― 堕天使は人間に恋をする ―
〜 T. Time of depart 〜










 天使と人間の間に産まれた 伝説の子。


 彼女に出逢う為に
 彼女を愛する為に

 俺はこの生を受けたんだ。


 例え、それが 神の掟に歯向かう行為だとしても、
 例え、これが 定められた運命に逆らう行為だったとしても、

 俺は 彼女に恋をする。









 念願だった、十八歳となる 今日 ―― 。


 天界では、十八歳と云う年齢こそが 成人。
 成人を迎えた者は 諸段階として、下界を見回りに行く事が出来る。

 そこで、天使としての使命。
 神のもっとも愛する人間を 幸せにする事。
 僅かでも 幸福を感じた人間がいれば、一人前の天使として 認められる。


 悟空は、どれ程 この日を楽しみにしていた事か。

 幼い頃から 周囲の一人前の天使とされる 仲間に、
 下界の話を聞かされては、嫉妬にも近い羨ましさを感じていた。


 期待に胸を躍らせる 悟空に、
 育ての親である 孫悟飯は 一抹の不安に駆られた。



 「 悟空よ、もう一度 聞け。」

 「 ん? なんだよ、じっちゃん? 」



 年齢こそは 成人したものの、
 悟空の性格と云えば、天真爛漫で好奇心旺盛な 子供を描いた様な性格の持ち主。


 孫悟飯は 咳払いをし、悟空を真剣に捉える。



 「 いいか、悟空。
   お主は 神に選ばれた 天使だ。分かるな?
   このまま鍛錬を重ねれば、お主は 神の後継者としても優秀な能力を秘めておる。
   今回 下界に行く事で、くれぐれも 人間に対し、情を持ってはならない。
   特に、人間の女子に恋など しよったら … 。」

 「 じっちゃーん、オラ その話は 聞き飽きたぞー。
   それによ、云ったろ?
   オラ、その恋っちゅーんは、苦手だし 興味無ぇんだって、」



 呑気に ヘラヘラと 笑っている悟空。

 どこまでも 深く考えない 楽観的感性は、
 良い所でもあるのだが、信用し難い面では 悪い所だ。



 彼、孫悟空 と云う名を持った この天使は、神によって選ばれた者。

 優秀な天使である父 バ―ダックと、
 下界に住む人間である母 ギネから 産まれた伝説の子。

 天使が神の子である様に、
 神に近い存在である天使と、元 人間だった神である 人間との血が混じり合うと、
 どうやら、神に近い能力を秘めた、天使が産まれるのだ。

 神話の言い伝えでしか 語られる事のなかった存在が
 現に 彼の父は、神の掟に逆らい 堕天使と成り果て 天界を追放され、人間(彼の母)と共に処刑された。
 しかし、残された子である悟空は、神に近い能力を引き出す為に、神によって 生かされた。


 勿論、天界において、掟破りの子であるが故に、気に喰わない者も多数居るのだが。



 「 し、しかしな、悟空、
   お前さんの父も そう云っておったのにじゃな、」

 「 大丈夫だって、そんな心配ぇすんなよ。」



 伝説の子である、悟空は、
 優秀な天使の子でもあるからか、天使としての力は 群を抜いて 兼ね備えているが、
 どうも 人間の子でもあるからか、他の天使にも比べて、とにかく 優しく 情が厚い。

 だからこそ、不安なのだ。

 父 バ―ダックと同じ道を歩みそうで、
 人間の女子に恋をすれば、間違いなく 情を取る事だろう。


 孫悟飯は、不安に駆られつつも、
 悟空の云う事を信じねば、と云う想いで 笑って見せた。



 「 よし、悟空の云う事だ。信じねばな。」

 「 おう、任せとけ! 」



 天使には 似付かない、
 ニカッ、と 心底 明るい笑顔を見せる悟空。


 しかし、気になるのは ―― 。



 「 …… 悟空よ、そのお主の格好は 一体なんなんじゃ?
   下界に行くのであろう。わしが渡した 服はどうした? 」

 「 あぁ、あの白いヒラヒラしたやつか?
   オラ、あれ 着たくねぇ、鬱陶しいしよ。」

 「 い、いや、だがなー …。」

 「 まぁまぁ、固ぇ事 云うなよ。
   別に この服装なら 人間にだって バレねぇだろ? 」



 悟空の姿と云えば、
 天使としては 相応しくない、山吹色の胴着に身を包んでいる。

 彼にとっては、山吹色の胴着が正装なのだろうが、
 天使としては、純白に包まれた服装こそが 正装なのだ。


 孫悟飯が思い悩んでいれば、悟空は 支度も済ませ、下界を覗き込む。



 「 じゃあ、じっちゃーん!
   オラ、行ってくっからなー! 」

 「 … あっ、待つんじゃ、悟空っ! 」



 叫ぶ様に、制止したものの、時既に遅し。

 悟空の方が 一足早く、
 孫悟飯が呼び止めた時には 下界の空へ飛び立った後だった。



 「 … あやつ、本当に 大丈夫なのかの 。」



 楽観的な悟空に 一抹の不安を抱えながらも、
 何事にも執着や固執はしてこなかった 悟空の事だ。


 孫悟飯は 悟空の無事をただ只管に祈りを捧げるのだった。










 この時 感じた、一抹の不安が 的中する事も知らずに ―― 。





― NEXT ―






堕天使は人間に恋をする
〜 T. Time of depart 〜






2016.02.17




.
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -