう場面に出会ったら沖縄で生まれ育ったことを実感して、当たり前のようにある海や自然に感謝する。
我ながら現金な性格してるな、と口元が緩むのを感じた。
どのぐらい無心になって見つめていたんだろう。
気がつくと、琉夏くんが私の方を見つめてほほ笑んでいた。
「あれ…琉夏くん、私いつからぼーっとしてた?ごめんね、早く次のところに行きたかったでしょう?」
ほほ笑みながら、ふるふると頭を横に振る琉夏くんに海の色が映ってそれはそれはとても綺麗で。
「ダイジョブだよ。奏はここが大好きなんだな。見てるときいい顔してた。食べちゃいたいくらいのね。」
「た、食べちゃいたいって何!なんで照れないでしれっとそんなことが言えちゃうのよ。」
「だって、ホントのことだもーん。ほら、そろそろ動こ?行くよー。」
「あ、琉夏くん、ちょっと待って。」
そう言いながら、慌てて琉夏くんの背中を追いかけた。