【第六夜 泣き虫耐久ゲーム】




「コーデリア、お腹はすいてなぁい?」




紅覇様はわたしを呼びつけて、開口一番そう告げた。


夕暮れの、赤い太陽が地上から姿を消す時。夜の闇は目前に迫ってはいるものの、夕ご飯を食べるのには少々時間が早かった。




しかし不思議なもので、問われれば途端にわたしの腹の虫は騒ぎ出した。



「おまえは卑しいねぇ。待ってて、ご飯運ばせるから〜」


「紅覇様!お部屋で召し上がるのですか?」


「え、そうだけど〜?」



キョトンまん丸い瞳をわたしに向ける。


昨日も今朝も、宮廷の一階にある大きな使用人用の大食堂にて食事をとっていた。




紅覇様は使用人を呼びつけて一言二言交わすと、すぐにわたしのところへ戻ってきた。



「コーデリアおいで」


「はい、紅覇様」



おそばによればいい子いい子と頭を撫でられる。

紅覇様がわたしの頭を撫でてくださるこの行為は、実はとても気に入っているのだ。




「僕の隣に座っていいよ〜!」


「いいのですか?わたしなんかが…」


「おまえだから許してるんだよ。それ以上何か言うようだったら…、わかってるね?」



にっこりと幼子のような無垢な笑顔で微笑んだにも関わらずその意味は背筋が凍りそうなほど残虐な意味を持つ。



「あははっ、おまえは飽きないよ〜」



ニコニコと笑う紅覇様の隣でわたしはそっと息を潜めるのだ。


***








並んだ料理の数々に圧倒された。

わたしの祖国でさえこんなに豪華な料理はみたことはなかった。




「すごい…!わたしこんなに美味しそうな料理始めて見ましたっ」



「そう?そういってもらえると僕も嬉しいな〜」



みているとよだれが口の中に溢れてくる。

ああ、わたしは紅覇様のおっしゃる通り、卑しいのかもしれないなぁ。



「でもね、コーデリア。僕は勝手に食べていいっていってないよ〜?」


「…え、」


「ほら、ぼーっとすんなよ」



隣でいっただきまーすと陽気に声をあげる紅覇様。わたしはその姿を乞食さながら物欲しげな目で見つめる、わけにはいかず。

テーブルの上の料理達にただ恨めしく視線を送るだけだった。





「コーデリア、何が食べたい?」


「…食べてもいいのですか?」



「だ〜め!いいから早く言ってよ」



「あの、美味しそうなチンギスカンが……食べたい、です」



「そっか。じゃあ口あけてごらん?」




そしてなんと紅覇様はわたしの口元へご飯を運んでくださったのだ。

わたしは何が何だかわからず赤面しながらありがとうございますと小声で言うのが精一杯だった。




「やっぱり面白いねぇ。ほら、他には何が食べたいか言ってみてよコーデリア」



「紅覇様その…恥ずかしいです…」



「恥ずかしい?ならもっと食べさせてあげるよぉ。こっちのお魚も美味しそうだから、はい。口開けて」


「ん、」



「よくできました」



ああ、なんでこんな展開になってしまったのだろうか。


わたしはこんなに美味しい料理を紅覇様に食べさせて頂いているのに、この後きっと何か悪いことが起こるんじゃないのかと恐れている。



でも、やっぱり。



そうは言っても、

楽しそうに笑う紅覇様をみていると、この後どんなことが起ころうと、それすらも幸せに思えてくるのだった。